【監修】鳥取大学医学部認知症予防学講座(寄附講座)浦上克哉教授
認知症予防の日(6月14日)は、認知症予防を正しく知り、取り組むことの重要性を広くご理解いただくための記念日です。2026年の記念式典では、森下竜一先生(大阪大学大学院医学系研究科 臨床遺伝子治療学 教授)が特別記念講演を行いましたので、その一部をご紹介します。
森下先生は浦上先生からバトンを受け、日本認知症予防学会の代表理事に就任しました。日本抗加齢医学会理事長も兼任している著明な先生です。大阪・関西万博のヘルスケアパビリオン総合プロデューサーを務めたことでも知られています。

MCIや認知症を早期発見するためのテクノロジー
超高齢化社会を迎え、健康寿命の延伸が求められています。健康寿命を延伸するには、脳の健康があってこそではないでしょうか。
ここで「脳資産(ブレインアセット)」という考え方をご紹介します。脳の健康が社会的・経済的価値を生むのであれば、脳機能を資産として捉えることが可能でしょう。脳資産は記憶力(学習・知識の蓄積)だけではなく、判断力(意思決定・問題解決)、創造性(革新・発想・表現)、社会性(コミュニケーション)も統合したものです。脳こそ最大の無形資産です。この脳資産を正しく測定して、認知機能の維持・向上をすることが、国としての活力に直結する時代がやってくると考えています。
しかし、脳の健康をチェックする方法は限られており、認知症の診断率は25%と低いのが現状です。その一因に、問診による認知機能検査(MMSEなど)は本人にも医療スタッフにもストレスが大きい検査であることが挙げられます。「今年は何年ですか?」「ここはどこですか?」というような質問をいくつもされて、嫌になって拒否される方もいらっしゃいます。医療機関としても、検査に約20分かかることが負担になります。
そこで我々は、AIデジタル技術を用いた「アイトラッキング式認知機能評価法」を開発しました。タブレットに出てくる質問に対して、正解と思う場所を見つめてもらうだけで、認知機能を調べることができます。時間も約3分で終わります。従来から使われている認知機能検査(MMSE)との高い相関が確認できたため、2025年よりプログラム医療機器「ミレボ」として保険適用を受けました。これをベースにした法人・事業所向け機器「MIRUDAKE」も事業化できています。また、一般人向けの脳の健康度計測アプリ「MIRUDAKEタッチ」や、脳の健康度に応じた脳年齢向上のトレーニングアプリ「Brain Asset+」も開発中であり、近いうちにご提供できるようになる予定です。
認知症の「ゼロ次予防」を提唱
これまで、認知症予防は3段階で考えられていました。すなわち、1次予防(認知症の発症を予防する)、2次予防(認知症を早期発見・介入する)、3次予防(認知症の重症化を予防する)でした。
私は新たに、1次予防の前に「ゼロ次予防」を追加することを提唱します。ゼロ次予防とは、社会全体で認知症を予防する体制を作っていくための社会環境設計を指します。個人の努力ではなく、社会構造の最適化によって認知症を予防しようという考え方です。
具体的には、(1)認知症になりにくい脳(認知予備能)を育てる生涯学習、(2)認知症リスクを下げる食環境、(3)歩ける街、社交できる空間、脳を刺激する環境のある都市設計、(4)デジタル格差を解消し、適切な情報にアクセスできる環境が求められると思います。「認知症を発症させない社会」をデザインすることが重要です。
病気の予防や健康維持のためには、脳が幸福を感じられることも大切な要素ですから、幸福を与える・感じさせる社会を作ることも大切です。日本認知症予防学会は、科学に基づき、よりよく生きられる未来を作る医学を目指して活動していきます。