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旅人馬(智頭町波多)

昭和62年(1987)8月23日、智頭町波多で採集

語り

 昔あるときに、何の心配もない財産もあるよい家があり、この家には一人の子どもがあった。また近くの貧乏な家にも一人の子どもがあったが、この二つの家の子どもがとても仲が良くて、どこへ行っても二人はいっしょだったそうな。それから、二人がときどき話し合っていたそうな。「まあ、大きくなったら、ちょっと旅に出(じょ)うや。」「そうしよう。」家の人たちも「それもまあ、身の修行になるわ。ほんなら、おめえら出いや。」と賛成して、旅に出ることになった。
 旅へ出るといっても、仲良しなのでもちろん二人いっしょで出かけることになったそうな。
 そして、金持ちの家の子どもは小遣いもしっかり持たせられるし、難儀な家も承知して、それは少しだっただろうけれど小遣いを持って出た。
 二人は連れになって出たところが、ある宿屋に泊まることになった。
 そうして夜、二人が寝ることになった。金持ちの子どもは、何といい調子で布団に横になると、ぐっすとり寝込んでしまうし、一方、貧乏な家の子どもは、どうしても眠れないので、むっしりくっしりむっしりくっしりしていたら、夜中に女中かそこの奥さんか知ららいけれど、ぺりりぺりりぺりりぺりりといわせて畳を踏んで来たと思ったら、ひゅっとその間の襖を開けて入って来て、そして何か持って出て、それで火箸できれいにきれいにずっ-っと囲炉裏のごみをみんな取って、そして何にもないようにしたところへその持って出たごみをぱらっと稲をまくようにまいて、そして、それを灰をかけてつるっとならしたところが、もう、見る間に、そこに籾(もみ)が芽を出したと思ったら、さーっと大きくなって穂が出たそうな。
 そうしたら、その女の人はその穂を刈り取って、稲こきでこいで米にするわ、粉をひいて団子にするわした。
 朝、二人が起きてみたところ、その団子がご飯の茶碗に入れてあるものだから、金持ちの子は食べようとする。
 しかし、貧乏な家の子はその子の膝をむしったりたたいたりして、何とかしてこれは食べさせまいとするけれど、金持ちの子は一向に気づくことはなかった。そして、とうとう金持ちの子はその団子を食べてしまった。
 すると、その子はすぐ馬になってしまって、
「ヒヒン、ヒヒン。」と言うばかりだそうな。そしてそこの男が、その馬に綱をつけて厩(まや)へ連れて行って入れてしまったそうな。
 朝起きるとすぐに、その馬を厩から出して田圃をすかせ、そのようにしてたくさんの田圃を次から次へすかせていたそうな。 貧乏な家の子どもの方は「これはどげえしようもねえ。」と思って、自分はその団子を食べなかったから、人間のままで「何とかこの家の隙をみて、仲間を助けてやろう。」と思いながら、そこの宿屋を出て先へ先へ行っていたら、一人のおじいさんがおられたそうな。そしてそのおじいさんが「どこ行きよるじゃ。」とその子に言われたそうな。
  するとその子は「実はこうこうじゃ。」って話したら「そうか、それじゃあなあ、その馬がなあ元の人間にもどすよい方法を教えてやろう。これから一反畑があるけえ、その一反畑に茄子(なすび)がいっぱいこと植えてある。その中で東に向いて七つなっとる茄子を持ってもどって、その茄子を七つ食わせたら人間にもどるじゃで。」って言われたそうな。
 それからその子が言われたとおり、そこへ行って一反畑を見るけれども、なかなか都合よく茄子はなっていない。例えば四つや五つはなっているけれど、七つ並んでははなっていない。それからまた先へ行って、それからまた一反畑をずーっと調べてみるけれど、どうにもまたこれ六つまではなっているけれど、七つはなっていない。
 しかし、その子は東に向いた茄子の木をどうにかして見つけようと思って、それから、もう一つ先に行ってみようと思って、またとっととっと歩いて行っていたら、また、一反畑に茄子がなっていたので、東に向いたのだけ一本一本、調べよった。
 そうしたら、やっとのこと、案の定、東に向いて七つなっている茄子があったので、それを取って、そうして宿屋までもどって見たら、馬が痩せこけた痩せこけた姿になっていた。ちょうど今追ってもどられたとこだったようで、綱を離されても、「ヒンヒン。」よりしか、ほかのことは何にもよう言えないそうな。それだから、貧乏な家の子は「うん、よかった。間におうた、間におうた。」と言って、そいから、茄子を一つ食わせ、二つ食わせ、三つ食わせ、四つ食わせ…とむちゃくちゃに馬の口へ入れて食わせていったら、その馬はもう五つ食べたら頭(かぶり)を振る、また頭を振る、どーうしても頭を振って食べないので、そいから、貧乏な家の子はよく絵解きをして教えてやって、その首をなぜてやり、またなぜてやりして、やーっと六つ食わして「やれやれ。」と思って「まあもう一つじゃけえ、がんばれえ。」と言った。
 そして馬の喉をなでたり、首をたたいたり、頭をなでたり、顔をなぜたりいろいろとした。「もう一つがんばれ。これを七つ食わにゃあ人間にもどれんじゃで。」と言って、その友だちが一生懸命に、馬をあちこちなでてなでて、喉まで手を入れて無理に茄子を押し込んで、とうとう七つ目の茄子を喉から腹へ入れたと思ったら、ころっと馬は人間になったそうな。「まーあ、よかったで、おまえはほんに、やれ、よう食うてごした。よかった、よかった。」と言って喜んで、二人がまた出たときの準備を同じようにして、無事に家へ帰ったそうな。家の人たちが「ちいたぁおまえらぁも歳がいったじゃけえ、修行してきたか。」と言ったら「修行してきた。修行したって、まあ、こうこうこいうわけで、難儀な目に会うたけど、ほんにお父さん、この友だちがええ友だちで、こうこうしかじかじゃ、こうしてくれたじゃで。」て言うたら、お父さんは「そうかそうか、そげなことがあったじゃか。おめえに、ほんなら助けられたじゃなあ。おめえが助けてごさなんだら、ほんなら、馬で一生、立てていかにゃならんじゃっただなあ。」と言った。
 息子も「そうじゃが、お父さん。一生馬で立っていたら、朝から晩まで田圃に追い出されて、けつうぽんぽんしわがれて、ほんに辛い辛い目じゃったじゃで。」と言った。お父さんが「まあ、よかった、よかった。ほんにこれでよかったけえ。これがしてくれなんだらなあ、おめえは一生馬で暮らして、うちは立たんことじゃけえ、財産は半分こじゃぞ。半分こにして立てるじゃぞ。」と言ったそうな。
 そうして、大きな長者のような財産をまっ二つにして、その友だちに半分やり、そいから、自分の子どもにも半分やりして、それでどちらもが安楽に生活できるようになったとや。そればっちり。(伝承者:明治40年生)
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解説

 山陰地方ではあまり類話に出会えない珍しい話である。


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