【監修】鳥取大学医学部認知症予防学講座(寄附講座)浦上克哉教授
「年相応のもの忘れ」とは
私たちは誰でも年を重ねると「うっかり」が多くなります。例えば、スーパーで買い忘れをしたり、昨晩何を食べたか忘れてしまったり、久しぶりに会った人の名前が出てこなかったり…。疲れている時や忙しい時は特に起こりがちです。
つい「うっかり」してしまうと、これは「認知症の症状なのではないか」と心配になることはありませんか? 実はもの忘れには「年相応の心配のない(生理的な)もの忘れ」と、「認知症による(病的な)もの忘れ」があります。
この2つのもの忘れを見分けるポイントがいくつかあります。忘れてしまうのが体験の全体なのか部分的なのか、もの忘れが進行(悪化)するのか、もの忘れを自覚しているか、日常生活に支障があるかないかなどです。
年相応のもの忘れと認知症(アルツハイマー型認知症)によるもの忘れの違いについて下の表にまとめています。

先ほど例に挙げた「うっかり」は、いずれも「年相応のもの忘れ」と判断できます。スーパーで買い忘れをした、昨晩食べた物を忘れたと自覚していますから。もし「認知症によるもの忘れ」なら、買い物や晩ごはんを食べたこと自体をまるごと忘れてしまいます。
また、認知症の人では、「取り繕い」行動がよく見られます。もの忘れの自覚がない、もしくは認めたくないという気持ちから、周囲の人にもの忘れを指摘されたときに「勘違いをしていた」「冗談だった」などと取り繕うのです。
「MCIのもの忘れ」の特徴
「もの忘れ」といっても、年相応の場合と認知症の場合では範囲や内容などが大きく異なることがご理解いただけたかと思います。では、認知症の一歩手前の状態である軽度認知障害(MCI)ではどのようなもの忘れが起こるのでしょうか。
MCIは「ご本人やご家族に認知機能低下の自覚があるものの、日常生活は問題なく送ることができている状態」です。先ほどの表に当てはめると、年相応のもの忘れに分類される状態であり、認知症とは言えません。
MCIを見分けるコツは「もの忘れの頻度が高くなり、本人だけでなく家族や周囲の人からももの忘れを指摘される」ことです。1つ1つは年相応のもの忘れでも、周囲からも目立つくらい多いと、MCIである可能性があります。家族や周囲の人からもの忘れを指摘されるようになったら、一度病院でチェックしてもらいましょう。
うつ病・うつ状態と認知症は似ている
ちなみに、うつ病・うつ状態にある人は認知症のように見えることがあります。うつ病・うつ状態になると、動作や思考が遅くなり、集中力や判断力、記憶力が低下し、新しいことを覚えにくくなるなど、認知症の症状に似てくるのです。特に高齢者のうつと認知症は見分けにくいと言われています。
うつ病・うつ状態と認知症(アルツハイマー型認知症)の違いを下の表にまとめています。

なかでも、症状をどのように自己評価しているかがポイントです。うつ病・うつ状態の人は、記憶力や集中力などの能力が低下していることを自覚しており、「できないこと」に目を向け、心配したり嘆いたりします。一方、認知症の場合は症状を自覚していないことが多く、「できないこと」を過小評価する(隠そうとする)傾向があります。
ただし、うつ病と認知症の見分けは一般人には難しいことです。うつ状態が2週間以上続いているようなら、かかりつけ医や精神科・心療内科で診てもらいましょう。