第1章 監査の概要
第1 監査の種類
地方自治法第252条の37第1項の規定に基づく包括外部監査
第2 選定した特定の事件
特定の事件は選定せず、教育委員会の財務の執行状況全般を対象とした。
第3 監査の対象とした理由
以下の理由から事件を選定した。
(1) 鳥取県の予算・決算に占める教育予算・決算の規模が最大であり、教育委員会の予算の使途を明らかにすることが県民の身近な関心事である。
(2) 教育委員会という組織の存在は周知のことであるが、公教育の立案・推進役として具体的にどのような業務を行っているかを明らかにする。
(3) これまでの包括外部監査の対象事件となっていない。
第4 監査を実施した期間
平成19年4月1日から平成20年1月23日
第5 実施した監査の方法
(1) 主な監査対象部署 教育委員会事務局及び県立学校
(2) 主な監査手続き 必要と認めた決算資料を入手し、その内容を検証するために県の条例等を確認し、事務手続きを正確に執行しているかどうか基礎資料と照合及び質問することにより確認した。
第6 包括外部監査の実施者
外部監査人 公認会計士 勝部 不二夫
外部監査人補助者 税理士 本城 慶光
外部監査人補助者 (有)勝部会計事務所職員 矢野 年宏
第7 利害関係
包括外部監査の対象とした事件につき、外部監査人及び補助者は地方自治法第252条の29に規定する利害関係はない。
第2章 教育委員会の県庁組織内における位置
第1 鳥取県の行政組織の概要 本文の2ページ
第2 知事部局外組織の理念的意義 本文の2ページ
第3章 鳥取県の財政状態と教育委員会の予算
第1 厳しい鳥取県財政の姿 本文の3ページ
1 鳥取県の平成18年度一般会計決算における単年度収支は赤字であった
2 平成18年度末の県の借入金残高は6千億円を超えている
3 緊急の財政需要に対応するための基金は444億円へ減少している
第2 県の予算規模は減少しているが教育費予算は維持している 本文の4ページ
1 一般会計予算の推移と教育費予算の推移
金額単位:億円
項目 |
平成10年度 |
平成11年度 |
平成12年度 |
平成13年度 |
平成14年度 |
平成15年度 |
平成16年度 |
平成17年度 |
平成18年度 |
一般会計予算 |
4,402 |
4,478 |
4,600 |
4,626 |
4,414 |
4,380 |
4,118 |
3,965 |
3,745 |
教育費予算 |
718 |
740 |
769 |
749 |
765 |
747 |
734 |
690 |
696 |
平成10年度を100とした指数で各年度の予算を指数化したものを示す。
項目 |
平成10年度 |
平成11年度 |
平成12年度 |
平成13年度 |
平成14年度 |
平成15年度 |
平成16年度 |
平成17年度 |
平成18年度 |
一般会計予算の指数 |
100 |
102 |
104 |
105 |
100 |
100 |
94 |
90 |
85 |
教育費予算の指数 |
100 |
103 |
107 |
104 |
107 |
104 |
102 |
96 |
97 |
県は、公共工事を中心に一般会計の予算規模を減らしているが、教育を重視しているため教育費予算を維持しているのである。
第4章 教育委員会の仕事と組織及び平成18年度の決算概要
第1 教育委員会の仕事 本文の6ページ
1 教育委員会の仕事は法律により規定されている
教育行政を司る基本法として「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」が制定されている。その法律において地方自治体の教育委員会の仕事が規定されている。
2 鳥取県教育委員会事務局の組織と職員数
平成18年4月現在、教育委員会事務局職員数は338名。これに教育長が加わる。
3 教育委員会が管理監督する公立学校
平成18年5月1日現在の県内公立学校(小学校・中学校・高等学校・特別支援校)の教員数は5,841名、職員数は739名、合計6,580名である。
第2 平成18年度の教育委員会全体の決算概要 本文の8ページ
平成18年度の課別の決算額を示した。なお、教育委員会で歳入しない県税、地方交付税などの一般財源については歳入金額に含めていない。
1 教育委員会課別の決算額(歳入、歳出、歳入・歳出差額)の要約
平成18年度の課名 |
歳入 百万円 |
歳出 百万円 |
歳入・歳出差額 百万円 |
教育総務課 |
10,415 |
56,869 |
△ 46,454 |
家庭・地域教育課 |
16 |
232 |
△ 216 |
文化課 |
503 |
734 |
△ 231 |
体育保健課 |
79 |
860 |
△ 781 |
福利室 |
42 |
285 |
△ 243 |
人権教育課 |
87 |
512 |
△ 425 |
小中学校課 |
23 |
140 |
△ 117 |
高等学校課 |
1,470 |
279 |
1,191 |
教育環境課 |
2,627 |
5,898 |
△ 3,271 |
障害児教育室 |
36 |
108 |
△ 72 |
教育センター |
3 |
186 |
△ 183 |
図書館 |
1 |
270 |
△ 269 |
博物館 |
25 |
302 |
△ 277 |
全国スポーツ・レクリエーション祭推進室 |
153 |
357 |
△ 204 |
決算合計金額 |
15,480 |
67,032 |
△ 51,552 |
2 歳入の状況
教育委員会の平成18年度歳入額は154億円であり、ほとんどは国庫負担金と国庫補助金であった。一方、歳出額は670億円であった。歳入と歳出の差額515億円については、一般財源が充当されていることになる。
第3 教育委員会事務局各課の決算状況 本文の9~16ページ
1 教育総務課、2 家庭・地域教育課、3 文化課、4 体育保健課、5 福利室、6 人権教育課、7 小中学校課、8 高等学校課、9 教育環境課、10 障害児教育室、11 教育センター、12 図書館、13 博物館、14 全国スポーツ・レクリエーション祭推進室
第4 各県立学校の決算について 本文の17ページ
「第11章 県立学校の監査」において監査対象とした三つの県立学校の決算概要を示しているが、公式には各学校の決算内容は公開されていない。各県立学校の決算は各校の予算・決算管理のために行われているが、最終的に各主務課の決算としてまとめられる。
第5 教育委員会の管理している土地と建物 本文の18ページ
第6 意見 「トータルコスト予算制度」に対応した決算を望む 本文の19~20ページ
1 トータルコスト予算とは
県は、平成18年度当初予算から、これまで別々に予算計上していた事業費とそれに携わる人件費を併せて示すトータルコスト予算分析手法を導入した。
このトータル予算制度は平成18年度予算に対して鳥取県が全国に先駆けて導入したものであるが、教育委員会の同年度の予算では採用していない。
2 各課及び各学校に人件費等を配分した決算を行っていない
平成18年度の教育委員会の決算書を入手し、その主務課別の金額を見ると給料ほかの人件費約559億円が教育総務課の歳出額の中に含められていた。教育委員会全体の給料等の人件費総額が約590億円であるから、ほとんどの人件費を主務課に集めて決算書を作成しているのである。
民間の会社では、給料等人件費は人事部が主務するが、本社・各支店あるいは各部課へ対応した人件費を配分することによりそれぞれの部署の予算段階及び決算時の損益を明らかにしている。
各課の歳出額の中にはその課に所属する職員の人件費を含めていないことに疑問を有した。また、県立学校の決算内容を見ると、その学校に勤務する教職員の人件費の計上がないことに驚いた。教職員こそ学校の知的財産であり、ゆえに人件費は最大の経費になっている。県立学校は、人件費を含めたトータル決算を示さなければならないと考える。
また、教育委員会事務局の教育環境課は、各学校の耐震化診断・耐震化工事・校舎の新設等の施設設備予算を管理執行する課である。各学校のそれら施設設備に要する決算額は教育環境課の決算としてまとめられている。予算単位を課ごとに設定しているからであるが、予算を使った学校別への配分も必要なことである。
各課及び各学校に人件費等を配分した決算書を作成すべきである。学校だけでなく、県立博物館を主務する博物館、県立図書館を主務する図書館、埋蔵文化財を主務する文化課等々についても同様である。
県民が知りたいのは、身近な存在である学校の人件費等を含めたトータルコスト(総経費)であり、図書館運営に要する人件費等を含めたトータルコストなのである。
第5章 教育委員会の給与事務の監査
第1 教育委員会の職員数と給料・手当額 本文の21~22ページ
1 県職員数の中で教育部門の職員数が一番多い
県職員の中で教育部門の職員数が圧倒的に多い。平成18年度における教育部門の職員数は6,319名、県職員総数11,904名の53%を占め、この傾向は過去から続いている。
2 教育部門の給料及び手当額
平成15年度から平成18年度までの教育部門の給料及び手当額(諸手当及び期末・勤勉手当)を以下の表にまとめた。
項目 |
平成15年度 |
平成16年度 |
平成17年度 |
平成18年度 |
給料 |
28,254百万円 |
28,571百万円 |
28,540百万円 |
28,435百万円 |
各種手当 |
14,566百万円 |
14,655百万円 |
14,674百万円 |
14,839百万円 |
合計 |
42,820百万円 |
43,226百万円 |
43,214百万円 |
43,274百万円 |
|
|
|
|
|
職員数 |
6,130名 |
6,224名 |
6,268名 |
6,319名 |
一人当り平均給料手当額 |
約698万円 |
約694万円 |
約689万円 |
約684万円 |
教育委員会の給料及び手当額(諸手当及び期末・勤勉手当)の支給事務が適切に執行されているかを監査することにした。
第2 鳥取県教育委員会の給与制度の概要 本文の23~26ページ
1 検証対象とした給料月額及び諸手当の概要
この章の「第3 給与事務の監査」の中で、検証対象とした例月給与及び期末・勤勉手当の名称は以下のとおりである。
(1) 「給与条例」より支給する手当等
給料月額、時間外勤務手当、管理職手当、扶養手当、住居手当、通勤手当、定時制通信教育手当、宿日直手当、義務教育等教員特別手当、単身赴任手当、地域手当、期末手当、勤勉手当
(2) 「特勤条例」より支給する手当 ・・・ 教育特殊業務手当、教育業務連絡指導手当
(3) 「義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置に関する条例」より支給する手当・・・教職調整額
(4)「知事等給与条例」による支給減額措置・・・特例給料
2 平成18年4月の給料表の改正とそれに対応した経過措置
(1) 給料表の改正の趣旨と経過措置の導入民間賃金の地域差を公務員給与に反映すること及び年功的な給与上昇の抑制と職務・職責に応じた給料構造への転換を目的に、平成18年度から給料月額の大幅な改正を行った。
(2) 経過措置の中身
経過措置は、平成18年3月31日時点で支給している給料月額を保障する措置である。
3 例月給与及び期末・勤勉手当支給までの事務手続き
第3 給与事務の監査 本文の26~36ページ
1 検証対象者の選定方法
教育委員会事務局及び県内公立学校からまんべんなく選定することに留意した。検証対象者は、教育委員会事務局8名、高等学校8名、特別支援学校6名、中学校6名、小学校6名の合計34名に対して検証を行った。
2 検証手続き
(1) 検証対象は平成18年度12月支給の例月給与と同年の12月期期末・勤勉手当である。
(2) 検証に用いた資料と検証手続き
検証に用いた資料は、平成18年度12月の「給与明細書」、「給与原簿最新リスト」、「教育委員会が作成した監査用給与支給チェック表」である。これら資料の内容を条例等と照らし合わせ、さらに教育総務課の給与担当者に対して質問を行うことにより例月給与及び期末・勤勉手当を正確に計算し支給しているかの検証を行った。
3 検証結果に基づく指摘事項
検証手続きの中で、支給誤りのあった以下の5点について指摘する。
(1) 指摘事項その1 「平成18年度12月期の勤勉手当の成績率の適用誤り」
【意見】
標準以外の成績率の者に対する成績率の入力事務を省略あるいは漏れると成績率が正しく勤勉手当に反映しない。標準以外の成績率の者に対する勤勉手当を間違いなく入力したかどうかは別途出力印刷するチェック表で点検しなければならないのに、そのチェック表を見過ごしていたのである。
標準成績率以外の者に対する支給データーの点検は慎重かつ緊張感を持って行わなければならない。
(2) 指摘事項その2 「通勤手当の支給漏れ」
【意見】
ア 通勤届けの網羅性の点検が行われていない
イ 通勤届けの電子申請システムがあるのに漏れの点検に機能させなかった
ウ 支給対象者に責めはないのか
(3) 指摘事項その3 「地域手当の適用誤りによる過大支給」
ア 給料支給規則の理解不足による適用誤り年度始めの異動が集中する時期こそ慎重に事務を執行しなければならない。そのような規則があることを認識していないことは誠に遺憾なことである。
イ 支給誤り報告書の内容と意見
(ア) 支給誤りの報告書の内容この支給誤りによる報告書を教育総務課より入手し閲覧したところ、支給誤りが発覚した経緯は人事委員会事務局の指摘によるものだった。これと同様の誤りが、人事委員会事務局の指摘により他2件あった。返納方法は、他2件共に毎月分割返納にしている。
【意見】
支給誤り、それが過大支給であれ過少支給であれ、誤りに対する報告書あるいは決裁願があって当然のことであると考える。
この地域手当の過大支給について報告書あるいは決裁願の提出を求めたところ、『調整手当、地域手当の誤支給について』と題した文書の提出があった。しかし、この文書上には報告先、作成日、作成者の記載が一切なく、関係者間で協議する備忘録と推察させる形式のものであった。
この支給誤り対象者は3名、その誤支給額も多額である。民間企業であれば、決裁願いあるいは始末書の提出が求められる事象である。支給誤りに関する報告文書や決裁伺い書を制度化する必要がある。
(4) 指摘事項その4 「給料加算額の適用誤りによる過少支給」
ア 平成18年度は給料制度の大幅な改正があり、その経過措置の適用誤りがあった
指摘事項その4の者は、旧給料月額の欄外に記載している8,200円を給料月額に加算すべきであるのに、誤って新給料月額の欄外に記載している7,700円を加算していた。
【意見】
検証対象者中同様の誤りが指摘事項その4以外に3名あった。
年度始めの給与基礎データーのコンピューター登録誤りは、その後に尾を引く。また、支給誤りの対応に係る工数を要してくる。少ない人員で多くの業務を行わなければならないことは分かるが、少人数で執行可能な事務体制の構築を望むものである。
(5) 指摘事項その5 「時間外勤務手当の支給誤り」
ア 時間外勤務していない者に時間外勤務手当が支払われていた
この事象は、休日出勤に対する時間外勤務手当の支給であった。
支給対象者は、平成18年10月15日(日)に行われた学校行事のために休日出勤し、翌16日(月)は休校としていた。その学校の出勤簿には、休日出勤と翌日の代休は正確に記録していたのであるが、錯誤により教育総務課に対し代休となった16日(月)に出勤したとする時間外勤務手当等通知書を提出してしまったものである。
時間外勤務手当等通知書を受け取った教育総務課は、その形式は点検するが内容までは点検しないため誤って支給してしまったものである。
【意見】
この支給対象者はその学校の事務長である。毎年開催される学校行事のために休日出勤することは、その者にとっては例外事項ではないはずである。この者を含む事務職員の全員がまとまって時間外勤務手当等通知書を提出していた。驚くべきことである。このことを指摘した際に学校側の回答は「勘違いしていました。」であった。このような休日出勤の際の一週間の勤務時間数の計算方法は分かりにくいのであるが、ベテランの事務長及び事務次長が回答する言葉ではないと思う。ましてや、翌日は休校であったのであるから。
第4 平成18年度の給料表の改正は実際の給料月額には影響を与えていない 本文の37~38ページ
1 給料表の改正は給料月額に影響を与えなかった
検証対象者について、平成18年4月から実際に支給した給料月額と新給料月額を比較した結果、検証対象者34名の平成18年度の給与は、平成18年度の給料月額の改正により給料月額が下がっているのにもかかわらず減額となっていないことが分かった。
2 検証対象者の平成19年4月分給料月額は経過措置を適用している
検証対象者34名の内3名の平成19年4月分給料月額を調査した結果、経過措置による現給保障額を維持していることが確認できた。
県は、経過措置による給与削減効果が大きく実現するのは4年ないし5年後以降と考えている。経過措置による削減効果が表れるまでには時の経過を待たねばならない。
第5 平成18年度末の給与返納未返還金について 本文の39ページ
平成18年度末の給与返納未返還金は1件333,305円、対象者は学校の教員である。
その者は返納予定であった平成19年12月に返納となっている。
【意見】
支給誤りによる修正支給あるいは返納がその年度内に行われればこのような事象は発生しない。このような事象が発生しないよう正確に事務を執行すべきである。
第6 この章における総括意見 本文の39~40ページ
34名の平成18年12月例月給与及び期末・勤勉手当について監査を行った結果、支給誤りの多さに驚いてしまった。
危機的な財政状態に対応して平成13年度から毎年度のように給与制度を改正している。県職員の大幅異動の時期である4月に改定した給与制度が施行される。人の異動と制度の変更が重なる4月に事務が集中することは理解できる。しかし、それゆえに誤りが許されるものではない。
県職員に対するものであるから、誤りはその後の修正でカバーできるという気持ちで事務に臨んでいるとは思わないが、そのような気持ちになるような事務態勢であることは感じた。教育総務課には4名の給与担当者がいる。この4名で6千人を超える教育委員会職員の給与事務を統括しているからである。
智恵を出すことにより、少ない人員で正確に事務を執行できる体制にすべきである。
第6章 退職手当の監査
第1 平成15年度から18年度までの教育委員会の退職手当の支給実績 本文の41ページ
この4年間で教育部門に所属する職員で退職した者は合計615名であった。平成18年4月1日現在の教育部門の総職員数は6,319名であるから4年間で約1割の職員が退職していることになる。
退職手当は、退職に伴う一時金の性格上一人当たりの支給額が多額になる。この4年間の退職手当の総額は144億円を超え、一人当たり平均退職手当額は2,347万円となっている。
第2 平成18年度の退職事由別退職者数と支給退職手当金額 本文の41ページ
金額単位:千円
退職事由 |
退職者数 |
支給退職手当金額 |
平均支給額 |
備考 |
定年退職 |
64名 |
1,806,825 |
28,232 |
満60歳到達年度の3月末退職 |
早期退職 |
38名 |
1,016,546 |
26,751 |
一定の条件による退職で本人が希望し、承認されたものであり加算がある |
自己都合退職 |
46名 |
448,260 |
9,745 |
通常の自己都合退職である |
死亡退職 |
3名 |
64,992 |
21,664 |
死亡による退職である |
合計 |
151名 |
3,336,624 |
22,097 |
|
第3 鳥取県の退職手当制度の概要 本文の42~47ページ
鳥取県は、平成18年度に退職手当制度を改正し平成18年度の退職者から適用している。
1 鳥取県の平成18年度改正の概要
(1) 退職手当に在職中の職責等に応じて差を設ける部分(「調整額」と言う。)を付加した
(2) 国家公務員に適用される支給率が改正されたことに伴い支給率を改正した
(3) 育児休業期間に対応した除算期間を短縮することにより計算上の勤続期間が延びた
(4) 改正に伴う経過措置を設けた
2 平成18年度改正により設けられた経過措置
平成18年度から完全に新制度に移行すると、総じて退職者が受け取る退職手当額が減少することになる。そのため経過措置における新制度・旧制度・制度維持による退職手当額を比較し、退職者が不利益を蒙ることのないように講じた激変緩和措置である。
第4 平成18年度退職手当額の検証 本文の47~55ページ
1 検証対象者の選定方法
(1) 退職数151名の1割の15名を検証対象者とした
(2) 平成18年度の退職事由別退職者数と検証対象者数の割当て
定年退職者6名、早期退職者4名、自己都合退職者4名、死亡退職者1名を選定した。
2 検証手続き
(1) 退職者別に新制度と旧制度の退職手当額を計算した
(2) 県から提出された退職手当の計算資料
ア 退職手当金額計算書、イ 退職者の履歴書、ウ 調整額計算資料、エ その他
3 検証結果による意見
(1) 条例等に従い正しく計算している
制度改正に合わせて条例等に従い正しく計算されていることは確認できた。しかし、以下の問題点を指摘しておく。
(2) 意見 「旧制度優先の制度になっている」
基本的には新制度による退職手当額と旧制度の退職手当額を比較するのであるが、一般的に高い退職手当額となる旧制度優先の制度になっている。新制度を導入したのであるなら導入年度をもって新制度を完全適用しなければならないと考える。
(3) 意見 「新制度は施行日から完全適用すべきである」
県の退職手当制度も施行日をもって経過措置なしの新制度が適用されるべきである。
制度改正時の損得は付き物であるが、合理的と判断した新制度は自信をもって施行日をもって完全適用すべきである。
(4) 意見 「新制度になっても計算基礎となる給料月額は旧制度が適用される」
平成18年度の多くの退職者は平成19年3月31日をもって退職しているが、旧制度適用による退職手当額計算における退職手当算出基礎となる給料月額は、一般的に退職時の給料月額より高い平成18年3月の給料月額になっている。
新制度と表現しながら、内容は旧制度を引きずっている。地方分権化により地方自治体の自立性が要求されるのであるから、県独自の抜本的かつ県の身の丈に適った退職手当制度を作成することを望んでいる。
(5) 意見 「調整額は在職時の貢献度を反映したものなのか」
職員の退職手当に関する条例等の改正理由に、勤続年数に中立的な形で貢献度を勘案し調整額を新設したとある。しかし、新制度移行により退職手当額が減額となることを、とりあえずこの調整額によってカバーしたと感じている。貢献度反映の制度づくりに着手したいが、準備期間不足であった。しかし、新制度を完全適用すると退職手当額が減少する。だから、勤続年数に中立的な形で貢献度を勘案する調整額を新設した。「貢献額」と表現せず「調整額」としたことに、新制度に対する自信のなさが現れている感じを受けた。
民間企業では在職中の貢献度を退職手当に反映させる制度の導入が進行中である。県は在職中の貢献度を勘案するのではなく、より的確に反映できる独自の“新”退職手当制度を構築すべきである。
(6) 意見 「勤続期間の見直しが必要」
【意見その1】 「他府県あるいは国立大学の教員職の勤務期間分も鳥取県が負担している」他県あるいは国立大学の勤務期間に応じた退職手当額は負担してもらう方向にもっていかなければならないと考える。国や他の地方自治体に勤務していた期間の負担を求めることは、鳥取県が国や他の自治体に提案すべきである。
【意見その2】 「休職期間の除算制度の不合理性」休職期間は、その期間のすべてが勤続年数から除算されない。休職期間の除算制度は在職期間に応じて除算割合を設定すべきである。
第7章 授業料減免の監査
第1 授業料減免者数及び減免者の割合が増加傾向にある 本文の56ページ
1 平成8年度から平成18年度までの県立高等学校授業料減免者数及び減免者割合

授業料減免者が増加傾向にあること、また授業料免除の生徒の割合が全学生の19%を超えていることに驚いている。
一般的に高校に通学する生徒の親は年齢が40歳代である。40歳代という働き盛りの者たちの2割近くが経済的に余裕のないあるいは困窮していることは教育委員会の固有の問題ではなく、鳥取県の経済状態及び雇用状況が悪化傾向にあることを表している。
2 平成18年度の公立高等学校授業料減免者数と減免金額の状況
(1) 減免者数の状況
平成18年度の県内公立高等学校の生徒数15,565名に対し減免者数は2,968名であり、平成18年度の授業料の減免金額合計は2億1,755万円であった。
第2 検証対象者の選定方法と合規性の検証 本文の58~62ページ
1 検証対象者の選定方法
減免者数が多い学校を重点に平成18年度の授業料全額減免者20名を無作為に選んだ。
2 授業料減免の対象となる事由と減免手続きについての概要
教育委員会は、経済的な理由などにより、授業料の納付が困難な家庭につき、授業料の全額又は半額を免除する制度を設けおり生徒の保護者からの申請書により各学校で減免の決定を行っている。
3 検証手続き
選定した20名に対して各学校が保管している申請書と添付書類のコピーを入手し、さらに教育委員会事務局高等学校課の担当者に対して質問を行うことにより減免基準への適合性を判断した。
4 検証対象者の減免事由
授業料減免の検証対象者の減免事由は、「両親共に住民税が非課税」17名、「両親がいない」2名、「親が失業中」1名であった。いずれも減免基準に従い適正に処理していると判断した。
5 授業料減免対象者の判定基準が所得基準のみであり、資産基準の判定をしていない
【意見】 「授業料減免基準に資産基準を織り込むべきである」
県の授業料減免基準は所得が基準となっている。しかし、同居している父母の尊属の中には職はなくとも蓄えを元に生活し、家族の生活費を負担している人もいることは否定できないだろう。今後は、減免基準に資産基準を織り込むべきであるが、課題となるのは資産の把握と評価に実務上の困難性が伴うことである。
第8章 未納授業料の状況
第1 平成16年度から平成18年度までの授業料未納の状況 本文の63ページ
1 平成16年度から平成18年度までの授業料の調定額、収納額及び収入未済額
平成18年度末の授業料の収入未済額は76万円であった。
2 未納者に対する教育委員会の対応
教育委員会は、平成17年度以降授業料未納者に対し、「鳥取県立高等学校の授業料未納に対する取扱要領」に基づき対応している。未納を発生させない日頃の督促事務や未納者に対する回収に努力した結果、平成17年度以降未納額は低水準になっている。なお、未納者は固定化される傾向があり、回収困難事案については税務課へ引継ぎしている。
3 授業料未納の困難事案状況
平成18年度授業料新規未納者は3名であり、過年度分の未納者は8名であった。過年度分未納者8名のうち3名については、教育委員会事務局高等学校課が困難事案と判断したため税務課へ引継ぎしている。
第9章 奨学金の監査
教育委員会は、各種の奨学事業を行っている。その中で重要性の高い鳥取県育英奨学資金貸与・返還事務、進学奨励資金貸付事業の返還事務及び鳥取県育英奨学事業特別会計を対象として監査を行う。
第1 担当部署の組織 本文の64ページ
奨学金を担当する部署は人権教育課育英奨学室である。職員定数は平成18年度、19年度ともに3名である。
第2 平成18年度決算 本文の64ページ
育英奨学室が行う奨学事業は一般会計によって行われているが、鳥取県育英奨学事業については特別会計により管理している。
1 育英奨学事業の決算
平成18年度の一般会計支出総額4億1,299万円のうち鳥取県育英奨学事業特別会計へ4億562万円の繰出しがある。
2 鳥取県育英奨学事業特別会計の決算
現時点では、高等学校等奨学資金の貸与は平成14年度から開始したことなどの理由により、一般会計からの繰入金を必要としている。将来的には、奨学金の貸与を貸付金の返還金を財源として行う仕組みを目指している。
平成18年度決算額の内訳は以下のとおりであった。
歳入総額は、6億6,940万円。主な内容は一般会計からの繰入金4億562万円、貸付金元利収入1億6,307万円、日本学生支援機構からの交付金1億49万円である。
歳出総額は6億6,918万円。主なものは高等学校及び大学等貸与事業による支出が6億6653万円である。
3 進学奨励事業の決算
(1) 事業の概要
鳥取県進学奨励資金貸付事業は平成17年度を最後に貸付が終了したため、主に返還督促業務を行っている。
長期・高額未納者が多数あるため、債権管理業務に重点を置いた取り組みを行っている。
(2) 事業の内容及び事業費の内訳
事業費の主なものは、これまでに貸与した奨学金に対し交付されていた国庫補助金(補助率3分の2)うち平成17年度中に償還を受けた額の国庫への償還金が5,978万円ある。
第3 奨学金制度の概要 本文の67ページ
1 鳥取県育英奨学資金
(1) 制度の概要
制度の目的は、県内に住所を有する者の子等で高等学校、大学等に在学する者のうち、経済的理由により修学が困難な者に対して、育英奨学資金を貸与することにより、有用な人材を育成することである。
2 鳥取県進学奨励資金
(1) 制度の概要
昭和57年に制定された地域改善対策特別措置法により地域改善対策事業の一環として導入された制度である。従来は給付制度であったが、大学等に関しては昭和57年度から、また高等学校等に関しては昭和62年度から貸与制度に移行した。平成18年度以降は貸付金の回収事務のみになっている。
第4 鳥取県育英奨学資金貸与者数の状況 本文の71~72ページ
貸与者総数は平成16年度の1,358名から平成18年度の2,046名と、2年間で688名増加した。日本学生支援機構から移管された2年分500名以上増えていることから、奨学金制度の必要性は年々大きくなっていることを示している。
さらに高校分に関しては、国や全ての市町村において県の育英奨学制度に代わる同様の制度がなく、高等学校の授業料減免者数の多さと併せて考えると、経済的理由により修学が困難な者に対し、修学の機会を増やし、格差の連鎖を断ち切るという意味でも重要な制度である。
第5 奨学金の返還の状況
1 返還等の状況 本文の72~73ページ
平成18年度に返還すべき金額は4億9,946万円であるが、実際の返還額は2億4,992万円と返還率は50%であった。平成16年度及び17年度の返還率も50%台と低水準であった。
平成18年度末の貸付金残高は53億1,614万円、うち約定による返還のない収入未済額は2億4,756万円であった。
2 滞納額は約2億5千万円
滞納額は、平成16年度末で1億9,279万円、平成17年度末で2億2,003万円、平成18年度末で2億4,756万円となっている。鳥取県の奨学金制度において滞納が大きな課題として存在していることが分かる。
第6 滞納に対する取り組み 本文の73~76ページ
平成18年度実績において滞納金回収促進のために以下の取り組みを行っている。
1 取り組み状況
納付奨励と法的措置に取り組んでいる。
2 意見
(1) 取り組み状況に対する評価
奨学金制度の種類により人権教育課、高等学校課で別々に管理していた奨学事業を平成18年度から育英奨学室を新設して一括して管理したことや、長期・悪質滞納者に対して法的措置に踏み切ったこと、平成19年度から債権管理の事務省力化のために新たな予算を組み債権回収業務を一元管理するパソコンシステムの強化を図るなど、さまざまな滞納対策に取り組んでいる。しかし、貸付金残高は増加していることや平成16年度末時点ですでに滞納額が1億9,279万円あることを考えると、対応が遅すぎる。
さらなる対策は、新たな滞納者を生み出さないことである。督促・催告状の送付や、電話及び訪問による納付奨励を行っているが、限られた人員で約1,700名の多くの滞納者について効果的で細やかな対応は難しいと思われる。
(2) 返還促進のための方策
返還促進のための方策として、コンビ二収納等、月賦の方法の原則化、集中電話催告センターの設置が考えられる。
第7 奨学金の免除手続きが適正に行われているかの検証 本文の76~81ページ
1 免除基準
自己破産による免除は貸与者及び連帯保証人(保証人を含む。)の自己破産を原因として免除され、死亡免除は貸与者の死亡を原因として免除となる。所得基準免除は、貸与者自身に所得がある場合には貸与者の世帯、貸与者自身に所得がない場合には貸与者の父母世帯が、市町村民税の所得割非課税該当世帯が免除となる。
2 検証対象者の選定方法
平成18年度の免除対象者から育英奨学資金は死亡免除者1名を、進学奨励資金は所得基準免除者20名、自己破産による免除者2名を選定した。
3 検証に用いた資料と検証手続き
所得基準免除、自己破産による免除及び死亡免除ごとに関係する資料の内容を吟味し、必要に応じて育英奨学室に質問を行うことにより検証を行った。
4 指摘事項
検証対象者に対する手続を行った結果、免除認定の誤りはなかった。進学奨励資金の所得基準免除検証対象者20名に対する免除認定過程において5名の取り扱い誤りがあった。
5 意見
5名の取り扱い誤りが発生した原因として以下の3点があるものと考えている。
(1) 県の規定は「暦年」、一方生活保護法は「年度」と対象期間が違う
(2) 進学奨励資金返還免除システムで扱えるデーターは県内に限定されている
(3) 免除基準額算定のマスターデーターの登録誤り
第10章 高校再編に伴う施設の遊休状況
第1 高校再編に伴う遊休施設の利用状況等 本文の82~87ページ
1 旧鳥取農業高等学校(現鳥取緑風高等学校)
2 鳥取湖陵高等学校 旧美和分校
3 旧倉吉産業高等学校
4 旧赤碕高等学校
5 旧淀江産業高校(現米子白鳳高等学校)
6 旧境水産高等学校
7 旧日野産業高等学校 黒坂校舎
第2 意見 本文の87~88ページ
高校再編に伴いこのような未利用跡地が発生した。未利用跡地が不要であるということとなれば、早急に売却処分等をしなければならない。さらに、未利用のまま放置すれば校舎の荒廃が進み周辺の生活環境の悪化にもつながるため、保安対策等も含めて継続的に維持管理費が必要となる。
しかし、土地が広大であることや校舎等があり活用にも制限があることなど簡単に売却処分という訳にはいかないのが現状である。また有効な活用策を見つけることも同様の理由により容易ではない。一時的な利用や校舎の一部暫定利用などしているが、中長期的な有効活用策が見出せていない状態である。
今後継続して跡地利用を検討するに当たり、年間の維持管理費の継続的な把握や校舎その他の建物の取り壊し費用の把握も行うべきである。
また旧日野産業高等学校 黒坂校舎に関して借地料を支払っているが、日野高等学校が農業施設として一部を引続き利用しているもの、建物施設の敷地になっているもの、未利用なものを明確に区分する必要がある。利用してないものについては地権者に返還するなどの早急な対応をすべきである。