鳥取民藝美術舘にて開催されている企画展「鳥取民藝運動の軌跡」の今回の展示会の見どころを当美術館学芸員 尾崎麻理子氏から紹介していただきます。最終回は陶磁器です。
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鳥取民藝美術舘 企画展「鳥取民藝運動の軌跡」からその3
○陶磁器
新作民藝運動を行った窯は牛ノ戸窯が最もよく知られています。
それは吉田璋也(よしだしょうや)が昭和6年に牛ノ戸窯の古い五郎八茶碗を見つけたことから、この窯を訪ね、窯元の小林秀晴を説得し、新たなやきものを生み出したことが運動の始まりとされているからです。
鳥取県内では中井窯、浦富窯、岩井窯、島根県では出西窯、また一時的に係っていた場合や、その後独立したところなども含めるとかなり多くの窯が影響を受けています。中でも運動の中心を占める中井窯は、今まで牛ノ戸窯とかなり似通った形で紹介されてきました。
大鉢 坂本實男(さかもとちかお)氏(中井窯)作
しかし、平成17年度鳥取県所蔵品調査活用支援事業による調査によって、璋也がそれぞれを異なる形で指導していたことがわかってきました。
当時中井窯は、璋也からの指導により浦富付近の陶石を用いて白い生地のやきものを生産しました。後日璋也が「私は不慣れな紋様を絵付けすることは堅く禁じた」(『民芸手帖』昭和35年10月号)と語るように、形を重んじたため、梅や菖蒲、芦雁文などの古い図柄以外はあまり見られなかったのですが、実際は彼の指示によって様々な技法の研究が行なわれており、坂本實男(さかもとちかお)氏(中井窯)にご協力いただいて所蔵品の検証を進めたところ、上絵付けの赤絵、スリップウェア、浜田庄司の柄杓を用いた技法、河井寛次郎の打薬技法などが行われていたことがわかりました。柿釉のような赤茶の釉薬は瓦と同様の釉薬であり、鳥取の原材料で様々な模索が続けられたことが明らかになりました。
牛の戸焼などの展示
出西窯については多々納良夫氏に見ていただき、当館の所蔵品をもとにして、新たな製品を作り出したことなどを教えていただき、この度の陳列となりました。
璋也は鳥取民藝美術舘の所蔵品を撮影し、丁寧に和紙に張った図版を窯元ごとに作り、それらを渡して形や色の重要性を説き、謙虚に古典に学ぶことから現代の暮らしに会う器を作り出すよう促したのでした。
「健康で素直な心で作ること」をなによりも重んじた鳥取民藝運動。
現代のものづくりだけでなく、人間の生き方にも通じるものを感じます。この展覧会が鳥取民藝運動研究の一助となることを心より願っております。
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鳥取民藝美術館は、ゆっくりとうたた寝でもしてしまいそうな、たおやかな時間が流れているような癒しの空間です。この機会に是非お訪ねください。