第48回県史だより

目次

戦時下の「鳥取県公報」

 2010(平成22)年4月の組織改正で県立公文書館を所管する部署が、総務課から政策法務課に替わりました。政策法務課は条例や規則など県内に適用される例規類を審査する課ですが、そうした例規類は公布という手続きを通じて県民の皆さんに周知されます。公布の方法は、通常、県が発行する機関紙『鳥取県公報』(以下、『県公報』)への掲載というかたちがとられています。『県公報』第1号の発行は1929(昭和4)年4月2日。以後、火曜日と金曜日の週2回発刊されています 。(注1)

 現代部会では現在、戦前の『県公報』に掲載された記事の件名のデータベース化に取り組んでいます(鳥取県歴史情報データベース作成事業)。2009(平成21)年11月に作業を開始してこれまで1929(昭和4)年から1941(昭和16)年まで計13年分の入力が完了しました。これによって、特定の条例の公布から改正、廃止にいたる経緯を追うことや、県が行った許認可事項や各種統計類を項目別に検索することが容易になります。当館のホームページに掲載している「『鳥取県公報』にみられる満蒙開拓関係記事目録」は本データの活用例です。

昭和14年彙報の増加と「事変特報」の発行

 『県公報』に収録された記事の数は刊行直後は年間500件程度でしたが、次第に増えていき、昭和15年には2,000件を突破します。件数を押し上げた要因の1つに「彙報」の増加が挙げられます。そもそも『県公報』に登載するべき例規類の種類は、「県令・条例・規則・訓令・告示・公告・告諭・示達・彙報」の9種類と定められ (注2)、「彙報」は他の項目と違って、月々の人口動態や伝染病患者数、行旅死亡人などの統計情報を主に掲載する比較的地味な欄でした。しかし、1937(昭和12)年7月に日中戦争が起こり国民精神総動員運動が開始されると、「彙報」欄にはしだいに軍の工廠要員や満蒙開拓団の募集、米や蚕の予想収穫高などの数値が掲載され始めます。そして、1939(昭和14)年4月28日発行の第1024号からは、時局関連の記事だけを集めた彙報の別冊『事変特報』が発行されるに至ります。

鳥取県公報中の記事件数の推移(昭和4~16年)

鳥取県公報中の記事件数の推移の写真

※昭和4年は4~12月の件数

国民精神総動員と『事変特報』

 『事変特報』の発行目的は「国家総力戦に緊要なる関係法令の解説とか、政府又は県の諸施設の説明とか、其の他種々の事項を集載して、事変関係事務処理上の参考資料たらん」(注3) ことでした。表紙には、「日の丸」に空飛ぶ飛行機と銃を持つ兵士の手が描かれ、国民精神総動員運動のスローガンである「挙國一致」「盡忠報國」「堅忍持久」の文字が並びました。

事変特報』の表紙の写真

『事変特報』の表紙。日の丸と飛行機と銃を持つ兵士の手が描かれている。

 その第1号には副見喬雄知事による発刊の辞に続き、法律改正や新制度の説明、選挙啓発、勤労作業の告知など、人的・物的動員を行うための幅広い記事が掲載されました。記事の余白には「足らぬ資源も工夫であまる」「化粧するより日に焦げよ」「体鍛へて國肥せ」などの国策標語がおどりました。物資が不足するなか県民が力を最大限に発揮し、戦争に協力することが求められました。

「事変特報」第1号収録内容

事変特報発刊に当たりて
警防団令の逐条解説
郵便年金法の改正に就て
護国神社の制度確立に就て
銃持つ心で一票報国
千代川廃川埋立地甘藷栽培団体勤労作業
農業報国聨盟鳥取県支部結成式
養兎報国の奨励

 『事変特報』は全98号を刊行し、昭和16年3月28日付第1219号の「県公報」をもって廃刊となります。しかし、その後も「県公報」掲載の時局関係の記事は減少するどころか、「彙報」欄はますます拡充され(一部は大政翼賛会鳥取県支部の機関紙にも受け継がれたとされます)、国家総力戦遂行のための民衆動員の一翼を担っていきました。

 今回は、歴史情報データベース作成事業の途中経過から、「県公報」が戦争に果たした役割について記してみました。

(注1)これ以前の公布方法は、掲示、毎戸回達(回覧)、新聞掲載などの方法がとられていた。なお、明治以来の県例規の変遷と保管状況については、谷口啓子「鳥取県例規の変遷」(『鳥取県立公文書館報』第12号、平成14年度)を参照。

(注2) 昭和4年2月9日鳥取県告示第30号

(注3)「事変特報の活用について」(『鳥取県公報』昭和14年5月12日第1028号)

(西村芳将)

最近の活動から:刊行物4種類頒布開始

 この2010(平成22)年4月13日には、鳥取県史ブックレットの第5巻『江戸時代の鳥取と朝鮮』および第6巻『子どもと地域社会-鳥取の民俗再発見-』、新鳥取県史手記編の第2弾『戦後復興と昭和の暮らし』、同年4月22日には新鳥取県史編さん事業の中心的成果となる『新鳥取県史資料編』の第1弾、新鳥取県史 資料編『近代1 鳥取県史料1』 と、4月中に4種類の県史関係刊行物の頒布が始まりました。

 これらの刊行物については、すでに図書館等各機関への配布をしており、県立公文書館や県庁県民課、県の総合事務所県民局にて有償頒布をしております。なお、それぞれの内容や購入方法などは、このホームページの「刊行物」コーナーでもご紹介しておりますので、そちらをご覧ください。

県史資料編近代1の写真

新鳥取県史編さん事業の最大の成果となる『新鳥取県史資料編』の第1弾、『新鳥取県史 資料編 近代1』です。

県史刊行物の写真

これまでの県史関係刊行物を並べてみました。ブックレットが6巻、手記編が2巻(3冊)、資料編が1巻と、かなり数が増えてきました。

活動日誌:2010(平成22)年3月

1日
第2回県史編さん専門部会(民俗)開催。
2日
第2回県史編さん専門部会(近代・現代)開催。
3日
資料返却(鳥取市埋蔵文化財センター、湯村)。
4日
民具調査(湯梨浜町泊歴史民俗資料館、樫村)。
6日
県史編さん協力員(古文書解読)東部地区月例会(県立博物館、坂本)。
7日
県史編さん協力員(古文書解読)中・西部地区月例会(倉吉市・米子市、坂本)。
両墓制調査協議(大山町豊成、樫村)。
8日
第2回県史編さん専門部会(近世)開催。
中世史料調査(~11日、天理大学附属図書館・石水博物館・神宮文庫・愛知県史編さん室、岡村)。
9日
近世資料調査(倉吉博物館、坂本)。
11日
民具調査(湯梨浜町泊歴史民俗資料館、樫村)。
12日
資料借用(鳥取市用瀬郷土歴史館、湯村)。
13日
民俗調査(岩美町、樫村)。
14日
古郡家1号墳墳丘測量調査(~16日、鳥取市古郡家、湯村)。
15日
民俗調査(~16日、鳥取市気高町・三朝町、樫村)。
18日
第2回県史編さん専門部会(考古)開催。
24日
25日
資料調査(鳥取県人権文化センター、西村)。
民具調査(湯梨浜町泊歴史民俗資料館、樫村)。
26日
第2回県史編さん専門部会(古代中世)開催。
資料返却(鳥取市河原歴史民俗資料館、湯村)。
31日

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編集後記

 平成22年度4月から「県史だより」が少し新しくなりました。今までほぼ毎号掲載していた室長コラムを不定期化し、最近の活動を伝えるコーナーを新設しました。室長コラムを愛読されていた方は残念かもしれませんが、編さん室の活動がより伝わるようにしていきたいと思いますので、新コーナーにご注目ください。

(樫村)

  

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