こんにちは。鳥取県東南アジアビューローの辻です。
近年、自動車のEV化は世界的な流れですが、「東洋のデトロイト」と呼ばれるタイでもその流れに乗るべく、タイ政府は様々な政策を打ち出しています。
今回はタイにおける電気自動車(EV)産業の現状を、その背景と目標とともにお伝えします。
1.タイにおける電気自動車(EV)産業の現状
タイ政府は、国内EV産業育成のため、手厚い投資恩典(法人税の最長8年免除、生産機械の輸入関税免除)を用意し、リチウムイオン等のバッテリ-や基幹部品に対して先端技術を有する外国企業誘致を強化しています。これは排ガスを主因とする大気汚染(微小粒子物資)PM2.5排出量を下げたいとする環境面からの施策と、それ以上に(1990~2000年にかけて)インドネシアと争って獲得した東洋のデトロイトの地位の維持の為、電気自動車と通信の融合が始まる100年に一度の自動車産業の変革期への対応の為の政策とみられます。
ここでは下記のカテゴリーがEVと定義されています。
- HEV(ハイブリッド電気自動車)
例:Toyota Prius
- PHEV(プラグインハイブリッド電気自動車)
例:Nissan Leaf
- BEV(バッテリー電気自動車)
例:中国製BYD e6、在川崎市のVenture Capital FOMM、中国製MG ZSなど
2019年タイモーターショーで展示された電気自動車
EV普及の為には内資外資を問わず官民一体となり、次の課題への取り組みが肝要です。
- 暑い国故のエアコン多使用、渋滞での多使用に耐えるバッテリーの容量の能力UP
- 充電網の整備
ポール型普通充電器:8時間充電80km,14時間充電で160km
急速充電器:15分で80km、30分で160km
- 電気料金の引き下げ
2010年にUS$1,000/kwhが2016年にUS$273/kwh。2030年にはUS$3/kwh と下がり、コスト的にはガソリン車と同レベルに。
- 主としてモーターの改良を実現し、EVの車両本体販売価格の引き下げ
タイ政府は具体的な数値目標として、2016年9月時点で52台のEV稼働台数を、2036年までに稼働台数120万台(2017年末の自動車総稼働台数は1,700万台)まで増加させることを掲げています。
BEV(バッテリー電気自動車)は、2019年11月現在MG(上海汽車集団)のEV「ZAEV」の販売(184台)により、1-11月の新規累計台数は631台に増加しています。又、HV(ハイブリッド電気自動車)、PHV(プラグインハイブリッド電気自動車)は、同期間で25,080台増えました。これは、ホンダのアコードの市場投入により、けん引されたものと思われます。
斯様な稼働台数の漸増を受けて、各種インフラの整備も整備されつつあります。タイ国トヨタ自動車は、既に5月以降HV用ニッケル水素電池の生産を開始し、BMWグループもPHV用のバッテリー生産を9月からはじめ、11月にはメスセデス・ベンツがPHV用のバッテリーの生産を始めると発表しました。
バンコク中心部のデパートにあるBMW設置の充電スタンド。3時間までの充電は無料。
充電サービスについては、先ず価格が事業者ごとに異なるため、タイ政府は適正化・統一化に向けた調査を始めました。因みにタイの電気料金は時間帯により異なり、平日の9時~22時がピーク時、22時以降と週末はオフピーク時と設定されています。料金は、ピーク時が1Kw当たり4.1バーツ(14.76円相当)、オフピーク時が2.6バーツ(9.36円相当)と設定されています。
一方、充電サービスの拠点数も拡充しつつあります。BMWは、商業設備にCentral Depart Groupと提携し、50ケ所の充電スタンド設置を発表しました。電力事業を手掛けるエナジーアブソリュート社は、充電スタンド371ヶ所、充電コネクター776本を既に設置し、本年中に充電スタンドを追加200余か所設置を計画、バンコク首都圏で1,000ヶ所体制を敷くと発表しました。
日本国内の充電スタンドは既に2万箇所を超えているとされていますが、タイもバンコクを中心に急ピッチでインフラ整備を進められています。現状、東京都内で2,765箇所(GoGoEV調べ)の充電スタンドが存在しますが、バンコク周辺はそれに迫る勢いで整備を進めています。EV化に関して、タイは日本より整備面での遅れが目につきますが、今後は日本を上回るスピードでの整備が期待されています。日本企業にとっても、新産業での投資恩典の活用を得て、産業高度化・インフラの整備・高度人材の育成にビジネスチャンスも期待されています。インフラについて、BEVを例にすれば、国内充電スタンド設置・普及が必須です。また先端技術を導入しても、機械修理は人が行うため、高度人材育成が必要となります。タイ政府が描く開発の道筋やスピード感を、企業や業界が具体的にと共有することが肝心だと思います。
2020年3月~5月に行われる主な展示会・見本市
タイ
インドネシア
ベトナム
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