はじめに
3月27日付けの日本海新聞に当館に収蔵がない米袋に関する情報提供をお願いしたところ20件近くの情報提供があり、多くの米袋の寄贈がありました。皆様ありがとうございます。寄贈された方は16名で収集できた米袋は46点になりました。
寄贈いただいた方の、居住地、出身地は県中西部が多く、県東部にお住まいの方が2名おりましたが、現在の北栄町、琴浦町出身で米袋はご出身地で製作したものであるとのことでした。
米袋は県中西部が多く、次に県外(兵庫県新温泉町)となり、県東部の米袋がないという状況です。また不明とあるのは匿名での寄贈になります。
ただ県東部からも米袋を所有しているという情報提供は2件あり、県東部にはないわけではありません。これから県東部の米袋とその情報を収集したいと思います。
今まで県内博物館・資料館では絣が使用されて藍色のどちらかというと地味な米袋を見ることが多かったので、現在残る米袋も絣を使用したものが多いと思い込みがあったのですが、収集資料を見ると、色鮮やかな米袋が多いことに驚きました。
写真1 絣を使用した米袋(収集地: 米子市)
米袋を収集調査する理由
2007年頃から鳥取県の暮らしや信仰について本格的に調査を初めて、気になったことがありました。全国的にはほとんど途絶えた神社や小さな祠の賽銭箱にお金ではなく米を入れる習慣が残っていて、奉納する米を米袋で神社まで持っていくことです。また境港市竹内町で行われる小正月行事、トンドでは、米袋を「コッチン」と呼び、それは祝儀であるお金やお餅、お米の入れ物であり、祝儀を集める役はコッチン役と呼ばれていました。この頃から米袋が鳥取の暮らしや信仰を知るうえで重要であると考えるようになりました。そしてこの度、後世に伝えるためにも鳥取県立博物館として米袋の収集調査をすることにしました。
写真2 境港市竹内町のコッチン(米袋)
米袋の地域的特徴
米袋を収集するとともに用途について聞き取りによる情報収集の結果、地域的な特徴が垣間見えてきました。
・県西部
県西部の米子市周辺では子どもの1歳の祝いの時に、一升餅を背負うための袋として使用するそうです。丸い大きな一升餅を背負わせる場合と、後で食べやすいように小さい丸餅を一升分袋に詰める場合があるそうです。子ども用であるため子どもが喜びそうな布を使用して製作されています。また大山町では、年初めの縫い初めに米袋を縫ったという情報もありました。


写真3 1980年頃製作された米袋/
写真4 一升餅入りの米袋(写真2)を背負う1歳児(1984年)
・県中部
倉吉市や三朝町、北栄町などでは米袋は主に婚姻に関係するものとして記憶されています。仲人が縁談の申し込みをするときに一升米を入れた米袋を持っていき、米袋を空けて返すと縁談を承知したことになったといいます。また単に米袋を空けるのではなく、縁談を受け入れた家の米櫃に米袋の米が入れられることで縁談を受け入れることになるという方もいました。写真5の米袋は、ある女性が倉吉市から大山町に嫁入りされたときに母親がとっておいた幼少時の晴れ着で縫い上げて持たせてくれたものです。このように親心がこもった大切な思い出の品も寄贈いただきました。
写真5 幼少時の晴れ着で作った米袋
・県東部
智頭町南方では、現在も三輪神社の祭に米を奉納するために米袋が用いられており、また秋に三輪神社に背負って奉納される花籠のバランスをとる重りとして米袋が用いられています。また県西部、日野町出身の川上廸彦(1991年『伯耆民具ごよみ』20頁)によると、年初に労働の安全や技能の上達を願う縫い初めとして1年間貯めた布の端切れを寄せ集めて縫い合わせて1升ほど入る袋を縫っていたといいますが、東部の縫い初めは布でなく和紙を使ったという情報があります。
写真6 智頭町南方の米袋(個人蔵)
・県外(兵庫県新温泉町)
現在、米袋は使用されなくなりましたが、1987年頃までは使用していたそうです。お宮へのお米奉納や、嫁入りの際に米袋に饅頭など7種類のお菓子を入れて集落内に配ることに使用したそうです。
写真7 兵庫県新温泉町の米袋
まとめ
3月末から情報・資料の収集を開始して3か月ほどですが、皆様のご協力により多くの米袋とその情報を集めることができました。今回は、県の西、中、東地区、そして県外と大きく分けて得た情報をお知らせしました。同じ米袋でも地域によって使用方法が異なることが明らかになってきました。今後も情報と資料を収集しながら情報を公開していきますので、ご協力いただければと思います。
(学芸課民俗担当 樫村 賢二(かしむら けんじ))
当館では、「鳥取地学会」や「鳥取県生物学会」などの自然史系学会(以下、協力団体)が研究をはじめとした博物館活動にご協力くださっています。5月の再オープンに合わせて、協力団体のメンバーが当館の自然史標本(岩石や化石,昆虫やホネなど)の調査研究や整理・作製をできるスペースとして、自然史通常展示室に「活動ラボ」を新設しました。オープンな空間ですので来館者の皆様にも活動の様子をご覧いただけます。ぜひ覗いてみてください。
普段は「ハンズオン展示」(標本に直接触れることができる展示)としてご利用いただけるほか、イベントの際にはワークショップコーナーにもなる予定ですので、そちらもお楽しみください!
(学芸課自然史担当[地学] 田邉 佳紀(たなべ よしき))