伝統的な技術や技法をご紹介する連載企画「匠のお仕事~因州和紙編」。初回は「1.原料の下処理」工程を見ましたが、第2回目の今回は、中原寛治さんに、「2.煮熟」、「3.精選」、「4.叩解(こうかい)」の各工程について解説していただきます。
原料の 下処理 |
煮 熟 |
精 選 |
叩 解 |
配合・抄紙 |
圧搾・脱水 |
乾 燥 |
二次加工 ・仕上げ |
(1)煮る(煮熟)
乾燥させた原料を水でもどした後、薬品に強い鋳鉄製の釜に水を張り、ソーダ灰、苛性ソーダなどを入れてアルカリ性にして煮ます。昔は木灰や石灰を使っていました。
煮るために必要な時間は原料や用いるアルカリの種類によって異なりますが、楮では2~3時間程度をかけて煮熟します。
このときさつま芋をふかした時のような、甘くて美味しそうな匂いが作業場を満たします。
三椏、雁皮はジンチョウゲ科の植物で、楮を蒸す時ほどの甘い匂いは出ません。
(2)再び水に晒す
煮る作業を経たことで水に溶けやすくなった成分(ペクチン、リグニン)を流水にさらして除きます。
これらの工程は、皮の繊維を繋ぐペクチンとリグニンという物質を取り除き、セルロース(繊維素)だけを原料として利用するために行います。
「煮熟」
(3)精選
「塵より」とも呼ばれ、ごみを取ることです。
煮熟した原料のひだを広げ、残っている小さな木の皮や塵などの不純物を手作業で根気強く取り除いてきれいにします。
水の中でする「水より」、水からあげて行う「陸(おか)より」と呼び分けることもあります。
(4)白く晒す(漂白)
容器に水を張り、さらし粉、塩素水などを入れて白くします。白くなった繊維はよく水洗いをし、漂白剤の成分を落とすことが大切です。
昔ながらの、雪や川に晒して太陽の力で白くする方法もあります。
(5)精選
漂白後、さらに「塵より」の作業を行います。この作業を工程の中に何度か挟むことで、原料の純度が上がります。
「塵より」と「かごなで」は地味で労力のかかる作業ですが、品質管理が厳重になった現代では、気を抜くことができない重要度の高い工程です。
原料の 下処理 |
煮 熟 |
精 選 |
叩 解 |
配合・抄紙 |
圧搾・脱水 |
乾 燥 |
二次加工 ・仕上げ |
(6)叩解
「叩解(こうかい)」、「打解(だかい)」などの作業は、原料の繊維をほぐすために行います。
固く網のようになった原料を棒で叩き、繊維をより細くほぐしていきます。
ここでしっかりほぐしておくと、紙を漉く際に原料繊維同士が絡みやすくなり、紙の強度が上がります。
「ビーター」や「打解機」という機械を使うこともあります。
|
機械の紹介「ビーター」と「打解機」 |
|
「ホレンダー型ビーター」
短繊維の原料(三椏、雁皮)を叩解するための機械で、元はヨーロッパで洋紙用に開発されたものでした。 歯車のような歯と歯の間に原料を通過させることによって、繊維を分散させます。 |
|
「なぎなたビーター」
長繊維で節のある原料(楮)を叩解するための機械です。日本で和紙用に開発されました。 なぎなたのような長い歯がついていますが、繊維をカットするのではなく、一本ずつ縦方向にバラバラにするためのものです。 |
|
「打解機」
棒で叩くのと同じ原理で、モーター付きの杵のようなものを高い位置から振り下ろし、原料をほぐします。 | |
【参考】
「鳥取県 因州和紙 青谷/佐治」
佐治因州和紙協同組合・因州和紙青谷協同組合編
「鳥取県の伝統工芸品」
鳥取県商工労働部通商観光課(平成元年3月発行)