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かみそり狐(智頭町波多)

昭和60年(1985)8月15日、智頭町波多で採集

語り
 昔、あるところになあ、おさん狐といってたいへんに人をよくだます狐がおったそうな。
 そのころ、若い者たちが若い者(もん)の宿というところへよく寄り集まっていたそうなが、その者たちが、「うらはあの狐を退治したる。」「うらはあの狐を捕ってくる。」とか、「だまされりゃあせん。」とか言うていたら、一人が、「うらぁ、ほんなら出てみて、あの狐を捕ってくるけえ袋、持って出る。」と言って出て行ったところが、そしたら大きな、それこそおさん狐が尾を引きずって来るものだから、その若者は、「ああ、来た来た、おさん狐が来た。こりゃあまあほんにだまそういうたって、うらはだまされりゃあせんけえ。」と言いながら見ていたところが、おさん狐は頭にアオミドロを被ってよい娘になって、そうしてしゃあしゃあしゃあしゃあやって来て、その青年の前をとっととっととっととっと通って行った。
 そうしよって青年がついて行ったところ、馬糞がぽっつぽっつ落ちていたら、そしたらその娘はちょっと重箱を出して、それの中へ馬糞をちょっと入れて、そうしてそれを風呂敷に包んで、とっととっと行って、よい家の、長者というのか大きな家に入って、「ごめんください。」と言ったところ。
 家の者が出てきて、「ああ、久しう来なんだ。おまえ来たか。」と言って、
「まあほんに大きゅうなったろう。子供も大きゅうなったろう。」というようなことで、まあ、家の主人がたいへんにその娘を歓迎するそうな。
 そうしたところが、若者はもう見かねて、その家へ入って行ったところ、そこには下女や下男もいるし、本当に大きな家だったそうな。
 そこで若者は、「こらぁ旦那さん、この娘は狐じゃけえだまされちゃあいけん。」と言うけれども、「そんなことがあるもんか、うちの娘が里帰りしたじゃけえ。」と家の者たちは言うそうな。 娘は娘でそれにかまわず、「たいしたもんじゃないけど、おはぎにして持ってきたけえ。」と言って重箱のものを出すそうな。家の者たちは、
「そうか、まあ、ご馳走じゃなあ。」と言って、それをもらって、たいそううれしそうにみんなが、「こりゃよばれるじゃわ。」と言うのだそうな。そして娘さんを奥の間に入れて、たいへんにもてなされるそうな。
 若者はそれを見て、「そりゃあ牛糞じゃ、馬糞じゃあ。」と言って悪口(あっこう)じゃあなく本当のことを言うけれども、家の者たちが怒ってしまい、「そんなことを言う者は、その前の松の木に縛りあげたれ。」と下男が二、三人かかって、若者をそこの松の木に縛りあげたところが、若者も初めは我慢しているけれども、逆さまに縛りあげられており苦しくてならないそうな。それで、「こらえてごせえ、こらえてごせえ」と、ぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあ言って騒いでいたところが、家の奥の方から坊さんが出て来られて、そしてその坊さんが、「まあ、これだけ言うじゃけえ、こらえたれえや。」言う。それから、家の者たちも坊さんの言われることなので、「こらえまい思うたけどこらえるか。」と言って若者を木に縛りつけていたのを解いてその木から降ろしてやったそうな。
 それから、坊さんは、「それじゃあ、おまえはこらえてもろうたじゃけえ、まあ、お寺へ一緒に帰ろう。」と言って、その坊さんが若者を連れてお寺へ帰られたそうな。そうして、お寺へ帰ってみれば坊さんは若者に向かって、「あのなあ、ここへ来たら坊主にならんにゃあいけんじゃ。おまえはこれからわしの弟子になれ。」と言われたそうな。
 そして、次には、「そいで弟子になったら坊主にならにゃ。」と言われたそうな。
 それから、若者はしかたがない、命を助けてもらったものだから、我慢しなければならないと思って、頭を出したそうな。
 坊さんが剃刀を使うともう痛くてならないけれど、必死でがまんして髪の毛を坊さんにそられていたそうな。しかし、痛いことといったらずっとむちゃくちゃに痛いそうな。
 そうして、それでも若者はお寺のよい六畳の間へ寝させてもらって髪の毛を剃ってらっているうちに、なにしろとても疲れきっているものだからよく眠ってしまったそうな。どれくらい眠ったことだろうか、ひょっと目が覚めてみれば、空には星が見える。そうこうするうちには夜が明けるしして、「いったいここは何じゃろう。」と思ってよく見てみれば、「こりゃあまあ、お寺じゃあない、野原じゃ。野原へ寝とる。こりゃかなわん、はーあ、だまされん言うて来たけど、やっぱりだまされたじゃなあ。」と若者は思ってわが家にもどって、「やれ、もどった。」と言って、そいから奥へ入って布団を被って寝ていたそうな。
 すると、仲間の青年たちが数人くらいもその家にやって来て、「まあ、どんなや、だまされんと上手にもどったかや。」と言うと、若者のお母さんが、「もどった、もどった。まあ、もどって寝とるわ。」と言うので、仲間たちは、「そうか、ほんなら行ってみよう。」と行って見たら、まあ、若者は頭の毛を狐がずっと食いちぎって食いちぎって、めちゃくちゃに髪の毛を食いちぎられて、もう頭から血が出ているそうな。
 おさん狐は人をよく坊主にするいうことだけれど、やっぱり今回も若者が坊主にされてしまったという話。
 そればっちり。(語り部:明治40年生まれ)
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解説
    関敬吾『日本昔話大成』によると、この話は本格昔話の「人と狐」の中に「剃刀狐」として位置づけられている。


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