【監修】鳥取大学医学部認知症予防学講座(寄附講座)浦上克哉教授
認知症予防の日(6月14日)は、認知症予防を正しく知り、取り組むことの重要性を広くご理解いただくための記念日です。2025年の記念式典では、浦上克哉先生(日本認知症予防学会代表理事)が基調講演を行いましたので、その一部をご紹介します。
これからは軽度認知障害(MCI)対策も重要
認知症の新薬(抗アミロイドβ抗体薬)が登場して、認知症医療は新たなステージに入りました。大きな変化は、認知症の一歩手前であるMCIも薬物治療の対象になったことです。
これまでは、病院に行ってもMCIであれば「認知症ではありませんので安心してください」と言われていました。しかし、MCIは放っておくと年間5~15%の割合で認知症に移行します。仮にMCIの人が10人いるとして、1年間放置したら、そのうち1人は認知症を発症する可能性が高いということです。
逆に、MCIの段階で認知症予防対策をすれば、年間16~41%の割合で正常な認知機能に回復することができます。仮にMCIの人が10人いるとして、認知症予防対策をすれば、1年後には2~4人は回復する可能性が高いということです。

つまり、MCIは早く見つけて予防をすることが重要です。しかも、一部の人は新薬(抗アミロイドβ抗体薬)の投与対象になりますので、今後はMCIの早期発見がますます重要になってきます。
MCIと診断される人のイメージとしては、特に日常生活に大きな支障をきたしているわけではないけれど、うっかりとは言いにくいレベルのもの忘れ(例:さっき聞いたことをすぐ忘れる、今日の日付を言えないなど)が増えてきたと自覚していて、そのことを周囲の人(家族など)も気づいているような場合です。
こういった場合はなるべく早く医療機関を受診して、認知機能の検査を受けていただき、認知症予防対策をして、正常な認知機能を取り戻すようにしてください。
認知症の最初の症状はもの忘れではなく嗅覚の低下
認知症はもの忘れの症状から始まると思われているかもしれませんが、実は嗅覚機能の低下(匂いが分かりにくくなる)から始まります。
アルツハイマー型認知症は、まず嗅神経の異常が起こって、次に記憶を司る海馬の神経に異常が起こってきます。嗅神経の異常をいち早く見つけることが、MCIや認知症の早期発見に重要です。
そこで、嗅覚機能の異常に着目した認知機能スクリーニングキット「ニンテスト」を開発しました。紙コップに香りのスプレーを噴霧して、それを嗅いで何の匂いなのかを当てるという簡単な検査で、5分以内に終わります。
J-DEPP研究(詳しくはこちらの記事を参照)において、我々は鳥取県琴浦町と島根県隠岐の島町で嗅覚機能を調べる「ニンテスト」と認知機能を調べる「もの忘れ相談プログラム」を約1000人に受けていただきました。その結果、約2割に認知機能の低下が、約7割に嗅覚機能の低下が認められました。つまり、今は認知機能が低下していないけれども、嗅覚機能が落ちていて、今後は認知機能も低下する可能性のある方が多く含まれている可能性があります。
このように、嗅覚機能のスクリーニング検査(ニンテスト)でMCIあるいはMCIの手前の状態(プレクリニカルAD)を見つけ出すことで、より早期の認知症予防につなげることができると期待しています。
鳥取大学医学部が参加している健康イベントなどでこのニンテストを受けることができますので、機会があればぜひ試してみてください。