先鋒戦
先攻:尚学館・さくらんぼ♡
カニカマをカニだと思っていた君と望遠鏡で見る土星の環
後攻:うるぺぎにんじん
土の上で鱗が光るたしかこの金魚に名前つけたんやけど
講評 江戸雪審査員
『さくらんぼ』さんの、「カニカマ」から「土星」の環に持ってくる力技。説明を聞いてやっとわかる感じなので、もう少しだけふたつを繋ぐ手がかりが欲しかった。少し事柄を減らして、例えば、「望遠鏡で」は無くてもいいかもしれない。そのぶん「土星の環」を見ている時間や場所などの具体的状況をいれてみたらどうでしょうか。
『うるぺぎにんじん』さんのうたで感じたのは、本当は金魚の名前を覚えてるのだけど、死んでしまって埋めるときにあまりにも悲しくて、名前さえも思い出せなくなってしまった、というアンビバレンツな感情でした。けれど作者の話は違っていて、だんだんと名前を忘れていってしまうといううたでしたね。でもそれはそれで自分の中の罪悪感みたいなものが顕在化されていて、とてもいいうただと思いました。
中堅戦
先攻:尚学館・さくらんぼ♡
返信が五分来なくて行間は君がいそうなぬるい深海
後攻:うるぺぎにんじん
行間は国境 入植者が引くチャドの境界線は真っ直ぐ
講評 大辻隆弘審査員
「行間」という同じ熟語を使いながら、一方は人と人との間の関係性の個人的なところに焦点を当てた歌、もう一方は社会的、歴史的な幅広い視点から見ている歌で、同じ名詞を使いながら対照的な発想がすごく楽しかったです。
先攻の『さくらんぼ』さんの歌は、必ず相手に伝わっていて、心が通じ合っているという確信があるゆえの返信が来ない状態であって、その感覚がすごく強く作者の底流に流れている感じがしました。また、他者に対する信頼のようなものが、「君のいそうなぬるい深海」という、体感のある、身体感覚に訴えてくるような比喩で書かれていて、この説得力がすごくいいなと思いました。
それから『うるぺぎにんじん』さんの歌は、入植者が勝手に自分たちの都合で決めた、その線の中に、人間の恣意性を見つめたという、人間社会、人間の物事の考え方の本質を突いた視点が素晴らしいと思いました。説明してもらったとおり、人間の恣意的な段落の区分けというものが、国境線に繋がるということはよくわかりましたが、「行間」が線であるということにはあまり納得できませんでした。それでも、幅広い視点で短歌を読むということはすごく大事なことですし、すごく楽しいなと思った次第です。
とても面白い対戦でよかったです。
大将戦
先攻:尚学館・さくらんぼ♡
全然話聞いてないでしょってつねる耳たぶ冷たいのにやわらかい
後攻:うるぺぎにんじん
自然体に飛んでくツバメ私は扉の前で笑顔を作る
講評 穂村弘審査員
「冷たいのにやわらかい」が、冷たくて硬いでも、暖かくてやわらかいでもなく、クロスする感じが2人の関係性を象徴してるようで、いいなと思いました。
ツバメの歌も作者からの説明で、ツバメでなければならない理由に納得させられました。ただ、「私(わたし)」の表記に関しては、短歌である以上ここにふりがなをふるか、もしくはひらがなで書かないと、「私」は「わたくし」読みされるリスクがあると思います。扉の前で笑顔を作るというのは、面接などの特殊なシチュエーションでの作り笑顔だと思っていましたが、そうではなく高校の日常詠ということで、教室も結構緊張する場所ですから、毎朝扉の前で笑顔を作るという感じもわかるなと思いました。
とてもいい対戦だったと思います。