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一斗八升の米(智頭町波多)

昭和62年(1987)8月23日、智頭町波多で採集

語り
 昔あるときにねえ、暮らしが難儀なおじいさんとおばあさんとあったそうな。そうしたところが、毎日、暮らしが難儀なので、山へ木をこりに行って、その木をこって持ってもどり、そして、正月が来れば薪もいるものだから、毎日、木を負うて、おじいさんは売って回っていたそうな。そうしては米を買ってきたりして、日に日にがどうにか立っていたそうな。けれども、その木がいつも売れるというわけにはいかないから、売れ残った木を智頭の備前橋の上のようなところから「竜宮の乙姫さまにへんぜましょう(差し上げましょう)。」と言って、ぼーっと投げ入れたそうな。
 そうすると木はぐるぐると回りながら流れ、水に潜ったりしながら海へ出るようなことで、そういうふうなことで毎日過ぎていったそうな。
 そうしたところが、ある日のこと。おじいさんが帰ろうと思ってふっと見たら、「ちょっと待って。」と言う者がいる。それから待っていたところが、一人の男が現れたのだそうな。
「うら(自分)はなあ、竜宮の乙姫さんの使いで来たもんじゃが、毎日、竜宮では薪がのうて困っておるに、おまえが薪を毎日送ってごされてたいへんに助かっとる。それで乙姫さんが『これをやれ』言ってごされた。」と言って、打ち出の小槌をくれたそうな。
「この打ち出の小槌はなあ、何がほしい言うても、これ打ったら何でも出てくるで。そいでも限度があるじゃけえ、三つしか打たれんじゃで。」と言って、使いはおじいさんに打ち出の小槌を渡して消えていったそうな。
 おじいさんは、そういうことから打ち出の小槌をもらって帰りよったところが、ワラジが破けて履けなくなったから、ワラジをもらおうかと思い、どんなもんかと思いながらも「ワラジ一足…。」と言って、ちょっと小槌を打ったら、まーあ、よいワラジがひょっととんで出たそうな。おじいさんは「まあ、ほんに本当にたいしたもんじゃ。」と思って、そのワラジを履いてもどっていたところが「三つ、言われたけえ、もう二つ願われるじゃなあ。」と思いながら自分の家へ帰ったそうな。
 そうして帰ったのはよかったものの、毎日、薪をこりに行くのだからよい鉈(なた)がほしくなり、「ほんに、もう一つ振ってみよか。」と思い「鉈、一つ。」と言って、ぽーっと振ったところが、りっぱな金の鉈がひょいっと出てきたそうな。
「はーあ、まあ、たいしたもんじゃ。」と思って、おじいさんは金の鉈をもらっておった。そうしたら「もう一つじゃが、ばあさ、どぎゃあしようなあ。」と言ったところ、おばあさんが「おじいさん、食べる米がねえじゃがなあ。」と言ったので「ほんなら米をもらおうか。これから米を出そうかなあ。」そうおじいさんは言って「米、一斗八升。ばばあ。」と言ったところが、なんと美しいおばあさんがぴょこんととんで出てきたそうな。「まあ、二人が食うにさえ困っとるに、こぎゃあなきれいなおばあさんでもとんで出てきたが、困ったこっちゃなあ。」そうおじいさんが思っていたら、美しいおばあさんがちょこんと座ったまま、鼻の穴からぽろりぽろり米が出だしたそうな。
 まあそれから二人が不思議に思って見ていたところが、その美しいおばあさんが、鼻の穴からもこちからもこっちからもぽろりぽろりぽろりぽろりと米を出して、とうとう一斗八升の米がそこの座敷に積まれたそうな。
 一斗八升の米が群れになって座敷いっぱいになったと思ったら、そのきれいなおばあさんはそれきり米の中に溶けてしまい、いなくなってしまったそうな。そのおばあさんもまたみんな米だったのだそうな。
 それというのも、おじいさんが『ばばあ、一斗八升』と言ったから、一斗八升の米がおばあさんから出たのだそうな。そればっちり。
(語り手:明治40年生まれ)
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解説

 いたってのどかな話である。打ち出の小槌といえば、わたしたちはすぐに「一寸法師」の話を思い出す。鬼が忘れた打ち出の小槌を一寸法師が得て、その力で彼は一人前のりっぱな男に変身するのであるが、そのような打ち出の小槌は、昔話の世界では他の話の中にもこのようにちゃんと用意されていることがある。たとえば、以前、島根県鹿足郡吉賀町柿木村白谷で語っていただいた「カタツムリの息子」の話では、カタツムリの息子が妻となった酒屋のお嬢さんと氏神様へお参りに出かけ、最後に海の中から打ち出の小槌を拾って来て、それで家やたくさんの米を出して金持ちになる形で出ていた。
 ところで、この智頭町での話は、全国的に見るとかなり珍しいもののようで、関敬吾博士の『日本昔話大成』を調べてもその戸籍は見つからない。ちょっと珍しい話なのである。


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