【監修】鳥取大学医学部認知症予防学講座(寄附講座)浦上克哉教授
現在、科学的に正しいと考えられている認知症のリスク要因の中で、比較的大きな影響があるものに若年期(18歳未満)における「短い教育歴」があります。
この記事を見てくださっている方のほとんどは18歳以上でしょうから、「今更そんなことを言われても…」と思われるかもしれません。しかし、今からでも対策する方法があります。キーワードは「知的好奇心」です。これから順を追って説明していきます。

「教育歴」が認知症の発症に関係する理由
誰しも加齢などによって認知機能が低下します。しかし、低下の程度が認知症のレベルに達するまでにかかる時間は人それぞれです。

上の図をご覧ください。Aさんはもともと認知機能が高いので、脳にアミロイドβ(アルツハイマー型認知症の原因物質)が徐々に蓄積して、脳神経細胞がダメージを受け、認知機能が低下しても、認知症レベルまで落ちるのに長い時間がかかり、天寿を全うするまで認知症になりませんでした。
一方、Bさんはもともとの認知機能がAさんほど高くはありません。Aさんと同じペースで脳にアミロイドβが蓄積して、認知機能が低下していき、ある時点で認知症レベルに達しました。
つまり、もともと認知機能が高ければ、何らかの原因によって認知機能が低下したとしても、認知症を発症しにくくなるということです。
それでは、もともとの認知機能を高める要因は何でしょうか。それは、小さい頃から義務教育でしっかり勉強して頭を使うことだと言われています。また、高校や大学などでの高等教育を受けたこともプラスに働きます。
このことから、教育歴が認知症の発症に関係していると考えられているのです。
知的好奇心を持ち続けることが、認知機能を高める
では、認知機能を高める要因は、学校での勉強だけなのでしょうか。……決してそんなことはありません。学びの機会は、教室の外にも広がっています。新しい道具の使い方を知る、何度もチャレンジしてうまくいく方法を見つける、知らないことを調べるといったように、認知機能を刺激する活動は、いくつになってもできますよね。
やったことがないこと、得意でないことに関心を持ち、新しいことにチャレンジすると、今まで使っていなかった神経細胞によって、新たな神経ネットワークが作られていきます。このネットワークが広いほど、神経細胞は壊れにくくなり、認知機能が衰えにくくなります。
新しいことに感心を持って取り組む気持ちを、「知的好奇心」と呼びます。知的好奇心がある人は、中年になっても高齢になっても、新しいことを吸収し、新たな神経ネットワークを作り出すことができます。
教育歴を今から変えることは難しいですが、知的好奇心を持って新たなことに取り組むことはできます。少しでも興味を持てるものを探して、「年をとったから」とか「年甲斐もなく」などと思わずに、前向きにチャレンジしてみてください。
知的好奇心を高めて、認知症を予防しましょう
知的好奇心を高めて、認知症を予防するためには、これまでやったことがないことにチャレンジしてみましょう。
外国語を勉強する、弾いたことのない楽器を演奏してみる、初めての画材で絵を描いてみる、作ったことのないものを料理してみる、行ったことのない場所に行ってみる、知らないものの仕組みを勉強してみる等々、あなたが知的好奇心を発揮できることは数限りなくあるはずです。
こちらの記事『楽しく認知症予防をしよう!新しいことにチャレンジすると脳が喜ぶ』に、具体的な案を記載していますので、参考にしてみてください。
大切なのは、あなた自身が興味を持つことができ、ワクワクできることを始めることです。嫌々やっても、認知機能はあまり働いてくれません。心から楽しいと思えそうなことにチャレンジしてみましょう!