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おりゅうと柳(智頭町波多)

昭和62年(1987)8月24日、智頭町波多で採集

語り

 昔あるとき、高山いうところに、おりゅうといってまことに器量のよい娘があったのだそうな。
 そうしたらまあ、高山を越えたところに大きなよい家があって、そのうちに女中に行っとったのだそうな。
 その高山の尾根に大きな柳があって、その柳の精(しょう)が、おりゅうがあんまり器量がよいものだから惚れてしまって、人間に化けて、毎晩、髪をきれいに結って、おりゅうに会いに行くのだそうな。
 そうするとおりゅうもまた高山の尾根の柳に会いに行くしして、そうしてあっちこっち心を交わしあっていたところ、年がたって、おりゅうがその高山の峠を越えて家に帰っていても、お互い毎晩会いに行くししていたそうな。そして、それでも事情があって行けないときには、大きな風が吹いて、その柳のざわめきの声やら音やらが聞こえたり、何とか木の葉が飛んできたりしたり、とにかく、まあ、毎晩のようにそうして心を通わしていた。
 ところが、ある日の晩、たいへんにいい男の侍が非常に青ざめておりゅうのところへ来たそうな。
「まあ、おめいは何ごとじゃ。今日はひどう青ざめて、もう生きた顔じゃあないなあ。」
「うん、まあ、そりゃあまあ、これまで親しゅうに毎晩会うてきたけど、今夜がしまいのような。

「そりゃどんなこってすじゃ。」
「いんにゃ、これでもう会えんも知らん。もうこれが終わりじゃがよう。」
「どんなこっちゃろうなー」とおりゅうも思っていたところが、そのころ、京の三十三間堂の普請が始まっていたけれど、その三十三間堂の棟木は、杉でもヒノキでもない、高山のあの柳でなけにゃあ、することができんということになったそうな。三十三間堂の棟木は差し渡しが八丈で、丸さが八丈まわっているが、それはあの高山の柳でないと間に合わないということになったのだそうな。
やがてのこと。その柳を伐るのは、一人や二人の杣(そま)さんではどうにもいけないので、あっちからもこっちからも杣さんの上手だといわれる人は、みんな呼んで来て、そしてその杣さんが、のこぎりで一日中柳を挽き伐ったけれども、とてもその柳が伐り倒せないので、
「また明日の仕事じゃ。」と言ってはもどり、また、
「今日もすんだ。」と思って行ってみるところが、その柳の幹はぴんと元どおりになっているのだそうな。
「これじゃあ困ったもんじゃ。一日かかってこれだけ伐って、ちゃんとして、まあ明日で残ったのを伐れると思うとるに、またまた元どおりになっとる。伐れるメドがない。」と言っていたそうな。
そうしたら、その杣さんの嫁さんが、まあ、どんなこっちゃろうなあ、何とか伐らせてもらいたいーと神さんに一生懸命に拝んでいたら、思いがかなったのだろうか、そのうちに神さんが枕神に立たれたそうな。
「杣さんが伐られる鋸糞も、コケラもなんにも、その場で大きな火ぃ焚いて、それをみんな灰にするじゃ。そうしたら、伐ることができる。」と言われたそうな。

それから「神さんがなあ、枕神に立たれたがよう。」と言って、
「それじゃあ。」ということで、そこで大きな火を杣さんの嫁さんが焚く。

この杣さんの嫁さんもあの嫁さんも、みんな大きな火を焚いて、鋸屑もコケラも何にも焼いてしまって、そしてみんなが帰って、あくる日そこへ行ってみたら、昨日、柳を伐っただけは伐れてしまっていた。それで、「ああ、なるほど、これで伐れるぞ」。と、みんなは喜んだそうな。

それから、いよいよ神さんのお告げだと思って、また明くる日も明くる日もそうして、やっとのことで柳を伐ってしまった。
そしてそれから柳を車に乗せて、おおぜいの人でその柳を京都へ運ぼうとしたのだそうな。
そうしたところ、どうにもその柳が動かない。樹齢何百年もしている柳なので、いかに引っ張っても簡単には動かないのだそうな。

そのうち、ある人が、「こりゃあ、柳の性がおりゅうに好いとって、おりゅうとあっちいいこっちい逢い引きをしよったじゃけえ、そのおりゅうを頼むこっちゃ。」と言って、そのおりゅうという娘に頼んだら、おりゅうは、「わしの役に立つことなら行きます。」と言って、京の三十三間堂の棟木を出すおりに、おりゅうが車の先頭になって綱を引いたら、柳を載せたその車はそろそろそろそろ京の三十三間堂まで無事に着いたそうな。
だから、今あるあの三十三間堂の棟木は高山の柳だそうな。そしていつに変わらずに、今でもそのとおりあるそうな。そればっちり。(
伝承者:明治40年生)
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