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三人の娘の婿(大山町高橋)

昭和58年(1983)7月17日、大山町高橋で採集

語り
 なんとなんとあるところに昔があったげなわい。そして娘が三人いました。
 一番上の娘さんは「おらは法印さんとこに嫁になって行かなならん。」と言っていたそうです。法印さんというのは位の高いお坊さんのことです。
 しかしながら、お父さんやお母さんは「そげなこと言ったって、われ、法印さんがもらってごしなはらにゃ行かれんわや。」と言っていましたら、そのうち法印さんがその娘さんを嫁にもらいに来られたので、上の娘さんは法印さんの嫁になって行きました。
 また、二番目の娘さんは「おらは、神主さんとこーぉに嫁になって行きたい。」と言っていましたら、また、神主さんがもらいに来られて、それで神主さんの嫁になって行きました。
 ところが、一番下の娘さんは「おらは百姓家に好いちょうけん、百姓家へ嫁に行く。」と言っていましたら、そのうち百姓家に嫁にもらわれて行かれました。
 あるとき祭りが来て、みんな婿さんたちが呼ばれに来ました。
 上二人の婿さんである法印さんや神主さんは、ともにとても気さくで、よく歌ったり踊ったりされるのに、いつまでたっても百姓家の婿さんは黙ったまま、何にも芸をしようとはしません。そこで姑さんが気が気でないものですから「こんた(貴方)、もう、なんなと芸しっさいな。他の婿さんはみな芸しっさあに。」と言ったところが、百姓家の婿さんは、いきなり「ほんなら、かかさん、手拭とトーシと出いてごしなはい。」と言ったそうです。トーシとは木の丸い枠に金網を張ったもので、穀物をふるい分ける道具のことです。
 それから、姑さんが、トーシと手拭と出してやりました。そうすると、この三番目の婿さんは尻からげをして、そうして、トーシをおろすまねをしながら、大きな声でこううたったそうです。

 一番ド-シのその下は おん殿さんにさしあげる
 二番ドーシのその下は われわれなんどの飯糧(はんりょう)だ
 三番ド-シのその下は 神主、法印にやる米だ
 アー ソーリャ ソリャ  ソーリャー ソリャー

 こう歌ったそうです。
 そうしたところが、神主さんや法印さんも、完全に参ってしまって、とうとうシブシブシブシブ逃げて行かれたので、それで一番下の娘さんの婿さんが一番に勝たれたそうですと。
 その昔こんぽち、ごんぼの葉、あえて噛んだら苦かった
。(語り手:明治30年生まれ)
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解説
  昔話ではよく三人娘とか三人兄弟とかが出てくる。そしてその中でも末っ子が中心となっている。「蛇婿入り」や「猿婿入り」の昔話で登場するのは、三人娘であり、蛇とか猿の嫁になることを承知するのは末娘に決まっている。そしてそこから話が本格的に展開している。このように使われている三という数字は民間信仰上、聖なる数と考えられていた。この「三人娘の婿」の場合も同様である。末娘の婿は普通の農夫である。社会的に見てまさに対照的な両極にある立場を提示した後、話は進み、祭りで実家に招待されたそれぞれの婿の描写がおもしろい。この歌にこめられた農夫の心意気は、同時に昔話を愛した多くの庶民のそれでもあることはいうまでもない。人々は、このようにして農夫に自分の姿を投影させて、その勝利に喝采を送っていたと思われる。


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