特集/「楽しみながら」が何より大事~地域に合った移動を模索~

  中山間地域が大部分を占める鳥取県は、過疎化・高齢化の進行によるバス路線の減少により、生活の移動手段に困る集落が増えつつあります。そんな中、各地で、日本財団や県などの助成制度を活用し、地域交通の活性化とまちづくりを組み合わせた活動が進んでいます。紹介する活動のポイントは、住民が楽しみながらの実践を重要視していること。事例をヒントに、地域に合った移動手段の在り方を考えてみましょう。

快適に暮らす手段を考える

  日常生活の移動手段への意識は、住む地域によって異なります。『国土交通白書2018』によると、人口規模が小さい地域ほど自動車がなければ生活できず、公共交通の不便さを強く感じる傾向にあります。
  県内では、バス利用者の減少や運転手不足により、廃線や減便など運行が縮小。その不便さから利用がさらに遠のく悪循環となっています。一方で、高齢運転者による交通死亡事故の増加を背景に、運転免許を自主返納する高齢者の増加が見込まれます。こうした車を運転しない高齢者や児童生徒などにとって、公共交通機関は必要不可欠。病院や学校などへの移動手段は確保されなければなりません。
  鳥取市は2019年12月、今後5年から10年後に縮小・廃止の可能性があるバス路線を盛り込んだ公共交通の基本指針の素案を示しました。住民や事業者と共に実情に合った交通手段の検討を始めます。地域で快適に生活するにはどんな移動手段を選ぶか、皆が考える好機です。

公共に代わって住民が運ぶ

  「公共交通空白地有償運送」とは、バスやタクシーなどの移動手段が確保できない場合、非営利団体が営業目的と見なされない対価で自家用車を使って提供する運送サービスです。実施には、住民代表、交通事業者、行政などで構成される「地域公共交通会議」の承認と運輸支局への登録が必要。県内には現在、下表の7団体が登録されています。
  鳥取市の大和(やまと)地区まちづくり協議会は、2019年(平成31年)3月末のバス路線廃止に伴い、市の補助制度を活用して、このサービスを始めました。市町村や特定非営利活動法人ではなく、住民組織による同事業は県内初。実施に当たっては、バス路線の廃線まで限られた時間の中で、車の確保や運転手の養成、経費負担など課題は多くありました。しかし、移動手段の確保に対する住民の期待に応え、みんなが安心して暮らせるようにと、まちづくり協議会が立ち上がり、実施することになりました。
大和ふれあいタクシーを利用している住民の写真
月に6、7回、通院や習い事のために大和ふれあいタクシーを利用している有田映子さんは「自分の日程に合わせた予約ができて助かっている。地域の人が運転手で安心」と話す(鳥取市)

県内の公共交通空白地有償運送
県内活動団体の分布図
(1)(特非)OMU(オーエムユー) 運行区間 鳥取市末恒(すえつね)地区
(2)(社福)鳥取市社会福祉協議会 運行区間 鳥取市福部(ふくべ)
(3)大和地区まちづくり協議会 運行区間 鳥取市大和地区
(4)(特非)ワーカーズコープゆいまぁる 運行区間 若桜町屋常羅(やどら)高野(たかの)地区
(5)(公社)智頭町シルバー人材センター 運行区間 智頭町内
(6)(特非)たかしろ 運行区間 倉吉市高城(たかしろ)地区
(7)(特非)多里まちづくりサポートセンター 運行区間 日南町多里(たり)地区

※特定非営利団体たかしろ(倉吉市)の活動は、県政だより2018年(平成30年)9月号特集で紹介しています。

触れ合い深める地域の車 大和地区まちづくり協議会

  「大和ふれあいタクシー」と名付けられた10人乗りのワンボックスカーは、2019年(平成31年)3月に廃止されたバス横枕(よこまくら)線とほぼ同じコースを、予約制で運行しています。予約は同協議会事務局長の中村(なかむら)(とおる)さんが電話やメモの手渡しなどで受け、自ら作成したシフト表を基に当番運転手に知らせる仕組みです。
  同年4月の開始から年末までは高齢者の利用が主でしたが、冬季間は、美和(みわ)小学校児童12人も加わりました。毎朝、保護者に見送られた児童は、運転手にあいさつをして車に乗り込みます。子どもたちは満席の車の中でマナー良く乗車し、笑顔で降車しています。「以前送り届けた児童に、畑で『おっちゃーん』と声を掛けられたことがうれしくて『無理のない範囲で続けたい』と運転手が話していた」と言う中村さんにも笑顔が。保護者にも「決まった時間に送ってもらえて助かる」と喜ばれています。冬季間の児童の利用によって初年度の1カ月当たりの平均延べ利用者数は約50人、見込みの30人を超えました。
  中村さんは「目標は市の循環バス『くる()』。大和地区をくまなく回る大和ふれあいタクシーに」と意気込みます。
中村徹さんの写真
住民の意見を聞き、柔軟な運営が大切と話す事務局長の中村さん

大和ふれあいタクシーで登校する児童の写真
雪が降った朝も、大和ふれあいタクシーで遅れることなく学校に到着した子どもたち(写真提供は大和地区まちづくり協議会)

カーシェアが支え合い生む

  地域の会員制グループで自動車を共同使用する「コミュニティ・カーシェアリング」は、送迎だけを目的とせず、地域の楽しいサークル活動として車を柔軟に活用する取り組みです。
  東日本大震災を機に始まった活動で、一般社団法人日本カーシェアリング協会からリースされた車両を、会員制の住民グループが共同利用。グループ会員の通院や買い物、会合への参加などに相乗りで使います。鍵の管理や利用予約、経費負担などを会員同士で決める過程で交流が生まれ、助け合う土壌ができ、楽しみつつ支え合う地域づくりも進んでいます。
  県内では米子市永江(ながえ)地区で、県と日本財団の共同プロジェクト「共助交通を通じた地域人材育成」事業の助成を受け、2019年11月に本格運用が始まりました。この「共助」の取り組みはさらに、大山町逢坂(おうさか)や倉吉市小田東(こだひがし)など他の地域にも広がりつつあります。
コミュニティ・カーシェアリング利用のようす
「永江ささえ愛カーシェアクラブ」会員の小山さんの外出をボランティア運転手の根本さんが支援

「コミュニティ・カーシェアリング」の特徴
目的は「支え合う地域づくり」
地域の人たちができる範囲で運営する
経費は実費を平等に分担し、定期的に精算
コミュニティ・カーシェアリングの仕組み
※(一社)日本カーシェアリング協会『コミュニティ・カーシェアリング実践ガイドブック』を参考にしました。

■各地で試験運用始まる
  大山町では2019年8月から10月、地域自主組織「やらいや逢坂」が、地区行事への参加・協力に移動手段がなくて困っている人の送迎に、倉吉市では2020年1月から4月、小田東地区住民有志の会が、車椅子で暮らす児童の中学進学を機に、通学、高齢者の買い物・通院先への送迎に試験運用を実施。

仲間がいること知らせたい

永江ささえ愛カーシェアクラブ 代表
木下(きのした) 博夫(ひろお)さん
木下博夫さんの写真

  住民が集う「支え愛の店ながえ(とっとり県政だより2016年(平成28年)2月号広報課取材メモで紹介しています)」を拠点とし、地域交流を深めようと「コミュニティ・カーシェアリング」を始めました。導入への不安はあったものの、店の利用者にニーズ調査を実施したところ、通院や買い物などに使いたいとの声が集まりました。まずは自分たちの車を使って、その後リース車での試験運用を経て、本格運用へ。試験運用での買い物ツアーは、利用者から「品物を仲間と選べて楽しかった」との声が聞かれ、運転手も「利用者に喜ばれ、うれしかった」と交流の深まりに手応えがありました。
  2019年11月に運営主体「永江ささえ愛カーシェアクラブ」を設立。会員は現在、利用者、ボランティア運転手、役員など60人を超え、今も口コミで増加中です。平均年齢70代後半の利用者の通院や買い物などの外出を、平均年齢75歳の運転手11人が支えています。
  とはいえ、ただの送り迎えではありませんよ。一人暮らしの高齢者には「家まで迎えに行くから買い物に行こう」と声を掛ける。見守りにもつながります。さらに、毎月行うクラブの「お茶会」で、ざっくばらんに意見を出し合い、今後の活動に生かす。こうして車両を共同利用することで住民同士のつながりができ、一歩踏み出せばそこに地域の仲間がいることを、外出をあまりしない人にも知ってもらいたい。外出のきっかけに、また、会員が増えて交流が活発になるきっかけになればいい、そんな思いで運営しています。

あるもの利用し、価値高める 境港市小篠津町(こしのづちょう)自治会

  境港市小篠津町では、2019年10月から市の循環バスを活用した買い物ツアーを実施しています。同町は、高齢者によるサロン活動が20年近く続き、2018年(平成30年)には境港市社会福祉協議会(市社協)の支援の下、支え愛マップを作成するなど自治活動が活発です。
  とはいえ高齢化が進み、移動は懸念材料。自治会長の木村(きむら)幹夫(みきお)さんは、すぐ近くにバス停はあるものの乗り方がよく分からない循環バス「はまるーぷバス」に着目しました。サロン開催日に市職員を招き、バス乗車講習会を実施、時刻表の見方や乗り方を学びました。その際、無料券をもらったことから、早速使ってみることに。市社協生活支援コーディネーター・志賀(しが)智子(ともこ)さんの提案で買い物ツアーを実施、22人が参加した初のツアーは、集会所近くの停留所からバスに乗り、市内の大型スーパー「PLANT‐5(プラントファイブ)」へ。店内では5、6人のグループに分かれ、一緒に商品を探したり、支払いを手伝ったり。参加者からは「周りに迷惑が掛かるのではと思ったが、みんなと一緒で安心した」「欲しい物を選ぶ楽しさがある」と好評。一方、店からは地域貢献として店オリジナルの「小篠津カード」が発行。来店のたびにカードにシールを貼り、それがたまると生活用品に交換できる楽しみが加わりました。木村さんは「既存の手段を利用し、その価値を高める。ゆくゆくは市内の他地区と、はまるーぷバスで移動交流したいですね」と話します。
木村幹夫さんの写真
会長の木村さん

乗車のようす
買い物ツアー実施前に境港市と店に会長が連絡してバスを利用。定員を超える場合、自治会が車を出すことも(写真提供は境港市社会福祉協議会)

買い物のようす
自分で見て買い物することが、外出に自信と楽しみを生む(写真提供は境港市社会福祉協議会)

困る前の備え、楽しく探す

  地域交通の維持に取り組んでいるのは、集落だけではありません。琴浦町では2019年12月、商工会青年部がレンタカーを使って、帰る方向が同じ買い物客を相乗りで自宅まで送る「琴浦愛乗(あいの)りサービス」の実証実験を行い、本年度中の実施に向けた調整を進めています。県もこれから、地域のニーズに応じた複数の交通体系鳥取モデル(下記参照)の導入を支援します。
  事例を紹介した境港市小篠津町は、家族や近所の人が代わりに買い物をしてくれる、循環バスが近くを運行しているなど、現時点では移動手段に困っている状況ではありません。皆さんの地域でも本当に困る前に、実情に合ったやり方を楽しみながら探し、備えておくと安心です。

新たな交通体系の導入例
  県は、市町村が地域のニーズに応じて、共助交通・タクシー・バスを自由に組み合わせできる支援制度を創設。詳細は地域交通政策課へお問い合わせください。
例1
共助交通利用の例のイラスト
例2
有償運送利用の例のイラスト
例3
タクシー利用の例のイラスト

【問い合わせ先】 県庁地域交通政策課
電話 0857‐26‐7641 ファクシミリ 0857‐26‐8107
https://www.pref.tottori.lg.jp/koutuu/


【問い合わせ先】
県庁中山間地域政策課(共助交通)
電話 0857‐26‐7129 ファクシミリ 0857‐26‐8107
県庁地域交通政策課(地域交通)
電話 0857‐26‐7641 ファクシミリ 0857‐26‐8107



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