2018年7月 タイ王国及び東南アジア諸国の動向

タイ王国及び他の東南アジア諸国の経済・産業動向、社会動向報告書

 こんにちは。鳥取県東南アジアビューローの辻です。

 2014年5月に発生したクーデターから4年の年月が経ちました。現在、タイは軍事政権ですが、一般的にイメージされるような強権的な独裁政治ではなく(言論統制などの非民主的な規制はありますが)、国民の中には容認する声も尐なくありません。今回は日本と同じく立憲君主制・民主国家であるタイで繰り返されてきたクーデターについてご説明します。

1.繰り返し発生するクーデター

写真:クーデター発生時にバンコク中心部を占拠するタイ陸軍の戦車

 タイが立憲君主制に移行した1932年以降、実に19回ものクーデターが繰り返されてきました。2000年代に入ってからも2006年、2014年と2回のクーデターが起きています。1900年代に何度もクーデターが繰り返された背景には、腐敗した政治権力を軍部が打倒し、暫定政権で統治した後に文民への政権移管がなされ、その後、また政権が腐敗してしまうという、タイならではの歴史が見えます。

写真:子供との写真撮影に応じる兵士

また、2000年代に入って発生した2006年と2014年のクーデターは国民を二分した政治的対立の激化がクーデターに発展しましたが、無血クーデターであったため、国民から強い反発はあまり起きませんでした。クーデターを主導した軍部首脳もクーデター発生後、早々に「国の法と秩序を回復するための行動であり、長期的な軍事独裁政権を目指すものではない」と声明を出し、戦車などで街中の警備に当たる兵士たちに対しても「国民に笑顔で接すること」と命令を下すなど、国民からの支持を得ることを重要視しています。「クーデター」という言葉を聞くと、軍部が武力蜂起して銃撃戦が起きるようなことを想像してしまいますが、少なくとも2000年以降にタイで起きた2度のクーデターでは、大きな混乱も起きずに粛々と政権移管が進められた、ということが実情です。

2.クーデターで安定する国内

写真:反タクシン派によるデモ集会

 2001年に首相の座に就いたタクシン元首相は国内の経済的格差解消を唱えて、地方の農村部に手厚い振興支援策を次々と実施し、人口の多くを占める地方の低所得層から熱狂的な支持を集めました。選挙をすれば地方に巨大な票田を持つタクシン政権は連戦連勝、安定した政権基盤を背景に、徐々に権力を拡大していきました。それに対し、バンコクのエリート層や従来の既得権益層、旧支配者層が反発するようになり、結果的に地方貧困層(赤服)とバンコクエリート層(黄色服)の対立がうまれました。そして自らの権力を奪われることを懸念した軍部が2006年にクーデターを起こし、タクシン元首相を国外に追放しました。暫定的な軍事政権下では一時的に対立が沈静化しましたが、その後、民政復帰してからは赤服、黄色服の双方がバンコク市内で大規模デモ集会を開くなど混乱が続くようになりました。

写真:インラック前首相

 2011年に行われた総選挙でタクシン元首相の妹であるインラック前首相が首相に就任し、5年ぶりに民主的な手法で首相が選ばれましたが、これに不満を持つ黄色服側は反政府デモ活動を過激化させます。「ならば民意を問おう」とインラック前首相は議会を解散して選挙を行いますが、黄色服側は選挙のボイコットや投票所の封鎖などの妨害をして選挙を無効化する行動に出ました。黄色服寄りとされる憲法裁判所も選挙無効の判決を下し、こうしてタイは「選挙に勝利した側が政権の座に就けない」という袋小路に入ってしまい、政治的な大混乱に陥ります。赤服と黄色服の対立も激化し、バンコク市内ではデモ会場付近で爆発や銃撃事件が発生して死傷者が出るなど治安も悪化してしまい、国民の不安は増すばかりでした。そんな混乱を収めるために「赤服でも黄色服でもない軍が政権を預かる」と起こしたのが2014年のクーデターです。それ以来、4年に渡り軍事政権が続いていますが、5人以上の政治集会は禁止されているため、大きなデモ集会が開かれることもなく治安は安定しています。また、今まで(議員を含む)高所得層の反発により導入されていなかった相続税についても導入に言及するなど、独自の改革を進めることで軍事独裁政権ならではの功績を残そうとする姿勢も、一定数の支持を集めています。

3.民政復帰へ

写真:プラユット首相

 現政権は今まで「状況が整えば総選挙をすぐにでも実施する」としながらも何度も延期してきましたが、2019年2月(から5月の間)に選挙を実施する方針を発表しました。2014年のクーデター以降禁止されていた政党による政治活動の一部が9月に解禁され、従来の対立軸である赤服、黄色服でもない「軍事政権を否定して議会政治を目指す」第3の勢力として声を上げる実業家が現れるなど、選挙に向けての動きが起こりつつあります。軍事政権のプラユット首相も「今後も政治に興味を持ち続ける」と民政移管後も政治への影響力維持を狙うような発言をしており、どの政党に入るかなど注目を集めています。いずれにしても、多くの国民が待ち望んだ総選挙が無事に実施され、一日も早く民政に移管されることが待たれます。

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