2021年2月 タイ王国及び東南アジア諸国の動向

    タイ王国及び他の東南アジア諸国の経済・産業動向、社会動向報告書

    1. タイの電線とバンコクのリスク
    2. タイ電力発送配電体制
    3. タイ電力発電システム
    4. タイの電力事情の課題
    5. タイと日本との連携

なお、全文版ではタイの経済統計を1ページにまとめた「ワンページタイ経済」も併せてご覧いただけます。

  

タイ王国及び他の東南アジア諸国の経済・産業動向、社会動向報告書2021年2月

 こんにちは。鳥取県東南アジアビューローのサポートをしている八木です。

 

1.タイの電線とバンコクのリスク

 タイでの生活は8年となりました。日々新たな光景に接する機会はまだまだあります。例えば最近引っ越した自宅マンションの窓の外で見かける可愛いリスです。電信柱の電線は雑多に巻かれ繋がれていて、その電線の束の上を、感電死はしないのは解りつつも心配する私を他所に、可愛いリスが走りまわります。日本では見ることができない風景の一つです。当地タイでも少しずつ電線地中化は進んでいますが、この癒される光景は続いて欲しいと思っています。

 さて、風景ではありませんが、常日頃から感心していることが有ります。それは公共料金の安さです。物価水準を加味しても、水道代は非常に安く、電気代も安価です。当地で私は、45平方メートル の単身者用のマンションに住んでいます。水道代は、月350円相当、電気代は月4,000円相当です。電気はKWH当たり約12円です。東京の留守宅には家族が二人で住んでいますが、広さ120平方メートルのマンションでの水道の支払いは、毎月8,000-10,000円で、電気代は毎月25,000円前後。料金体系は同じでない為、単純比較は誤解を招くかもしれませんが、KWH当たり27円相当です。

 断水は無く、停電も非常にまれです。(個人的な経験ですが)1960年代初頭の私の生まれ故郷の新潟県、1990年初頭のベトナム、2000年前後のトルコに比べて、ずっと快適です。そして停電が無いのは非常に助かります。これらタイは既に低開発国ではなく、一人当たりの国民所得US$5,900ということにとどまらず、真の中進国入りしている証左かと思います。 現在のタイの一人当たり国民所得は、約50年前(1975年頃)の日本と同水準です。

2.タイ電力発送配電体制

 その電気ですが、発電は(設立を1939年に遡る)のタイ王国発電公社EGAT(エネルギー省所管)、配電は首都圏配電公社(バンコク都と周辺2県管轄の)MEAとそれ以外タイ国全土所管のPEA(両公社ともに内務省管轄)が担っています。日本とは異なり、発送電分離の体制を古くから敷いています。(但し発電所からは配電公社への主要幹線送電網はEGATが所有管理しています。)

出展:EGAT(タイ発電公社)

3.タイ電力発電システム

 1980年代後半以降、安価な生産コスト(電力、水、労働力、土地、税制)を求めて、更には1990年以降迂回による対米向けの特恵関税を享受すべく日本から製造業の移管が進み、そして時のタクシン政権が唱えた「東洋のデトロイト」を目指す動きに後押しされ、裾野産業が広い自動車・家電産業がタイに進出、乃至はシンガポールから移管されました。移管まで行かずとも、一部部品は先行した韓国、台湾、香港、シンガポールをも巻き込み、東アジアのサプライチェーンの一角に組み込まれました。結果国民所得(GNP)は順調に年率3%前後で伸びていきました。それに伴い電力需要も増えました。

 タイの発電は火力と水力が中心です。火力の中心は石炭と原油であり、1970年代から1980年代にかけてのオイルショックによる原油価格高騰の影響を受け、コスト増を経験しました。同時期、タイ湾において大型天然ガス田「エラワン」「ボンコットン」が発見され、これを活用して以降LNGガス発電が中心となりました。並行してシリントーンダムが1971年に完成、翌年チュラポーンダムが完成し、水力発電設備の増強も行ってきました。結果原油価格高騰の影響を軽減することができました。

 現在では電力供給の約6割は天然ガスです。次いで、石炭・褐炭が18%、輸入が12%、再生可能エネルギーが9%です。電力需要を賄う天然ガスはタイ湾とアンダマン海で生産されていますが、日量5億立方フィート必要なことに対しエラワンとボンコットで賄われるのはこの40%だけです。30年以内に枯渇する可能性を考えると、海外からの輸入促進に加え海外での開発権取得を模索しなければならい事態に直面しています。益々タイは中国と競うことになり、LNGを獲得するには高値に甘んじなければならなくなり、今後コスト増が懸念されます。一方燃料の多様化・増強を考え、石炭火力と水力発電の利用拡大が検討されましたが、地元の強い反対などから開発は計画通りには進んでいません。

 増強の選択肢として、2020年〜2021年を目途に合計500万kWの原子力発電所の運転開始を行うとし、建設準備が進められ国家エネルギー政策委員会(NEPC)の下に原子力発電基盤準備委員会(NPIPC)が設置されました。しかし、2011年3月の福島第一発電所事故を受けて原子力発電の導入計画に関する再検討が進められ、さらに原子力開発に反対するタイ貢献党を中心とした新政府が発足すると、2012年6月には原子力発電所の完成時期を2026年に先送りすると発表しました。
 しかし、タイは1977年から2MWの
研究用原子炉を持ち、中性子を利用した研究やヨウ素131など医療用ラジオアイソトープを生産するなど、安全管理を徹底しつつ積極的に原子力技術開発を進めています。

4.タイ電力発電システム

 今後の需要動向を鑑みるに、東部経済回廊(EEC)開発計画によりますます需要が増えることは確実です。

 2016年現政権は、従来軍用空港であったウタパオ空港の民間利用化、マオウダプット港の拡張、東部3県(チョンブリー、ラヨーン、チャチェンサオ)を結ぶ高速道路の開発、スワンナフプーム空港、ドンムアン空港、ウタパオ空港を結ぶ高速鉄道の開発といった大規模インフラ開発計画を含んだ経済特区構想を打ち出しました。そして10年以内に電気自動車の普及が予想されます。PDP(電源開発計画)では2015予測の4965万KWから6,000万KW超の需要が見込まれます。 タイにおいて、課題は次の2点です。

1) 天然ガスに対する過度の依存度の改善

2) タイ発電公社EGATの寡占体制から競争を更に促し、更に安価を追及すること。

 1)の課題に対して、タイ政府は既にこれ等に対処すべくPDP(電源開発計画)を策定しております。 2015年策定の長期電源開発計画は30年先を見越していましたが、想定より早く2019年1月にPDP2018 として改訂せざるをえませんでした。当初の計画では、2017年末時点の電力供給量は4万6090MW想定しましたが、既にそれを越えてしまったためです。新たな長期計画期間内では2万5310MWが老朽化などの理由で無くなる一方、新規プロジェクトとして5万6431MWが発電供給される見通しとなりました。2037年までに合計7万7211MWを目指しています。

出典:タイ政府

※コンバインドサイクル発電/ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせた二重の発電方式です。最初に圧縮空気の中で燃料を燃やしてガスを発生させ、その圧力でガスタービンを回して発電を行います。

※コジェネレーション発電/コジェネレーション(熱電併給)は、天然ガス、石油、LPガス等を燃料として、エンジン、タービン、燃料電池等の方式により発電し、その際に生じる廃熱も同時に回収するシステムです。

出典:タイ発電事業会社

2037年までの間に供給電力割合は再生可能エネルギーによる発電を13.5%から32.5%まで高め、天然ガスや石油を使う発電方式の割合を押し下げる計画です。その結果、2037年までに発電燃料は天然ガスが現在の60%から53%へ削減、再生可能エネルギー20%、石炭12%となる見通しです。

 2)の課題に対してタイ政府は既に電力の自由化に着手しています。EGATは、長らくシングルバイヤー制度を取り、自社発電とIPP、隣国からの3156万kWを購入し、MEA、PEA 、並びに大口需要家に供給していました。電力供給源を多様化することで低廉な電力供給を可能にするため、2016年全面的な電力の自由化を推進。2017年タイの発電量の内、電力の生産の割合は、EGATは36-47%、IPP(独立系発電事業者)も36-38%、SPP(小規模発電事業者)とVSPP(極小発電事業者)が18%、隣国(主としてラオス)からの輸入が9-10%です。

5.タイと日本との関係

 日本は昨年、2050年までに排出するCO2を計算上ゼロにする「カーボンニュートラル」の実現を目指すことを宣言。タイは日本と同様にエネルギーの輸入国であるため、「日本モデル」がタイのCO2の排出量削減の手本になると考えています。  

 一人当たりの国民所得が日本の50年前の中進国といえども、可愛らしいリスが街中で見守られ、日本人が昔持っていた「気配り」のお陰で1975年当時の日本(私は大学4年生)だけでなく、今の日本と比較しても物心ともに快適な世界です。「中進国の罠」から脱却を実現し、ますますの発展を願うばかりですが、それに必要なエネルギーの確保はまず最低限の 必要不可欠な条件です。そしてタイに限らず、先進国全体の課題ですが、少ないエネルギー消費で価値を生み出せる新時代型産業への転換が肝要です。IPP(PPSも)およびSPP(VSPP)でも鳥取県企業のお力を借りることが出来ればと祈念する次第です。  

 尚 本稿をしたためる迄、恥ずかしながら知らなかったことがあります。タイ王国発電公社(EGAT)は、ガスタービン移設の実績があり、それは何かと調べたところ2011年3月東日本大震災よる被災で電力の安定供給不能に陥った東京電力に対してガスタービンを無償貸与し支援してくれていました。末筆ながらここに一人の日本人としてタイEGATに謝意を表したいと思います。

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鳥取県商工労働部通商物流課 担当:村上

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タイを中心に、ベトナム・インドネシア・インド・メキシコにて主に日系中堅・中小企業様の海外進出や進出後の会計税務法務を中心とした運営支援業務を行っております。

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