美術評論家の柳宗悦(やなぎむねよし)らよる民芸運動の精神である「用の美」を継承する窯元が鳥取には多数あります。なぜなら、柳らに影響を受け、鳥取地方の民芸運動指導者になった吉田璋也(よしだしょうや)が陶磁器から木工まで数多くの職人を育て、支えたからです。このコラム「第4回ちょっと民芸しませんか?その四」でも少し紹介しています。
特に陶磁器では、吉田は「五郎八茶碗」との出会いから、牛の戸焼の商品開発、販売などの支援を惜しみませんでした。さらに柳や陶芸家の河井寛次郎(かわいかんじろう)たちを始め、バーナード・リーチも牛の戸焼を訪れ、指導をし、試作品を残しています。
吉田が考案した黒と緑色の釉薬を大胆に半分に塗り分けた「染分け」の作品は、今でも牛の戸焼の代表的な作品として、作り続けられています。また、「リーチ杯」と呼ばれる西洋風の手付き杯もリーチの指導により作り始められました。この伝統は引き継がれ、登り窯と土にこだわり、六代目が作陶に励んでいます。
一方、吉田らによる牛の戸焼の再興は、後継者育成にも貢献しました。因州中井窯、喜和井焼、扇山窯、黒見焼が育ちました。
<因州中井窯 縁抜染分角皿>
なかでも、因州中井窯では、吉田が指導した作風を下敷きに、世界的な工業デザイナー柳宗理(やなぎむねみち)による指導で製作された「柳ディレクションシリーズ」の作品が幅広い年齢層のお客様に好評を博しています。ここでも吉田が考案した「染分け」のデザインは継承され、二代目・三代目の努力のおかげで、因州中井窯の代表的作品になっています。近年、三代目は、日本を代表する公募展に入賞するなど輝かしい活躍をしています。
牛の戸焼で修行し、独立した窯に喜和伊焼と扇山窯があります。
喜和伊焼は「用の美」の精神を引き継ぎながらも、民芸とは違った作風で、日常に使う食器や花器を中心に作っていいます。かわいいフクロウの絵付けが特徴のコーヒーカップからおとぎ話に出てくるような洋館の小さな置物などがあったり、ワラ灰釉薬を使った乳白色でシンプルな形の食器や渋い青銅器のような古色が印象的な花器まで多彩な品揃えです。足で蹴って回す伝統的なロクロを使うなど伝統技法にもこだわっています。
<扇山窯 石型のうつわ(小皿) >
扇山窯は柿の産地にあり、柿の枝の灰を利用した釉薬と独特な造形が特徴です。この釉薬は乳白色ながら青みがあったり、白みが強かったりいろいろと変化するなかなか奥深い釉薬だそうです。扇山窯は、近くの八東川の石を型に利用した器など遊び心が楽しい独自の造形を創作しています。
<黒見焼 モーニングカップ>
因州中井窯で修行し、独立した黒見焼は、民芸風の日常雑器から伝統的な茶道具まで幅広い種類の器を作っています。どの作風の作品も手にとり、触ってみると、しっかりした技術に裏付けられた几帳面な仕上がりで、熟練の年月をさりげなく感じさせてくれます。
牛の戸焼をルーツにしながらも、いろいろな様式、分野に発展していく後継者たちですが、やはり「用の美」の精神は貫かれています。「用の美」の遺伝子は絶えることなく、これからも鳥取の地に生き続けていくことでしょう。 次回も吉田璋也に影響を受けたの窯元の紹介です。