博物館の学芸員というと、展示をつくったり、資料を集めたりする姿を思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし、その裏では、集めた資料に基づく調査・研究も行っています。今回は、普段はあまり表に出ない、そんな「調査・研究」の仕事をご紹介します。
当館の植物担当学芸員が扱うのは、実は植物だけではありません。菌類、地衣類(ちいるい)、藻類、変形菌類なども担当しています。では、どんなことを調べているのでしょうか。例えば、鳥取県にはどんな種類がいて、どこに生育しているのかを少しずつ明らかにしています。私は「地衣類」を専門にしているので、今回は地衣類を例にご紹介します。

地衣類は木の幹や石垣などに生えるコケ植物のような見た目をした生物です(図1)。実際には菌類(キノコやカビの仲間)と、光合成をする藻類(クロレラやシアノバクテリアの仲間など)が共生することで成り立つ、コケ植物とはまったく別の生きものです。
私は県内各地で地衣類を探し、必要に応じて採集しています。では、見つけて持ち帰ったら、それで調査・研究は終わりなのでしょうか。もちろん、そうではありません。
【図1】コアカミゴケ(地衣類の一種)
―「同定(どうてい)」という仕事―
野外で採集した地衣類を博物館へ持ち帰ったあと、「これは何という種類なのか」を調べることも大切な仕事です。このように、生きものの種類を調べ、名前を明らかにすることを「同定」といいます。
調べるのは、自分で採集したものだけではありません。寄贈された資料や、過去に採集されたまま詳しく調べられていない資料もあります。こうした資料を改めて調べることも日々の仕事の一部です。
では、地衣類の名前はどのように調べるのでしょうか。簡単に同定の流れを下に示します。
地衣類を同定するときに調べるさまざまな特徴
●まずはルーペや実体顕微鏡で、色や形、表面のつくりなどを観察します。

(トゲウメノキゴケの外観。スケールバー:5mm)
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●必要に応じて切片をつくり、内部のつくりや胞子を顕微鏡で調べます。

●薬品による色の変化を見たり、成分を分析したり、DNA の情報を使ったりすることもあります。

こうして集めた「手がかり」を、図鑑や論文、標本などと照らし合わせながら種類を絞り込んでいきます。学芸員だからといって、ぱっと見ただけですべての種類が分かるわけではありません。同定は地道で時間のかかる作業ですが、学芸員の専門的な知識や経験が生かされるところでもあります。
採集した資料は、乾燥させて整理し、採集した場所や年月日、採集者などの情報を記したラベルを付けて、博物館の「標本」として残します(図2)。種類が分かれば、その名前も記録します。
種類の名前がまだ分からなくても、標本はその生きものが「この時、この場所で採集された」ことを示す大切な記録です。しかし、名前が分かると、「この種類が、この時、この場所に生育していた」という、より具体的な記録になります。こうした標本を少しずつ積み重ねていくと、鳥取県にはどんな地衣類が生育しているのか、それぞれの種類がどこに分布しているのかが見えてきます。
そして、標本は研究だけのために残すものではありません。展示や学習などにも活用され、地域の自然を知るための大切な資料になります。
【図2.標本庫に収蔵する地衣類標本】
(トゲウメノキゴケ)
種名や採集年月日、採集場所、採集者、同定者などの情報を記したラベルを付けて保管する。
鳥取県では、過去にも多くの地衣類が採集され、その標本が博物館に残されています。こうした古い標本を現在の調査結果と比べることで、地衣類の分布や、地域の環境がどのように変わってきたのかを考える手がかりになります。

例えば、当館には1950年に鳥取市の久松山付近で採集されたイコマウメノキゴケの標本が残されています(図3)。イコマウメノキゴケは、このとき採集された標本をもとに新種として発表された地衣類です。しかし、その後75年以上、鳥取県では新たな記録が確認されていません。なぜ現在は見つからないのかは分かっていません。久松山周辺の環境の変化が関係している可能性もありますが、今後さらに調べる必要があります。昔の標本が残されているからこそ、今の状況と比べることができます。
調査・研究で新たに分かったことは、論文などで発表します。2025 年には、県民の方と一緒に、生きた葉の上に生える地衣類(生葉上地衣類(せいようじょうち い るい))を県内で調査しました。その結果、鳥取県ではこれまで記録されていなかった4 種が見つかり、『鳥取県立博物館研究報告』で報告しました(図4)。調査で得られた標本は、当館の植物標本庫に収蔵されています。

このように、分かったことを公表し、その根拠となる標本を博物館に残していきます。今集めている標本も、何十年後かには「当時の鳥取県の自然」を知る資料になります。資料を集め、調べ、分かったこととともに後世に引き継ぐ。これも植物担当学芸員の大切な仕事の一つです。
(学芸課 自然史担当 宮澤 研人)

令和8年5月より自然史通常展示室にて、月替わりで今の季節に注目してほしい“ 旬” な樹木を紹介しています。
タッチング資料やおし葉標本を解説展示しています。