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タイ王国及び東南アジア諸国の経済・産業動向、社会動向報告書

~タイの医療事情及び医療制度~

 こんにちは。鳥取県東南アジアビューローの辻です。

 日本人に人気のあるタイのものに、タイ料理、果物、民族舞踊、寺院(遺跡)などが上げられますが、高い人気を誇っているのが「タイマッサージ」です。タイマッサージは、遡ること約 2500 年前のインドに起源を持ち、ブッダの主治医だったシヴァカ・ゴーマラバット師によって編み出されたと云われている伝統医学の一つです。

 同様に「ハーバルボール」も、派生形ながらタイ伝統医学のひとつとして現代に受け継がれています。木綿の布に様々なハーブを詰めて丸め、それを蒸して温めたものを身体にポンポンと押し当てていく療法です。こちらはチベット王国に起源を持つといわれており、タイでは産後ケアや疲労回復、免疫力を高めるために利用されてきました。タイの人々にとって誇れる、且つ欠かせない温熱医学療法のひとつです。こうした伝統医学をはじめとして、タイの医療は多様性を持っており、その水準の高さも近年注目を集めています。

ハーバルボール
ハーバルボール


 今回はタイの医療事情及び医療制度についてお伝えします。


【目次】
  1. タイの医療水準
  2. タイの医療インフラ
  3. タイの医療機関
  4. 最後に

1 タイの医療水準

 医療施設と医療プログラムの評価・認定を行っているアメリカの非営利団体「JCI(国際医療施設認定合同機構)」によると、医療の安全と質が最高位のGold Medalに認定された病院は、タイ国内に52施設(世界1,000余施設、日本30施設)あり、世界74ヵ国中第4位にランクインしています。東アジアと東南アジアでランクインしている国は、中国(3位)、タイ(4位)、韓国(9位)、シンガポール(12位)、日本(15位)の5ケ国だけです。(2020年12月現在)

 タイ政府は、これらの施設を活用するメディカルツーリズム(医療目的の旅行)を推奨し、成果を上げています。こうした取り組みは2004年に始まりました。この年、タイ政府はタイをアジアの医療拠点として開発するための「メディカル・ハブ5ヵ年計画」を策定し、メディカルツーリズムの推進を国家政策とする計画を打ち出しました。この計画は「(1)高度な医療サービス」、「(2)スパや古式マッサージなどホスピタリティ溢れるヘルスケアサービス」、「(3)タイのハーブ製品」の3つを柱として推進するとしており、主として民間病院が提供する高水準医療の提供と魅力的な観光資源を組み合わせた企画になっています。

 タイでは、欧米やシンガポールなどよりも安価に治療を受けられることもあって、主にミヤンマー・ラオス・カンボジア・インドなど近隣諸国の富裕層や、国民所得の高い中近東諸国・欧州諸国から多くのメディカルツーリストを受け入れています。その数は2001年の約60万人から2012年には約253万人に増加し、2018年時点の試算では2021年には300万人に達すると見られていました。残念ながら2020年初頭からのコロナ禍により、現在は一時的に減少していますが、タイ政府は2020年4月から同年6月までに外国人の入国を全面的に禁止した後、入国制限を緩和※する際に、入国の条件の一つとしてメディカルツーリズム目的での入国を含むなど、コロナ禍においても優遇する方針をとっています。
※入国制限緩和後も全ての入国者に隔離検疫が義務付けられています。


2 タイの医療インフラ

 タイが現在有する医療インフラは一朝にして作られたものではありません。主として次の三つに起因するものと思われます。


1)優秀な医療関係者の育成

 現在のタイの医療制度の礎を築いたのは、日本の明治天皇とほぼ同じ時期にタイを統治したラーマ5世(チュラロンコーン大王)ですが、その後の大きな推進役となったのが、現国王ラーマ10世の祖父に当たるソンクラーナカリン王子です。ソンクラーナカリン王子はアメリカの名門ハーバード大学で医学を学び、1926年に同大学の公衆衛生学の博士号を取得しましたが、1929年タイへの帰国中に38歳の若さで逝去されました。王子の意思を受け、タイ政府は世界保健機関(WHO)などが途上国で行うべきとしていた施策を優先して実施しつつ、地域でのプライマリーケア(身近な総合的医療)や公衆衛生活動などに国を挙げて取り組んできました。その結果、国全体の80%を公的医療が支える今の医療体制が整備されました。

ソンクラーナカリン王子(出典:Mahidol University)
ソンクラーナカリン王子(出典:Mahidol University)


 1963年には、タイの医学・医療の発展に大きく寄与したソンクラーナカリン王子の功績を称え、タイで初めて設立された医科大学(1943年創立)に、同王子の幼名である「マヒドーン」の名が冠されました。マヒドーン大学は、現在では16学部、9つの研究所、5つのカレッジ、5つのセンターを有する総合大学へと発展し、2015年にはイギリスの大学評価機関クアクアレリ・シモンズによる世界の大学ランキング(QS World University Rankings)で、医学分野で世界のトップ100の大学にランクされました。国内では「タイの東大」といわれるチュラロンコーン大学医学部と並び、タイ医学界の最高学府とされています。


2)東南アジアでは革新的な医療保険制度へのタイ政府の取組み

タイの公的医療制度、民間保険制度に係る整理表
タイの公的医療制度、民間保険制度に係る整理表


 タイの医療保険制度は、「(1)公務員に対する医療給付制度(CSMBS)」、「(2)民間企業の被雇用者が加入する社会保険制度(SSS)による医療給付」、「(3)農民・自営業者などを対象とした国民医療保障制度(UCS)」の3つの制度により、十分とは言えないまでも全ての国民が公的医療保障の対象となっています。「(3)国民医療保障制度」は、1回30バーツで診療・治療を受けられるという制度で、別名「30バーツ医療制度」と呼ばれています。2002年に当時のタクシン政権によって政治主導で導入され、中進国で国民皆保険制度の実現に成功した代表的な例となりましたが、受診できる医療機関は事前に登録した居住地域の公立病院に限られていて、利用者が急増したことにより待ち時間が非常に長くなったため、一部の中所得層のタイ人は病院での受信を避け、市販薬に頼る傾向が見られます。


3)公的医療機関による医療サービスの整備

 タイに駐在した経験がある日本人医師は、タイの医療について次のように話しています。「私的医療の割合が 25%を超えるようになると、公的機関にいる優秀な医療従事者や軽症患者までもが私立病院に流れる可能性が高まる。また民間医療と公的医療のサービスの格差も大きくなり、患者の不満足感を助長するため、制度崩壊の危険がある。貧富の差も大きく、自由市場を享受している社会背景があるタイにおいて、公的医療の占める割合を80%で維持し、特に地方におけるプライマリーの医療施設の質を保ち、制度を維持している背景には、公衆衛生のマインドを持った医師たちの活躍がある。」こうした使命感をもった医師の存在により、優秀な医師が民間医療に流れることなく、公的(政府系・軍系)病院が人材を確保し、公的病院のサービスが保たれていると考えられます。


タイの医療機関

 タイでは、国公立病院などの公的医療機関(県レベル:75、保健省/軍傘下:127、郡レベル:941、これに紐付けられた村単位のヘルスセンター、コミュニティーヘルスポスト、並びにプライマリー・ヘルス・センター(PHC)を加えて累計79,000余)の他、300余の民間医療機関が併存しています。この医療網による一次医療のカバー範囲は、一部の山岳地帯を除き、非常に広域であると言えます。その一方で、現在医療現場の課題となっているのは、医療従事者の偏在です。総人口の約1月3日をかかえる北東部をはじめ、地方では慢性的に医師が不足しており、人材が集中する都市部における医師集中度は北東部の7倍程と大きな偏りが出ており、この是正が必要とされます。公的医療機関では、都市部以外でも一部地域の中心的な基幹病院では高度な医療が行われています。公立病院は医療費が安いのが大きな魅力ですが、その年間予算は不十分で、医薬品等の使用にも制約があります。どの病院も終日患者で溢れ返っているため、外来受診は長時間待つことが常態化しています。医師は基本的には英語が話せますが、看護師や事務関係者はタイ語しか通じない場合が多いです。また、農村部など一部の貧困地域では自治体や保険所が、PHC として病院の代わりに簡単な診察と処方を無料でするケースもあります。民間医療機関は、日本とは異なり株式会社、ヘルスケア企業の形態をとり、都市部に集中しています。バンコクの代表的な私立病院の医療水準はかなり高く、日本の病院と比較しても遜色ありません。

 タイは自由診療制を採っているため、タイ人でも高額な治療費を払える高額所得者層(人口の10%相当)、メディカルツーリズムでタイを訪れる外国人、駐在する外国人や、出張者や旅行者を含めて7万人から10万人いると言われる日本人をターゲットに据える病院が多く存在します。特に日本人をメインとする病院では、日本の医学部を卒業したタイ人医師、或いは日本の病院で研修経験のあるタイ人医師や看護師、並びに日本人医師が対応します。日本人専門窓口が設けられ、診療時も日本語通訳(日本人又はタイ人)が付き添うため、日本人患者が受診しやすい環境が整っています。ただ、一口に民間医療機関といっても、こういった大規模病院だけでなく、専門分野に特化した小規模なクリニックも多く存在します。


タイの医療機関

 高齢化社会の進むタイでは、既に高齢化社会に入る日本をモデルケースと見て、特に医療や福祉介護の分野の技術やノウハウを積極的に自国へ取り入れようという姿勢が見られます。2015年、鳥取県はマヒドン大学及びタイ工業連盟(医療機器部会)との間で「医療機器産業を担う人材育成」のMOUを締結しています。民間でも、総合医療サービス、歯科、薬局等も含めタイへの進出、医療・教育機関との提携を結ぶ動きが活発化してきています。

 タイは中進国の罠から抜け出し、近い将来に先進国入りを果たすことを目標に掲げています。国民医療保障制度の施行、メディカルツーリズムの推進、高齢化社会の進行や生活習慣の変化という社会環境の変化、医療水準の向上といった様々な観点から見て、将来的に医薬品や医療機器のニーズの高まりだけでなく、医療サービスについても、今後の更なる市場の拡大が期待されます。

東南アジアにおける新型コロナウイルス感染症の状況

 最近の東南アジア各国の新型コロナウイルス感染症の状況についてお伝えします。5月は特にマレーシアとタイで感染が拡大しました。

 マレーシアは、4月上旬には1,200人/日くらいだった新規感染者数が、5月に入る頃には3,000人/日を突破、その後も感染拡大が止まらず5月下旬には1万人/日に迫る状況になっています。

 タイは、4月上旬までは100人/日を下回っており、感染を抑えこむことに成功していましたが、4月中旬以降急速に感染が拡大し、現在も3,000人/日前後で推移しています。

 ベトナムでは、日本でも報じられている通り変異ウイルスが発見され、感染者数が増加傾向を続けています。ベトナムは周辺諸国に比べワクチンの調達が遅れており、今後の更なる感染拡大が心配されます。

 インドネシアは、4月から5,000人/日前後が続いていて、増加も減少もせずに高止まりしている状況です。

 シンガポールは、5月中旬に市中感染者が増えたことを受け、活動制限を強化しましたが、半年以上100人/日を下回っており、ワクチン接種も人口の3割近くが必要回数の接種を完了しています。

県内企業の皆様への現地情報のご提供について

 タイ王国の最新の現地情報については、以下にお問合せください。

鳥取県東南アジアビューロー 担当:辻 三朗 (TSUJI SABURO)

TEL/FAX:+66-(0)2-260-1057+66-2-260-1057
E-mail:tottori@aapth.com

鳥取県商工労働部通商物流課 担当:永田

TEL:0857-26-76600857-26-7660
FAX:0857-26-8117
E-mail:tsushou-butsuryu@pref.tottori.lg.jp

鳥取県東南アジアビューローの運営法人(鳥取県が業務委託)

アジア・アライアンス・パートナー・ジャパン株式会社

 タイを中心に、ベトナム・インドネシア・インド・メキシコにて主に日系中堅・中小企業様の海外進出や進出後の会計税務法務を中心とした運営支援業務を行っております。

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最後に本ページの担当課    鳥取県商工労働部通商物流課
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