防災・危機管理情報

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第1章 監査の概要

第1 監査の種類

 地方自治法第252条の37第1項の規定に基づく包括外部監査

第2 選定した特定の事件

 下水道事業に関する財務事務の執行について

第3 監査の対象とした理由

 鳥取県の下水道事業は、県内の恵まれた豊かな自然環境と県民の快適な生活を守るために極めて重要な役割を果たしている。一方でその下水処理場等の投資は巨額でかつ長期間準備されるものであり、現在のみならず将来に亘(わた)って県の財政に与える影響が大である。
 ところで、平成23年3月11日の東日本大震災では、東北地方を中心に下水処理場や下水管が大きな被害を受け、多くの被災地でトイレの使用や生活排水の処理に苦労したことが報道され、平時は目に見えないところで日々活躍し、縁の下の力持ちと言われる下水道がいかに重要なものであるかを、あらためて気づかされた国民は多かったように思う。
 このように、県民の生活にとって必要不可欠な生活基盤である下水道に対し、都道府県別の汚水処理人口普及率(平成22年度末)によれば、鳥取県は全国で10位という比較的上位に位置している点は評価できるが、いつ起こるかもしれない災害への対策はもちろん、自然発生的な老朽化に対しても財政面からの将来への計画的な備えが十分になされているか等は、県民にとって大変重要な関心事である。
 また、県は、財政状態が厳しい中、住民福祉を増進させるため、経済性・効率性・有効性の観点に立ち、事業が社会経済・生活環境の変化に対応しているか等を検証し、常に見直しを行う必要がある。
 そこで、地方自治法第2条第14項及び第15項の規定の趣旨を達成するため下水道事業に関する財務事務の執行について監査する必要があると判断した。

第4 監査を実施した期間

 平成24年7月24日から同年12月31日まで

第5 監査対象部局

 下水道事業に関する監査のため、生活環境部及び各総合事務所の関係課・局並びに公益財団法人鳥取県天神川流域下水道公社(以下「下水道公社」という。)を対象とした。

第6 監査の方法

 この監査の実施に当たっては、鳥取県の下水道事業に係る一般会計の事業及び天神川流域下水道事業特別会計の歳入・歳出のうち必要と認めたものを抽出し、さらに下水道公社の事務の執行について関係法令に従って適正に行われているか等の財務事務の監査の他に、経済性・効率性・有効性の観点を加味し、関係書類の検討並びに必要な監査を実施した。

第7 監査の視点

 1 地方自治法第252条の37によれば、包括外部監査人は、包括外部監査対象団体の財務に関する事務の執行及び包括外部監査対象団体の経営に係る事業の管理のうち、同法第2条第14項及び第15項の規定の趣旨を達成するため必要と認める特定の事件について監査するものとされる。
 つまり、我々が行う監査は、住民福祉の増進を目的として、経済性、効率性、有効性を追求し、地方公共団体がその事業等のあり方を新たな視点から見直し、地方行財政改革を促す監査であることを期待され、行うものである。
 2 私たち4人は、税理士である。税理士は、税に関する唯一の国家資格であり、仕事柄日常において納税者たる県民の声を受け止める立場にある。その使命は申告納税制度の理念に沿って適正な納税を進めることにあるが、その理念を推進させるには県民の行政への信頼が不可欠であり、税の無駄使いは県民の納税意欲を減退させることになると考える。納税意欲と行財政改革は表裏一体であり、そういう意味で県民は、税の使われ方に大変注目している。従って我々は、このたび包括外部監査を行うに当たって、その期待を背負って納税者たる県民の目線で監査することを心がけた。
 3 具体的には次の着眼点で監査した。
 (1) 一般会計に関する各事業において、問題となる事項はないか。
 (2) 特別会計と一般会計との間における繰入れ及び繰出しは適正か。
 (3) 固定資産の管理及び利用状況は適正か。
 (4) 市町からの負担金単価の算定基準は適正か。
 (5) 入札・契約に関する事務手続等が適切に行われているか。
 (6) 下水道公社との委託契約に関して契約内容等に問題はないか。
 (7) 下水道公社の棚卸資産管理は適正に行われているか。
 (8) 県の人事異動の際、財務に関する業務の引継ぎは適正になされているか。

第8 監査手続

 実際に中部総合事務所及び下水道公社等に赴き関係書類の説明を受け、ヒアリング及び監査を行った。監査後、生活環境部等と質疑のやりとりを行い、報告書を作成した。

第9 包括外部監査の実施者

   外部監査人      税理士  山﨑 安造
   外部監査人補助者   税理士  高田 充征
   外部監査人補助者   税理士  村山 敏隆
   外部監査人補助者   税理士  公認会計士 池原 浩一

第10 利害関係

 包括外部監査の対象とした事件につき、外部監査人及び補助者は地方自治法第252条の29に規定する利害関係はない。

第2章 監査の結果(指摘事項を抜粋、要約した)

第1 天神川流域下水道事業特別会計

1 市町からの負担金

 鳥取県においては天神川流域下水道の維持管理を適正に行うため、昭和58年3月に維持管理財政計画を策定し、同年12月に関係市町と覚書を締結し、次の事項を定めた。

ア 流域下水道の維持管理に要する費用は、下水道法第31条の2の規定によって、流域関連公共下水道管理者(市町)に対し、その受益の割合に応じて負担を求めるものとする。
イ 負担金は、排水1立方メートル当たりの負担金単価によって算定するものとする。
ウ 各年度の市町負担額は、流入水量に負担金単価を乗じた金額とする。
エ 負担金単価は、昭和58年度から平成24年度までの30年間に見込まれる予測流入水量に基づく負担金総額と管理運営に要する費用が均衡するようにその原価計算を行い算定する。
オ この負担金単価は、実態に即し3年ごとに見直しを行う。

 また、資本費の回収については、平成13年3月に関係市町と覚書を締結し、次の事項を定めた。
ア 平成13年度から資本費の回収を行うものとする。
イ 資本費の回収対象範囲は、平成17年度末までに借り入れた資本費(交付税措置を除く。)とする。
ウ 資本費の回収は県と市町が2分の1ずつ行うものとする。
エ 資本費回収単価については、県と市町が協議して3年毎に決定する。

 これらの覚書に基づき、処理水量や施設の維持管理費用を見通した財政計画を策定し、流量当たりの単価を定めて、関係市町から流量に応じた負担金を徴収している。この財政計画は3年ごとに見直し、県と市町とで締結している覚書を改正して単価を改定している。その際、下水道法第31条の2第2項により、関係市町の意見聴取を行ったうえ、県議会の議決を経て定められることとなっている。
 過年度の流量当たり負担金単価の推移は次の表のとおりである。
 
流量当たり負担金単価の推移  (単位:円/㎥)           

区分

S58~60 S61~63 H1~3 H4~6 H7~9 H10~12 H13~15 H16~18 H19~21 H22~24
  流量当たり単価
(円/㎥)

71

76

86

99 

112

116

116

116

116

116

維持管費A

71

76

86

99

112

116

92

82

74

70

資本費回収
(県分)B

0

0

0

0

0

0

12

17

21

23

資本費回収
(市町分)C

0

0

0

0

0

0

12

17

21

23

市町から県に支払う金額
 A+B

71

76

86

99

112

116

104

99

95

93

 昭和58年度以降、改定の度に流量当たり単価は増加傾向にあったが、平成10年度~12年度の改定以降116円/立方メートルで据え置きの状態が続いている。
 平成21年12月の改定時における単価の計算においては、まず負担金単価額116円/立方メートルを維持するという結論のもと、平成22年度から3年間の維持管理費用の予測を行い、維持管理費単価を算定している。その際に、維持管理費負担金の平成21年度末における繰越金約6.5億円のうち2.6億円を維持管理費に充当している。
 資本費回収分の金額は、負担金の総額116円/立方メートルから上記により計算した維持管理費用部分70円/立方メートルを控除した46円/立方メートルとし、それを県と市町で1/2ずつ充当することとした。

(1) 負担金額の算定方法の改定について【指摘事項】
 流量当たり単価の決定方法は、資本費及び維持管理費両方を含めた単価を算定し、総額から維持管理費負担分を控除した金額を、資本費回収分として徴収している。
 しかし、資本費と維持管理費とはその性質が異なるものであり、まず受益者負担金の総額を決定して、それからその総額をそれぞれ資本費と維持管理費部分に振り分けるような算定方法は採られるべきではない。また、「天神川流域下水道事業の維持管理財政計画」によると、維持管理費に余剰が生じた場合でも、資本費部分に流用することは許されない。結果として、維持管理費部分に余裕を持って単価設定を行った場合、資本費回収の金額が少なくなってしまう。
 適正な資本費回収予測、維持管理費発生予測に基づき金額を算定し、それらを合計した金額を各市町から徴収する方式を採るべきである。

(2) 維持管理費の的確な予測について【指摘事項】
 平成23年度末現在において、維持管理負担金に係る合計6億円超の維持管理費の余剰金が生じている。余剰金が生じている原因は、下水道公社に対する委託金額の協定額の根拠となる指定管理者指定申請時の支出計画額と実際の予算額との差によるものであり、過去3年間で約1億3,000万円の差額が生じている。維持管理費について、不足が生じないために予め余裕のある予測をすることはある程度理解できるが、ここまでの差額が生じるのには問題があるのではないかと考える。これらの過大な維持管理費の見積り額が、最終的には、利用者の負担の増加をもたらす結果となる。今後は、適正な費用予測をすることにより、協定額と予算額との誤差を減らす努力が必要である。
 
(3) 余剰金の取扱いについて【指摘事項】
 平成21年度末における維持管理費に係る余剰金約6.5億円の金額について、平成22年度から3年間の単価決定時において、1億円程度は、不測の事態に備えて、また2.9億円程度は、今後の負担金単価の安定化のために留保し、残りの2.6億円を、今後の維持管理に係る財源に充当する処置が採られた。
 維持管理費の余剰金の取扱いについて明確な根拠が必要であり、不測の事態という曖昧な理由も納得のいくものとはいえない。価格調整、あるいは修繕に備え基金として積み立てておくのであれば、一定の基準を設定し、これらの基準に基づき金額を計算するべきである。

(4) 資本費回収部分に係る余剰金の整理について【指摘事項】
 天神川流域下水道事業特別会計において、市町から徴収した負担金のうち資本費回収部分に余剰が生じたことから、これを一般会計に繰り出すこととしている。
 平成22年度は15,605千円、平成23年度は37,150千円の余剰金が発生している。これは、市町から受け入れた金額よりも、実際に下水道債を償還したことによる元金及び利息の支払金額が少なかったことを意味する。
 資本費回収部分の考え方としては、実際の下水道債の元利償還金に比べ市町負担金収入に不足が出た場合には、一般会計から繰入れを行う一方、資本費回収部分に余剰金が生じた場合には、一般会計に繰り出すこととしている。つまり、今回資本費回収分として市町から預りすぎた金額は、市町に返還されることなく、一般会計に繰り入れられることとなるのである。
 資本費回収分については、これまで不足分について一般会計により補てんを行っていた経緯があり、今回一般会計に繰り入れられた金額については、過去に借り入れていた債務の返還という側面もある。
 しかし、県の会計は単年度決算であり、貸借対照表の作成が行われないため、過去より現在までの一般会計と特別会計との繰入れ・繰出しの経緯及び金額が把握できない状態である。これは、市町の負担と、県の負担が曖昧になった状態であり、下水道事業の受益者負担の原則に反する結果となる。過年度からの一般会計と特別会計との間の繰入れ・繰出しについて、現時点での残高を算定し、適正に整理を行っていくべきである。
 

2 入札・契約制度

(1) 工事監督管理業務の法令違反について【指摘事項】
 下水道法施行令第15条第1項第2号に、公共下水道を設置し、又は改築する場合の工事の監督管理等を行う者の資格について以下のように定められている。
下水道法施行令第15条第1項第2号
 学校教育法による大学の土木工学科、衛生工学科又はこれらに相当する課程において下水道工学に関する学科目以外の学科目を修めて卒業した後、計画設計を行わせる場合については八年以上、処理施設又はポンプ施設に係る監督管理等を行わせる場合については三年以上、排水施設に係る監督管理等を行わせる場合について一年六月以上下水道に関する技術上の実務に従事した経験を有する者であること。
 しかし、天神川流域下水道事業における監督管理等事務従事者は、下水道事務に関する事務経験のない職員が従事し、かつ、3年以内で他部署に人事異動となり後に監督管理等事務に従事する者がほとんどいないことから、同規定による処理施設又はポンプ施設に関しては実務経験3年以上、及び排水処理施設に関しては実務経験1年6か月以上という要件を満たしていない多くの者が従事している状態となっている。
 この従事実態は、法令に違反しているものであることから、人事体制の見直しを行うなどして、直ちに改善すべきである。
 
(2) 委託業務完成年月日の不整合について【指摘事項】
 「平成21年度 汚泥処理基本計画策定業務委託」について、当委託業務の請負者からの請負金請求書の委託業務完成年月日が平成22年8月24日であるにもかかわらず、同請負業者からの業務完了通知書の委託業務完了年月日は平成22年12月17日となっており、書類間での不整合が生じている。また、同請求書における請求年月日が平成23年1月18日であり、請求書における委託業務完成年月日から請求年月日までが5か月空いていることとなっており、不自然な状況となっている。
 当委託業務においては、契約上の履行期間終了予定日は平成22年8月24日であったが、委託業務内容に不備があったため修補を行い、最終的な業務完了が平成22年12月17日となったものである。
 請負金請求書の委託業務完成年月日である平成22年8月24日は当初契約における履行期間終了予定日を表示したことによる誤りであるが、結果的に請負金の支払の証拠となる重要書類である請求書が誤ったものとなっており、適正な証拠書類による支払がなされていない結果となっている。
 今後はこのような誤りがおこることのないよう、予算執行課である水・大気環境課及び支払業務を行う審査出納課において十分なチェックを行うよう徹底されたい。
 
(3) 工事及び委託関係書類の日付表示に関して【指摘事項】

 請負契約及び委託契約に係る起工伺、変更伺について、決裁年月日が空白のままのものが散見された。事務手続において決裁年月日は、手続の流れが適正になされているか否かの基準と成り得るもので重要であることから、今後は記入漏れのないように改善すべきである。
 また、業務完了報告書及び成果品納品書などの、受注先からの提出書類の業務完了年月日等の日付が手書きのものが散見された。本来は、受託者側が当然に表示するものであるが、手書きであればどの者が記載したものか判断が困難となるため、予算執行上重要な要素である業務完了年月日が信憑性に欠けることとなる。今後においては、当初から印字されているものの交付を求めることにより、受注者側において確実に表示するよう改善されたい。
 さらに、受注業者からの請求書の請求年月日が空白のものも散見された。先述のとおり請負金の支払の証拠となる重要書類である請求書の請求日付が記載されていないということは、適正な証拠書類による支払がなされていない結果となっていることから、今後は受注業者において請求年月日を確実に表示するよう改善されたい。

(4) 下水道公社の設備導入時における契約方法の改善について【指摘事項】

 下水道公社の設備等に係る修繕などの維持管理費については、250万円以上の案件は天神川流域下水道事業特別会計において管理運営費として支出し、250万円未満の案件は同公社にて支出することとしている。平成22年度及び平成23年度における、下水道公社の設備等の維持管理に関する工事請負費及び委託料に関する入札状況等は、ほとんどの事業に関して随意契約であるか、もしくは入札を採用している事業においても入札者が1社という状況である。これは設備等の納入業者のみが入札し落札しているという状況であり、納入業者以外の業者では、設備の特殊性もあることから、その構造の詳細を把握していないことなどの理由によりこのような現状となっている。
 また平成23年度において、下水道公社の中央監視設備(処理場の全プラント機器を対象として、各機器情報、エラー情報、稼働状況の信号を受け一元的に操作・管理する設備)について、同設備は国土交通省において定められている耐用年数である15年に足りない12年しか経過していないにもかかわらず、納入業者から保守部品の供給がストップされてしまったことから、平成24年度以降の予算措置により設備全体の交換を余儀なくされたという、設備納入業者1社のみに依存していたことにより、多大な弊害が発生した案件が生じている。
 中央監視設備については、納入業者との設備導入時の請負契約により、部品供給について明文化されていなかったため、耐用年数未経過設備であるにもかかわらず、設備の入替えを検討せざるを得ない状況となってしまった。今後は、下水道公社に係る設備の導入など特殊性の高い事業の契約においては、総合評価競争入札またはプロポーザル方式契約の積極的な導入により、設備耐用年数の間における部品供給保証を盛り込むなどの契約を行うことによってリスク回避を図り、さらには、導入後のメンテナンス等の維持管理に係る契約に関しては、できるだけ多くの業者が入札することにより競争性が確保されるようなシステム構築を行うべきである。

第2 下水道事業に係る一般会計

1 公共下水道事業

下水道等事業基本計画策定業務の引継ぎ資料の保存について【指摘事項】

 下水道等事業計画の策定業務において、当初予定していた業務実施内容の一部について、市町村が行う作業の取りまとめに時間を要したことにより、当初の履行期間内に間に合わない状況が生じた。
 当初は、2,341,500円で全ての業務を委託していたが、最終年度に向けての基本計画の検討にあたり、従前の計画には無かった人口減少を見込んだ市町村との調整作業に不測の日数を要し、履行期間中の業務完了の見込みが困難となった。発受注者で協議した結果、市町村へ作業依頼した段階で契約を打ち切り、1,622,500円の委託料を支払った。市町村との調整作業が完了後に残りの業務を制限付一般競争入札で別途発注し、1,869,000円で委託した。その際に、各々の業務委託において発注者との協議や報告書の作成が必要となったため、業務委託料の合計額は、当初委託より1,150,000円の増額となった。
 この基本計画の策定業務は、通常10年に1度程度行われるものであり、また、前回計画策定時の資料は、完成された計画程度しか残されておらず、前回の業務フローなどが確認できなかったことなどから、担当者においても業務の終了までにどの程度の期間を要するかの見通しが立たなかったことが原因と考えられる。
 今後このような事態の再発を防ぐため、今回の計画策定業務に関する日程などをまとめた書類を保存し、業務の引継ぎをすべきである。

第3 公益財団法人鳥取県天神川流域下水道公社

1 棚卸資産の管理

 現在、下水道公社では、重油等の燃料や業務用薬品、検査用薬品、設備機器の修繕に使用する修理用部品などの棚卸資産を有しており、燃料、業務用薬品あるいは検査用薬品については、下水道公社の職員が受払管理を行っている。一方で、設備機器の修繕に使用する修理用部品については、修理用部品の種類が多く、管理の手続が煩雑なため、受払管理は行われていない。

(1) 修理用部品の受払管理について【指摘事項】

 財務規程では、「物品の出納は、物品出納簿にその受払いを記載しなければならない。」と規定されており、修理用部品についても受払簿を用いて受払管理を行う必要がある。修理用部品の種類が多く、受払の手続が煩雑であるならば、金額基準を設けるなどして、少なくとも高額な修理用部品については受払管理を行うべきである。

(2) 修理用部品の実地棚卸について【指摘事項】

 財務規程では、棚卸資産について期末棚卸を実施しなければならないと規定されている。
 棚卸資産の受払管理と同様、燃料や業務用薬品、検査用薬品については期末時において実地棚卸が行われているが、修理用部品については、実地棚卸が行われていない。修理用部品についても、棚卸資産の受払管理の実施と同様の基準に基づき、期末において実地棚卸を実施すべきである。

2 会計処理関係

納品書、請求書に係る日付表示の徹底について【指摘事項】

 下水道公社において購入している消耗品などに係る納品書及び請求書を確認したところ、納品日及び請求日が記載されていないものが散見された。このような現状は、民間企業では起こり得ない状況である。これらについては、実際の納品日及び請求日が確認できない状況であることから、納入業者側において確実に日付表示を行うように徹底するよう改善すべきである。

第4 固定資産関係

1 公有財産管理諸規定との関係性 

  流域下水道に関する財産の管理について、下水道法において、流域下水道に関する下水道台帳を整備し、保管することを義務付けており、鳥取県においては下水道関係の財産全て、すなわち、管路、浄化センター建屋及び設備などを含む全財産を下水道台帳として管理することとしている。
 また鳥取県においては、土地、建物などの県有財産の管理について「鳥取県公有財産事務取扱規則」及び「鳥取県公有財産事務取扱要領」により、県有財産は「公有財産台帳」により管理すべきとの規定など、その事務手続等を具体的に定めている。
 鳥取県公有財産事務取扱規則の第1条において、以下のとおり規定されている。
鳥取県公有財産事務取扱規則
第1条 公有財産の事務取扱については、法令又は財産の交換、贈与、無償貸付等に関する条例(昭和39年鳥取県条例第8号)その他の条例若しくは鳥取県会計規則(昭和39年鳥取県規則第11号)その他の規則に定めのあるものを除くほか、この規則に定めるところによる。
 すなわち、他の法令に定めのある財産に関しては、鳥取県公有財産事務取扱規則の適用範囲から除くとしており、さらに鳥取県公有財産事務取扱要領において、公有財産の範囲について第1章の「第2 公有財産の概要」に以下のように、具体的に規定されている。
鳥取県公有財産事務取扱要領
第1章 総則
 第2 公有財産の概要
  2 公有財産の範囲
    公有財産とは、地方自治団体の所有に属する財産のうち次に掲げるもの(基金に属するものは除く。)とされている(地方自治法238条第1項)。
(1) 不動産(土地、建物、立木、工作物等)
    …
(8) 財産の信託の受益権
  なお、規則第1条において規則の適用範囲から除くこととしている、他の法令により管理されている財産は、以下の法令によるものとする。
  ・道路法
  ・河川法
  ・湾岸法
  ・漁港漁場整備法
  ・砂防法
  ・地すべり等防止法
  ・地方公営企業法
 鳥取県公有財産事務取扱要領においては、鳥取県公有財産事務取扱規則の適用範囲除外としている、「他の法令により管理されている財産」の当該法令には、下水道法が掲げられていない状況である。

鳥取県公有財産事務取扱要領の見直しについて【指摘事項】

 鳥取県公有財産事務取扱規則の第1条において、他の法令に定めのある財産に関しては、鳥取県公有財産事務取扱規則の適用範囲から除くとしている。しかし、鳥取県公有財産事務取扱要領の第1章第2「2 公有財産の範囲」における適用除外に該当する法令の部分に下水道法が掲げられていないため、下水道関係の財産についても鳥取県公有財産事務取扱規則の適用があるとの誤解を招くおそれがあることから、同要領の見直しを行う必要がある。
 現在、下水道関係の財産については、鳥取県公有財産事務取扱規則の適用となる公有財産を登録する公有財産データベースにおいて、現状で把握している財産の情報を入力している状況(ただし、金額は全て入力されていない。)であるが、下水道関係の財産は公有財産データベースでの管理対象外とし、下水道台帳において管理を一本化し効率化を図るよう改善されたい。

2 財産管理の適正化

 

 現在、下水道関係の財産の管理については、下水道台帳として下表のとおり管理している。

下水道関係財産管理状況

台帳名

内容

対象施設

対象年度

主な管理項目 

下水道台帳 固定資産管理システム  工事台帳 業者への発注単位毎に総額等を管理 建築及び土木関係
機械及び電気施設
管路施設
昭和57年度~平成15年度  工事名称
工事総額
工期
施工業者 
取得価格表  工事台帳の総額に対して各設備毎の個別財産の取得価格等を管理  機械及び電気施設  昭和57年度~平成15年度 工事名称
取得年度
所得価格
設備台帳 設備毎の仕様(構造)等の詳細 機械及び電気施設  昭和57年度~平成22年度 機器名
設置年月日
型式
修繕履歴
施工業者
管路台帳システム 管路台帳  管路の状況を位置図・図面等により管理 管路
人孔
人孔蓋
昭和58年度~平成21年度 図面類
管種・勾配等
設置年度
修繕履歴
管路等写真
診断結果
用地台帳 下水道事業に係る用地の状況 処理場用地
管路用地
昭和50年度~現在 所得価格
取得面積
区分地上権設定状況
公図
 上表のとおり、固定資産管理システムにおいては建物、構築物、機械及び電気設備を管理し、管路台帳は管路台帳システムにより管理、また、用地については手書きの用地台帳である「下水道施設用地取得等調書」及びそれらの関係資料により管理している状況である。
 以上の管理状況等より、現状における財産管理について認められる問題点としては、以下のとおりである。
    
(1) 工事価格の明確化について【指摘事項】

 上表の工事台帳における建築及び土木関係とは、主に、天神浄化センター敷地内の建物及び沈殿池などの構築物等であるが、現状において工事価格などが不明瞭なものがある。不明瞭なものについては関係資料の確認などを十分に行い、工事価格などを明確にしたうえで、個別の資産ごとに取得価格表及び設備台帳に掲げる必要がある。

(2) 財産区分の明確化について【指摘事項】

 工事台帳の建築及び土木関係のうちで金額を把握しているものについても、建物と構築物との区分がなされていないものがあり、工事全体の金額のみしか把握していないものがある。建物と構築物に関しては、耐用年数が異なることから、全て包含して管理されている状況では、適正な管理がなされているとは言い難い。それらの資産種類が異なる財産に関しては、請負契約書明細及び設計図面などの基礎資料より明確に区分し、管理を行うよう改善する必要がある。

(3) 修繕支出金額のデータ化について【指摘事項】

 修繕履歴については、修繕に要した金額を全く把握していない状況である。今後将来に向けて、管路及び浄化センター関連財産の老朽化に伴い、多額の修繕費の支出が想定されるなか、修繕実績とともにその支出額も同時に管理することにより、修繕計画の参考とすべきである。修繕に係る支出金額をシステムに入力することにより、修繕計画の参考データとして有効活用するなど改善されたい。

(4) 用地取得データのシステム管理について【指摘事項】

 用地台帳に関しては、現在は手書き資料により管理しているが、それらのデータを固定資産管理システムに登録し、他の固定資産と同様にシステムを有効活用して管理すべきである。

(5) 管理データの欠落に対する改善について【指摘事項】

 上表の対象年度欄のとおり、用地以外に関しては現在までのデータが入力・管理されておらず、中途年度までのデータしか入力されてない状況である。現状では、管理データが欠落している状況であることから、関係資料より現在までのデータを確実に入力し管理を徹底する必要がある。

(6) 定期監査調書の適正な表示について【指摘事項】

 水・大気環境課に係る、定期監査調書の「財産に関する調べ」において、下水道事業に係る財産価額が全て「不明」となっている。これは、今まで「不明」と表示していたものを訂正することなく、金額が判明しているものまでもそのまま放置していたものである。金額が明確となっているものについてはもちろん、不明瞭なものについても、先述のように的確に金額等を把握し、適正に記入を行うよう改善すべきである。

(7) 財産管理の徹底について【指摘事項】

 財産管理は極めて重要な事項であり、今後、特別会計において地方公営企業法の適用により地方公営企業会計を導入することとした場合においても、スムーズな導入が可能となるように、上記のような問題点は早急に改善し、適正及び効率的な管理を行うよう改善されたい。

3 未利用用地の活用

 天神川流域下水道事業の当初の事業計画、変更後の事業計画(平成21年3月27日認可)及び平成22年度末の実績は、以下のとおりである。

 

  当初事業計画 変更後事業計画 平成22年度末実績
処理区域面積

2,521.7ha

 2,331.4ha

 1,850.0ha

処理人口

80,800人

62,230人

56,811人

計画処理水量(日最大)

158,247㎥/日

39,308㎥/日

20,018㎥/日

処理能力

160,000㎥/日

40,000㎥/日

32,000㎥/日

 変更後の事業計画の計画処理水量は、当初の事業計画の計画処理水量の4分の1であり、計画変更に伴い、天神浄化センター内には、現在未利用となっている土地が約2.5ヘクタールある。天神浄化センターの敷地面積は12.16ヘクタールであり、未利用となっている土地は敷地面積の約20パーセントを占めている。天神浄化センターの用地取得費(671,419千円)から未利用となっている部分の金額を試算すると、未利用部分の用地取得費は138,038千円となる。

未利用用地の有効活用について【指摘事項】
 県の担当者へのヒアリングによると、現在未利用となっている用地部分について、今後、天神浄化センター内の水処理施設の更新の際に、更新後の施設の建設用地として利用する予定があるとのことであるが、具体的な利用開始時期等は決まっていない。県は、現在、天神浄化センター内施設の今後の更新計画を策定中であるが、水処理施設の耐用年数は50年であることと、今後20年は現在使用している水処理施設が利用可能であることを鑑みると、少なくとも今後20年は未利用用地が利用される見込みはない。
 浄化センターの用地の取得は、下水道事業を進めるうえで最も重要な要素であり、周辺地域や土地所有者などの理解を得るのに相当の労力と時間を費やして行われてきたものである。また、土地の取得にあたっては、多くの資金が投入され、これが下水道料金や税金により賄われているのは事実であることから、土地の取得に関して県民の理解が得られるように、未利用用地の今後の利用方法を検討し、土地を最大限有効活用する必要がある。
 ところで、地域経済と雇用の担い手である県内の民間企業が長引くデフレ不況、歴史的円高等による厳しい経営環境にある中、資産の有効利用や無駄な資産を処分し徹底的にスリム化する等の努力をすることで、何とか生き残ろうとしているのがほとんどの県内民間企業の昨今の実情である。
 そこで、情報公開が進んでいるとされる鳥取県としては、民間企業の資産内容公開のように、今後の更新計画を含めた未利用用地の現状などを公表し、県民の知恵や建設的な意見を幅広く受け入れ、その有効利用等について大いに議論し検討すべきである。
 

第5 指摘事項の件数

 このたびの包括外部監査の指摘事項の件数は、次のとおりである。

第2章 監査の結果                     
 第1 天神川流域下水道事業特別会計
  1 市町からの負担金……………………………………………… 4
  2 入札・契約制度………………………………………………… 4
 第2 下水道事業に係る一般会計
  1 公共下水道事業………………………………………………… 1
 第3 公益財団法人鳥取県天神川流域下水道公社
  1 棚卸資産の管理………………………………………………… 2
  2 会計処理関係…………………………………………………… 1
 第4 固定資産関係
  1 公有財産管理諸規定との関係性……………………………… 1
  2 財産管理の適正化……………………………………………… 7
  3 未利用用地の活用……………………………………………… 1 
                             合計 21 

第3章 おわりに

 包括外部監査を担当した3年間の感想ですが、最も気になったことは、監査の際、どの年度も県の監査対象部局の担当者が「私はこの部署に来たばかりでよく分からん。」「そういう書類は引継ぎではなかった。」等のせりふをよく聞かされたことである。民間企業では考えられない発言が多々出ることが不思議に感じる。大変忙しいのも分かるが、いいわけに聞こえるし、それは内部の問題で外部の我々に発言することではない。少々無責任に思うし、県民の血税で成り立っているという自覚が希薄のように感じた。もう少し引継ぎ方法を改善すれば済む話ではないでしょうか。
 ところで、会計は最高の情報であるといわれ、財務諸表の中で特に貸借対照表は財政状態を表すものとして大変重要なものである。たとえば県の公共施設やインフラが本当にどのくらい価値があるのか、今までコストがどのくらい掛かっているのか、ということをリアルタイムに把握し、検証できるものである。鳥取県も全国の中で、情報公開先進県として企業財務で用いる複式簿記の公会計制度を導入することによって、財政実態をより詳細に把握できる貸借対照表などの財務諸表を作成し、公開する体勢作りに取り組んで頂きたい。そうなれば、財務の継続性が重要視されるので人事異動の際、引継ぎが改善されることにより、書類も保存が大切にされ、過去の資産管理が適正になされる。また将来の資産形成も計画的に取り組むことが出来、格段に財政状況がオープンになり県民の知恵や意見を幅広く受け入れることによって、県の財政が好転するきっかけになると思われる。早速お願いしたいものである。
 最後になりますが、鳥取県がもっともっと素晴らしい地域として発展するよう心から願ってペンを置かせて頂きます。ありがとうございました。
  

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