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国葬儀に係る公金支出についての住民監査請求の監査結果(棄却)

令和4年9月20日付けで請求のあった鳥取県職員措置請求について、監査委員4名で監査を行った結果、措置請求事項については理由がないものと認め、令和4年11月14日に棄却することを決定しました。請求の要旨、監査した結果の概要は次のとおりです。

なお、監査結果は、本日(11月14日)請求人に通知するとともに、鳥取県公報により公表します。

  

監査結果の概要

第1 請求の要旨

1 概要

日本国政府は、2022年9月27日に「故安倍晋三国葬儀」(以下「本件国葬」という。)を挙行することを閣議決定した。本件国葬は国費をもって行う国家儀式と考えられるから、これに鳥取県知事(以下「知事」という。)及び鳥取県議会議長(以下「議長」という。)が公費にて出席・参列すること、すなわち本件国葬に関連して公費(県費)が支出されることが相当の確実さをもって予測され、同月14日には知事は本件国葬に公費で参列することを公表した。

本件国葬が違憲・違法なものと考えており、その結果、本件国葬に関連して支出される公費もまた違憲・違法な支出になるものと考える。そこで、私たち請求人は、地方自治法(以下「法」という。)第242条第1項の規定に基づき、鳥取県監査委員に対し、本件国葬に知事及び議長が参列するに際して公金を支出することを差し止めることを求める。

 

2 対象となる知事及び議長の行為及びそれに関する公金の支出について

2022年9月27日に挙行される本件国葬に関して、知事及び議長の参列・出席に関連する公金の支出行為一切(随行職員に関する支出等も含む。)。

 

3 本件国葬の違憲性・違法性について

(1)日本国憲法の根底にある個人主義

私たちの社会は、何よりもまず、私たち一人ひとりが等しく尊重される存在であるということを大前提として成り立っており、これを個人主義と呼んでいる。

(2)憲法14条違反

国家として葬儀を行うとするのは、あまりに安倍氏の特別扱いが過ぎ、個人の平等という基本的な大原則に正面から反する。

(3)憲法19条違反

個人の歴史観や世界観に基づいた営為であるはずの追悼を、故人に対する敬意や弔意を持ち合わせていない人も含めて、国中の人に強いる。

(4)憲法20条・89条違反

安倍氏国葬は憲法20条や89条の政教分離規定に違反し、市民の信教の自由を侵害する可能性がある。

憲法20条3項は国及びその機関が「宗教的活動」を行うことを禁止している。国が主催して本件国葬を執行し、知事等がこれに参列し、公金を支出することは、憲法20条3項に反するもので、許されない。

(5)憲法21条違反

国葬を実施することは、弔意表明の「要請」が官民問わず行われ、有形無形の圧力がかけられることにつながり、憲法21条が保障する表現の自由が侵害されることになる。

(6)本件国葬の違法性について

ア 行政活動は法律に基づいて行われなければならない。

イ 内閣府設置法は根拠にならない。

 

4 本件国葬に関して地方公共団体が公費を支出することの違法性について

(1)地方公共団体が行う「事務」はまず「法律」により処理することが必要とされるが、本件国葬に知事らが出席したり、公金を支出することを根拠づける「法律」は存在しない。

また、「法律に基づく政令により処理することとされている」場合は、それも地方公共団体の「事務」といえるが、本件国葬に知事らが出席したり、公金支出することを根拠づける「政令」も存在しない。

(2)国葬への出席は「住民の福祉の増進」を図るものとは言えず、地方公共団体の「事務」には該当しない。

(3)上記の検討から、本件国葬への公金の支出は法第2条第2項に反する違法な行為である。

 

5 本件国葬に関して地方公共団体が公費を支出することの不当性について

安倍元首相の「実績」は、肯定的に評価することなどできないものである。仮に「功罪」両面があるとしても、「罪」の側面が大きく、いま安倍元首相を国葬にして評価することは、時期においても内容においても、全く適当でないというほかない。

 

第2 措置請求

本件国葬に知事及び議長が出席・参列するに際して、公金を支出することの差止めの措置を求める。

公金が支出されてしまった場合には、その返還等(不当利得返還請求、損害賠償請求等)を求める。(令和4年10月7日請求追加)

 

第3 請求の受理

監査委員は、請求人が財務会計上の公金支出の違法性、不当性を主張しており、また、当該行為がなされることが相当の確実さをもって予測されることから、本件請求は法第242条に規定する請求の要件を具備しているものと認め、令和4年9月21日付けで受理した。

なお、措置請求の「公金を支出することの差止め」については、法第242条の2第1項第1号「当該執行機関又は職員に対する当該行為の全部又は一部の差止めの請求」の住民訴訟のような権限は監査委員にはないが、法第242条第1項中に「当該行為を防止し」とあることから、公費を支出する行為を防止することを求める意とし、受理することとした。

また、9月27日付けで請求人を7名追加し合計9名とする補正書が提出され、10月5日に受理した。さらに、10月7日付けで請求内容を追加する補正書が提出され、同日に受理した。

 

第4 請求人の陳述の機会

請求人に対して、法第242条第7項の規定に基づき、令和4年1025日に陳述の機会を設けたところ、請求人のうち2名の陳述があった。

 

第5 監査の実施

1 監査対象事項

本件請求書及び陳述の要旨から、本件の監査対象事項について、「本件国葬への知事及び議長の参列・出席に関連する公金の支出(随行職員に関する支出等も含む。)は法第242条第1項に規定する違法又は不当な公金の支出に当たるかどうか。」とした。

2 監査対象機関

鳥取県総務部総務課(以下「総務課」という。)及び鳥取県議会事務局(以下「議会事務局」という。)

 

3 監査対象機関に対する監査の実施

本件請求について、本件国葬への参列に係る認識を確認するとともに、公金の支出の状況について監査を実施した。

 

4 監査の実施期間

令和4年9月21日から同年11月4日まで

 

第6 監査の執行者

監査委員 桐林 正彦

監査委員 山根 朋洋

監査委員 奈良井 恵

監査委員 福田 俊史

 

第7 本件請求に係る監査の結果

1 監査対象機関から確認した事実及び監査対象機関の見解

(1)総務課

ア 知事の出席について

令和4年9月13 日、鳥取県東京本部経由で本件国葬への案内状が届いた。同月14日、出欠の取りまとめを行っている全国知事会に電子メールにて出席の旨回答した。

 

イ 本件国葬への案内状について

知事宛てに送付された国葬への案内状には、次の項目が記載されていることを確認した。(別添1のとおり)

(ア)日時

(イ)場所

(ウ)参列の服装

(エ)集合場所・時間等

(オ)代理出席・随行者

(カ)手荷物等

(キ)連絡先

(ク)新型コロナウイルス感染防止に関する留意事項

 

また、国からはこの案内状以外には個別には国葬の内容等に関する情報が示されていなかったことを確認した。

 

ウ 本件国葬への参列についての認識

国葬であるか否かを問わず、政府が主催する公の行事への出席依頼があったので、地方自治体の長の公務として出席したものであり、その費用は公費で支払われるべきものである。

 

(2)議会事務局

ア 議長の出席について

令和4年9月12 日、全国都道府県議会議長会(以下「全議」という。)から郵送により議長宛てに本件国葬への案内状が届いた。同月14日、議会事務局は議長の意向を確認し、議長が出席する旨を全議に対し電子メールにより回答した。

 

イ 本件国葬への案内状について

議長宛てに送付された国葬への案内状には、次の項目が記載されていることを確認した。(別添2のとおり)

(ア)日時

(イ)場所

(ウ)参列の服装

(エ)集合場所・時間等

(オ)代理出席・随行者

(カ)手荷物等

(キ)連絡先

(ク)新型コロナウイルス感染防止に関する留意事項

 

また、国からはこの案内状以外には個別には国葬の内容等に関する情報が示されていなかったことを確認した。

 

ウ 本件国葬への参列についての認識

国の公式行事として、国から議長宛てに上記イのとおり案内状が届いたものであり、知事とも相談した上で参列をすることとしたものである。

 

2 監査の結果

(1)本件国葬への出席に係る経費について

知事、議長の旅費については、規程に基づき手続がなされていた。支払われた経費について、法令等に違反する点は認められなかった。

なお、国葬への参加に関して、職員の随行はなく、旅費、経費の支払がないことを確認した。

 

(2)本件国葬の違憲性・違法性についての監査結果

請求人は、本件国葬の違憲性・違法性について主張しているが、本件国葬は国の行為であり、法第242条第1項に定める住民監査請求の対象外である。

 

(3)本件国葬に関して地方公共団体が公費を支出することの違法性についての監査結果

ア 請求人の主張

請求人は、次のとおり本件国葬への知事及び議長の出席が、法第2条第2項に反する違法な行為であると主張する。

地方公共団体が行う「事務」は「法令」により処理することとされていることが必要とされるが、本件国葬に知事らが出席したり、公金を支出することを根拠づける「法令」は存在しない。また、国葬への出席は「住民の福祉の増進」を図るものとは言えず、地方公共団体の「事務」には該当しない。

 

イ 法に定める地方公共団体の事務の範囲

法第2条第2項は、普通地方公共団体の事務を『「地域における事務」及び「その他の事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされるもの」』と規定している。この規定は、普通地方公共団体が一定の行政区域内において行政機能を担う統治団体であり、住民福祉の向上を目的として、統治の作用としての事務一般を広く処理する権能を有することを明らかにするものである。

これについて、最高裁(平成1812月1日最高裁第二小法廷判決)では、「普通地方公共団体が住民の福祉の増進を図ることを基本として地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとされていること(法1条の2第1項)などを考慮すると、その交際が特定の事務を遂行し対外的折衝等を行う過程において具体的な目的をもってされるものではなく、一般的な友好、信頼関係の維持増進自体を目的としてされるものであったからといって、直ちに許されないこととなるものではなく、それが、普通地方公共団体の上記の役割を果たすため相手方との友好、信頼関係の維持増進を図ることを目的とすると客観的にみることができ、かつ、社会通念上儀礼の範囲にとどまる限り、当該普通地方公共団体の事務に含まれるものと  して許容されると解するのが相当である。

しかしながら、長又はその他の執行機関のする交際は、それが公的存在である普通地方公共団体により行われるものであることにかんがみると、それが、上記のことを目的とすると客観的にみることができず、又は社会通念上儀礼の範囲を逸脱したものである場合には、当該普通地方公共団体の事務に含まれるとはいえず、その費用を支出することは許されないものというべきである。」と判示している。

 

ウ 本件国葬の内容

本件国葬について、本年7月22日に閣議決定された内容は、請求人提供の事実証明書資料1に基づき監査委員で確認したところ、別添3のとおりである。

また、知事又は議長が本件国葬について主催者から伝えられた情報は、上記1(1)イ及び1(2)イのとおりである。これらの記載事項には、本件国葬が社会通念上の儀礼の範囲を逸脱すると判断するに足りる内容は含まれていない。

 

エ 監査委員の判断

上記2(3)イに引用した判決は、法第2条第2項に規定する「地域における事務」には、個別具体的な法令の根拠はないが、普通地方公共団体の役割を果たすため相手方との友好、信頼関係の維持増進を図ることを目的とすると客観的にみることができ、かつ、社会通念上儀礼の範囲にとどまる行為が含まれることを前提としていることは明らかである。

また、請求に係る「国葬」の内容については、別添3、上記1(1)イ及び1(2)イに示した案内状のとおりであり、これに出席する行為が社会通念上儀礼の範囲を逸脱するものと考えることはできず、知事及び議長のいずれもその他の意義や目的を認識して出席したものとは認められない。

以上から、知事及び議長の国葬への出席は「地域における事務」と認められ、違法な行為とは言えない。

 

(4)本件国葬に関して地方公共団体が公費を支出することの不当性についての監査結果

ア 請求人の主張

請求人は、本件国葬に関して地方公共団体が公費を支出することの不当性の根拠として、安倍元首相の実績は肯定的に評価できないものであり、国を挙げて追悼すべきとは言えない旨を主張している。

イ 監査委員の判断

法第242条第1項に言う「不当」な支出か否かは、対象とする事務の行政目的を逸脱していないか、ないしはその実現に必要かつ十分かどうかとの観点から判断すべきであり、その他の事由で判断すべきではない。

しかしながら、請求人の主張は、安倍元首相の実績が肯定的に評価できないから国を挙げて追悼すべきではないことから国葬に参加する費用の支出は不当であるとするものであり、住民監査請求制度の対象外であると言わざるを得ない。

 

(5)本件請求に対する結論

以上から、措置請求事項については、棄却する。

  

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