第1 住民監査の請求
1 請求人
個人
2 請求のあった日
平成24年7月10日
第2 請求の要旨
1 監査対象事項
平成23年8月2日から平成24年5月15日までの鳥取県民参画基本条例(仮称)検討委員会(以下「検討委員会」という。)の開催に係る委員への報償費、旅費、会場使用料及びお茶代など1,490,967円の支出
2 請求人の主張
検討委員会は地方自治法(以下「法」という。)第138条の4第3項本文に規定する附属機関に該当し、鳥取県民参画基本条例(仮称)検討委員会設置要綱(以下「設置要綱」という。)による検討委員会の設置は違法であり、委員に支払われた報償費等は違法な公金の支出である。
3 措置請求
検討委員会が違法な会議体であることを認め、首長は違法な支出金を返還すること。
この違法な会議体の即時停止と、検討委員会での答申を無効にすること。
第3 請求の理由
1 行為が違法である理由
平成23年8月2日施行の鳥取県民参画基本条例(仮称)検討委員会設置要綱に基づき、本委員会が設置されましたが、地方公共団体が任意に附属機関を設ける場合には、条例によらなければらないと法第138条の4第3項本文に規定されている。
にもかかわらず、条例ではなく要綱による設置は違法であり、本委員会及び委員に支払われた報償費などは違法な公金支出である。
2 本委員会が附属機関であるとする理由
(1) 学識経験者、市町村、商工業、公民館、NPO法人関係者及び公募による市民によって構成されている。
(2) 「鳥取県民参画基本条例(仮称)」の制定のための制度やあり方などを広く議論する。
(3) 本委員会の組織は要綱にて委員長、副委員長が互選により決められている。委員長に事故がある場合は副委員長が代理を務める。会議は委員長が招集するなど、組織化されたものである。この組織の中で条例案について意思決定や合議、意見の集約などが行われている。
このことから組織の面からも、機能の面からも私的諮問機関ではなく、附属機関に該当する。
3 その行為による損害
平成23年8月2日から平成24年5月15日までの検討委員会の開催に係る委員への報償費、旅費、会場使用料及びお茶代など1,490,967円の支出
第4 請求の受理
監査委員は、本件請求を、検討委員会に係る違法な公金の支出に対する住民監査請求として、法第242条に規定する請求の要件を具備しているものと認め、平成24年8月2日付けで受理した。
第5 請求人の証拠の提出及び陳述
請求人からの希望はなかった。
第6 監査の実施
1 監査の内容
監査対象事項である検討委員会の開催に係る公金の支出について、請求の理由を踏まえ、次の点から監査を行った。
(1) 検討委員会の要綱による設置は、違法であるか。
(2) 検討委員会の開催に伴い支払われた経費は、違法な公金の支出にあたるか。
2 監査対象機関
鳥取県未来づくり推進局県民課
3 監査実施期間
平成24年8月2日から同月23日まで
4 監査の執行者
監査委員 岡本 康宏
監査委員 伊木 隆司
監査委員 湯口 夏史
監査委員 興治 英夫
監査委員 前田 八壽彦
第7 本件請求に係る監査の結果
1 監査により確認した事実
(1) 設置要綱に規定する事項
ア 検討委員会の設置目的は、鳥取県民参画基本条例(仮称)の制定を進めるに当たり、その制度やあり方に関する基本的な考え方を広く議論することとする。
イ 検討委員会の設置期間は、平成23年8月2日から平成25年3月31日までとする。
ウ 検討委員会は、学識経験者、市町村、商工業、公民館、NPO法人等の関係者及び公募で選任された委員10人で組織し、知事が委嘱する。
(2) 検討委員会開催に係る公金の支出
ア 本件支出については、県議会に要綱で設置する検討委員会としての関係予算が提出され議決を受けており、議会承認を得た予算の範囲内で執行されていた。
イ 住民監査請求書において県の損害とされている合計1,490,967円について、支出負担行為、支出仕訳書等及び関係する領収書等を確認したところ、会計上の事務は適切に行われていた。
2 監査対象機関の説明
(1) 検討委員会の運営に当たっては、全会一致や多数決を行っていないため合議体にあたらない。
(2) 報告書は、作成中であるが、委員から出た意見を取りまとめたものが予定されており、検討委員会では多数決等は行っていないことからも、合議による意思決定等の結果を記載したものにはならないと考えている。
(3) 検討委員会で出た意見を参考に、執行部が条例案を作ることになる。条例案の作成段階で県民への更なる意見聴取や議会との協議を行い、その上で条例案を議会に提出することが予定されている。
3 監査の結果
(1) 検討委員会の要綱設置の違法性について
ア 検討委員会の状況
(ア) 設置要綱等により「学識経験者、市町村、商工業、公民館、NPO法人関係者及び公募による市民によって構成されている。」ことが確認された。
(イ) 設置要綱において「鳥取県民参画基本条例(仮称)の制定を進めるに当たり、その制度やあり方に関する基本的な考え方を広く議論する。」とされており、その趣旨に沿って運営されていた。
(ウ) 委員長は互選で選任され、副委員長は委員長により指名されており、会議は委員長により招集されていた。検討委員会としての意見の取りまとめは見られたが、全会一致や多数決による意思決定を行っている状況は確認できなかった。
イ 地方自治法に規定する附属機関
「附属機関」については、執行機関の要請により、行政執行のために必要な資料の提供等、行政執行の前提として必要な審査、諮問、調査等を行うことを職務とする機関とされているが、その解釈については意見が大きく分かれている。
<附属機関を広く解釈し、委員会等の要綱設置を認めない立場>から
外部の委員を一堂に集めて意見を聴く場合は、附属機関に該当し、条例設置すべきという解釈がある。
<附属機関を限定的に解釈し、委員会等の要綱設置を認める立場>から
政策提言型の委員会等を要綱で設置することを容認する解釈もある。
ウ 監査委員の判断
前述のとおり、附属機関について、法の規定の解釈が大きく分かれており判断基準は不明確であるため、法の趣旨に照らし、本県の行政運営や検討委員会の設置及び運用状況の実態を検証することにより判断を行うこととした。
鳥取県においては、鳥取県行政組織規則第3条の規定に基づいた要綱設置の委員会等が過去から多数設置されてきており、要綱による設置がすでに行政慣行として定着している。
また、今回の請求事案については、県政のチェック機関である県議会において、検討委員会の設置及びその内容が、予算案として審議の上承認されていることから、他の委員会等と同じく、一つの行政慣行として実質的な承認があったものと考えられる。
さらに、当県においてすでに定着している行政慣行の実態や検討委員会の設置及び毎回の開催結果の県議会に対する説明の状況に鑑みれば、適時に適切なチェック機能が働いている実態があり、県行政における自治機能が確保された中での検討委員会の設置であったと判断される。
また、附属機関の設置を条例によるべきとした法の趣旨は、首長による私的な諮問機関の乱立を防止し、議会による適切なチェック機能を確保するためであると解されるが、今般の検討委員会の設置とその後の経過は議会側にも適時に説明がなされており、議会におけるチェック機能を損なうような行政運営の実態は見られない。
以上により、検討委員会の要綱設置は、違法とはいえないと判断した。
(2) 検討委員会開催に伴い支払われた経費の違法性について
ア 支出手続の状況
検討委員会に係る支出については、県の会計規則等に沿って適正に予算執行が行われていた。
イ 監査委員の判断
検討委員会の要綱設置については違法とはいえないことから、支出手続及び支出内容を確認したところ、次の点から違法又は不当な公金の支出による県の損害は発生していないと判断した。
(ア) 県議会に設置要綱で設置する検討委員会としての関係予算が提出され議決を受けており、議会承認を得た予算の範囲内で執行されている。
(イ) 県から委員として委嘱され、出席依頼(開催通知)に基づき実際に出席したことに対する謝金、出席旅費等として適正な手続のもとに支出されており、予算で目的とされた一定の活動成果は得られている。
(3) 違法な会議体の即時停止と検討委員会での答申を無効にすることについて
監査委員の判断
「検討委員会の即時停止」については、損害は発生はしていないから、即時停止の必要性は認められない。また、「検討委員会の答申を無効にすること」については、請求の要件として法第242条に定める違法又は不当な財務会計上の行為又は怠る事実に該当しない。
第8 本件請求に対する結論
監査の結果、措置請求された「検討委員会が違法な会議体であることを認め、首長は違法な支出金を返還すること。」については、理由がないものと認め棄却する。
また、併せて措置請求された「違法な会議体の即時停止と、検討委員会での答申を無効にすること。」について、「検討委員会の即時停止」については理由がないものと認め棄却し、「検討委員会での答申を無効にすること」については住民監査請求の要件を欠くため却下する。
第9 意見
近年、行政運営を行うに当たって、専門的な意見や住民意見を反映させることが、科学的ないし民主的行政を推進する観点からも重要な課題となっている。このため、要綱等に基づく委員会等のいわゆる私的諮問機関が多く設置されている状況にある。
一方で、私的ブレイン的な諮問機関を多用することは、権力の私物化を招きかねないため、条例主義に徹することが望ましいといった意見もある。
前述のごとく、条例で設置すべきとされている附属機関の解釈が大きく分かれていることの背景には、昭和27年の法改正当時とは社会状況が大きく異なるにもかかわらず、附属機関の明確な定義や委員会等の私的諮問機関の位置付け等の法的整備が行われていないことに原因があると思われる。
今後、県行政の中で慣行化している審議会等の要綱設置について、法的な考え方の整理を行うとともに、必要な法整備について国に働きかけていくことが望まれる。