【監修】鳥取大学医学部認知症予防学講座(寄附講座)浦上克哉教授
あなたは毎年、健康診断を受けていますか? 40歳以上の方は腹囲の計測など、特定健診(メタボ健診)も受けているはずです。
メタボリックシンドロームの構成要素である「高LDL-コレステロール血症」「糖尿病」「高血圧」「肥満」は、放置すると動脈硬化による脳卒中や心筋梗塞といった怖い病気をもたらします。
実は、これだけでなく、生活習慣病は認知症の発症リスクを高めることも分かっています。下図に示すように、認知症になりやすい要因の14項目中、4項目が生活習慣病に関する項目となっています。

青年~中年期(18~65歳)の生活習慣病対策が、高齢期(66歳以上)の脳の健康に大きな影響を与えます。健診で引っかかっても病院に行かない方もいらっしゃいますが、将来の認知症を予防するためと考えて、きちんと治療をしておきましょう。
生活習慣病が認知症を引き起こす仕組み
認知症とは、脳の神経細胞が死滅してしまうことで、認知機能が低下してしまう病気です。
脳の神経細胞が死んでしまう理由はいくつもありますが、認知症でよくあるのは、脳卒中(脳出血、脳梗塞)によって血流が途絶え、酸素と栄養が足りなくなったことが原因のパターン(血管性認知症)と、特定のタンパク質(アミロイドβなど)が脳に異常に蓄積したことが原因となるパターン(アルツハイマー型認知症)とがあります。
この2つのパターンにはいずれも、生活習慣病が関係しています。生活習慣病にならない、なってもきちんと治療をすることで、脳の神経細胞を守り、認知症を予防することができます。

生活習慣病と血管性認知症の関係
血管性認知症は、脳出血や脳梗塞によって脳への血流が途絶え、酸素と栄養が足りなくなって脳神経細胞が死んでしまうために起こります。
高血圧で血管に大きな圧力がかかっていると、脳の血管が破れて出血し、脳出血を起こしやすくなります。ですから、高血圧を是正することが脳の神経細胞を守ることにつながります。
また、脳梗塞は脳の血管が詰まるという病気です。血管が詰まらないようにするためには、高LDL-コレステロール(いわゆる「悪玉コレステロール」)血症や糖尿病をきちんと治療して、血液中のコレステロールや糖を適切な数値にコントロールしておくことが重要です。
なぜなら、血液内にLDL-コレステロールや糖が多い状態だと、血管の内側がダメージを受けて傷ついてしまうからです。傷ついた部分にかさぶたのようなもの(血栓)ができて、血流を止めてしまうことがあります。
さらに、高齢者に多い心臓の病気(心房細動)により血の塊(血栓)ができ、それが脳に飛んで血管を閉塞し、脳梗塞を起こすこともあります。これも適切な治療により脳梗塞を予防することができます。
生活習慣病とアルツハイマー型認知症の関係
次に、特定のタンパク質(アミロイドβなど)が脳に異常に蓄積したことで神経細胞が死んでしまうパターンについてお話します。
糖尿病のある人はアルツハイマー型認知症になりやすいことが知られています。糖尿病になるとインスリンというホルモンの分泌が減ってしまうのですが、インスリンは血糖値を下げるだけでなく、脳内に運ばれてアミロイドβを作りにくくしたり、分解しやすくしたりしてくれる働きもあります。
糖尿病だと脳に運ばれるインスリン量が少なくなるので、アミロイドβが蓄積しやすく、アルツハイマー型認知症のリスクが高まります。さらに先ほど述べたように、高血糖は血管を傷つけ、脳梗塞を起こして血管性認知症をもたらすこともあります。
また、脳内に過剰なコレステロールがあると、脳梗塞を引き起こすだけでなく、アミロイドβやタウといったタンパク質を沈着させて、アルツハイマー型認知症の発症にも影響するのではないかとも考えられています。
※高LDLコレステロール血症について詳しくはこちらの記事(LDL(悪玉)コレステロール値が高いと認知症になりやすい)をご覧ください。
メタボリックシンドロームの方は要注意!
高血圧や糖尿病、高LDL-コレステロール血症に加えて、肥満(内臓脂肪の蓄積)があり、メタボリックシンドローム(メタボ)と診断されている方は特に要注意です。
メタボは動脈硬化を起こして脳卒中や心筋梗塞などになりやすい危険な状態です。ここまでに話した通り、これらは認知症にもつながっていきます。
メタボ、もしくは肥満の方は、普段はこれといった症状がないので軽視しがちですが、知らず知らずのうちに認知症のリスクが高い状態になっています。食事・運動などの生活習慣を見直して、体重や血圧、血糖やコレステロールの値を正常に近づけるようにしてくださいね。
健診で引っかかったらすぐ受診、そして治療の継続を!
もし健診などでコレステロールや血糖値、血圧が高いと指摘されているなら、ぜひ早めに病院に行ってください。軽いうちに対策しておいた方が血管と脳の健康を保ちやすくなります。
また、せっかく治療を始めたのに、受診や治療を自己判断で止めてしまう人や、受診をしていてもコントロールが良くない人が多いので、これを機会に適切な治療をされることをおすすめします。
脳梗塞や心筋梗塞などの予防だけでなく、認知症を予防するためにも、早めに医療機関への受診や治療を行いましょう。