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    タイ王国及び他の東南アジア諸国の経済・産業動向、社会動向報告書

    1. 長期経済政策「タイランド4.0」
    2. タイの農業の歴史
    3. タイ農業の機械化の現状
    4. タイの農業の課題
    5. 農業の高度化に向けて

なお、全文版ではタイの経済統計を1ページにまとめた「ワンページタイ経済」も併せてご覧いただけます。

  

タイ王国及び他の東南アジア諸国の経済・産業動向、社会動向報告書2020年12月

 こんにちは。鳥取県東南アジアビューローの辻です。

 現在、タイには多くの日系企業が進出しており、その中心となっているのが製造業です。特に自動車産業はタイ経済を支える大きな柱となり、タイは「東南アジアのデトロイト」としてASEAN域内の経済を牽引する存在となりました。農業も国を支える大切な産業であり、コメや天然ゴムなどの国際競争力に優れた産品が揃っています。今回はタイの農業の機械化及び高度化の現状についてお届けします。

1.長期経済政策「タイランド4.0」

 「中進国の罠」からの脱却を目指すタイ政府は、長期(20年)ビジョンの経済発展政策「タイランド4.0」を2017年発表。最終年の2036年には、高所得国(日本、韓国、シンガポールと同じレベル)入りを目指しています。重点産業である農業食品分野においては現在世界第11位にある食品輸出ランキングを引き上げ、主力のコメに加え農産物や水産物などすべての項目で上位トップ10を狙うと宣言。そして2036年までに、食品輸出高で世界のトップ5を目指しています。その実現の為には過去から現在においてもタイ国の大きな柱である農業(主として稲作)の機械化及び高度化は重要な課題です。

2.タイの農業の歴史

 日本の平安末期、鎌倉時代の頃は、タイではスコータイ王国のプラルアン朝でした。タイ国3大大王の一人として国民から崇拝されているラームカムヘーン王(1279-1299)が治め、農耕社会をベースに豊かな社会を築いていたと言われています。その豊かさを誇り「水に魚あり、田に稲あり」との碑文を残しています。これは旧都スコータイで発見されたタイ語で刻まれた最古の碑文遺跡です。ユネスコの世界遺産に登録されています。

Bangkok National museum蔵) (出所:UNESCO)

 タイの水耕稲作の起源は西暦1000年代に遡ります。モンゴル民族の大移動のうねりに押されたタイ(シャム)族が人口増加による食料難に陥り、その確保を課題として従来の生活圏であった中国の雲南省地域から南下し現在地に定住したことに始まります。タイの国土面積は日本の約1.4倍の5,131万ha。このうち農地の面積は1,980万 haで、全体の38.6%を占めます。日本の農地面積の約4.3倍にあたるこの広い農地が、タイ農業の地盤でありタイ国を支えてきました。また熱帯・亜熱帯の温暖な気候は1年を通じた作物栽培を可能とし、チャオプラヤー川辺の中部平原を中心とする灌漑可能な水田はコメの二年五作や三期作など、収穫回数が複数回にわたる豊穣の地です。

 タイ王国の農業は、この広い国土面積と温暖で湿潤な気候のお陰で収穫高が多いことより輸出価格競争力を保ち続けることが出来ました。過去より輸出シェアは高く、大きな外貨獲得源となってきました。商品的にはタピオカ・天然ゴム・穀物・砂糖・コーヒー等の生産、パイナップル加工、エビ等多々ありますが、コメが最重要農産物です。世界のコメ市場においては、タイ国は主要な輸出国で2012年迄30年にわたり輸出No.1の実績を誇り、2018年はインドに次ぎ世界2位の地位を確保しました。

 しかし、本年2020年上半期(1-6月)のコメの輸出量はタイ・コメ輸出業協会(TREA)によれば前年同期比32%減の314万トン、輸出額は22億米ドル(約2,357億円)でした。輸出量はインド・ベトナムに続く世界第3位に落ちました。コメの品種改良やバーツ高の抑制により一日も早く競争力を引上げなければ、他国の躍進に勝てず、早晩コメの輸出量は世界4位以下に転落する可能性が出てきています。

 タイではこれまで人口が増えるに従い未開拓地を開墾し、増産を都度実現してきました。このサイクルが土地の有効活用を促し、好循環に恵まれてきました。特に1960年代以降、機械化により生産高は大きく増大しました。機械化と言っても日本から輸入された耕運機程度でした。しかしながら、1962年から1983年の間、農業分野は年平均で4.1%程度成長し、結果1980年代には労働人口の70%以上が農業に従事していました。

3.タイ農業の機械化の現状

 1990年代半ば乗用トラクターの稼働台数が急増し、10年間で2倍以上となりました。2002年にはクボタが水田用トラクターとコンバインを市場投入し、稲作の機械化が始まりました。但し農家の可処分所得は未だ少なくほとんど中古車でした。新車需要が発生するポイントは、ある農機メーカーによると、一人当たりの個人所得がUS$2,500 を超える時点。タイは2004年にこの所得水準を超えています。ここから新車需要が活発化し、機械化に拍車がかかりました。

 2006年になると農家の所得向上に加え、農機具機械メーカーの魅力的なファイナンスにより新車販売が20,000台を超え、初めて新車の稼働台数が中古車を上回りました。近年は燃費の向上したトラクターに多様な耕作地・農産物に対応できるアタッチメントの種類を増やし操舵システムの自動化、レーザーセンサーを取り付けリアルタイムに生育状況を計測する等の高度化の歩みが始まりました。

 タイ政府は政策的に国家収入の柱として歳入を増やす為に敢えて安い国内価格のレベルでコメの輸出を奨励し、それによって確保した歳入で経済の他分野の投資を促進しました。時を同じくして1985年のプラザ合意を契機に、日本からの対米輸出に窮した日本企業はGSP(米国政府の特恵関税)と安い労働力をタイに求めました。家電産業を始めとしてタイに生産移管を始め、タイ政府の国策もあり工業化が進みました。この工業化の過程では、農業・農家・農民がある意味では犠牲となりました。農業以外の他の産業の発展に応じて、農民は農業以外に職を見出し農業就労人口は減少しました。農業はやむなく労働集約産業から、資本集約的にならざるを得なくなりました。政府はこれを進める為に、機械化を推進し強制的に銀行に農業分野へ低利融資を提供させる法律と、タイ農業・農業協同組合銀行(Bank for Agriculture and Agricultural Cooperatives : BAAC)を通じて農業機械の普及を後押ししました。

 さらに農民の教育や灌漑、田園道路にも投資を致しました。結果は1983年から2007年まで2.2%成長を継続的に実現しました。一方農業分野で必要な労働力は、約半分しか供給出来ない状態になってしまいました。 1970年に 25.9%を占めていたGDPにおける農業(農林水産業)の比率は、その後の製造業やサービス業などの急速な発展により低落傾向が続き、2010年には12.4%にまで低下しています。

 農業機械の導入は、単なる食料の増産だけではなく、農民の労働力を他産業でも有効に活かすことにもつながります。農業人口は1990年代に約2,000万人でしたが、機械化に拍車がかかる 2004年には急減し1,363万人となりました。現在は人口の約25%に当たる1635万人が農業に従事しています。

 タイの食料・農業・農村基本法では生産現場の軽労化や生産性向上,農業の自然循環機能の発揮等が掲げられ機械化の促進が不可欠とされました。タイ・インドネシア及びベトナム製の稲作用農業機械は, 日本の農業機械メーカーが中心に技術協力・研究開発分野も協力し発展させてきました。タイでの日本の農機メーカーの好事例がインドネシアでもベトナムでも参考にされました。これは日本の農業機械メーカーの功績です。

4.タイの農業の課題

 農業のGDPに占める比率・農地面積・農業雇用・農村人口など多く関連指標は、他のASEAN諸国と比べても高いものの、課題は1ヘクタールごとの生産性がASEAN諸国と比較して低いことです。灌漑施設が不十分なため、二期作が可能なのはチャオプラヤー川辺の中部のみで、農地面積の相当部分を占める東北部は一期作です。このためタイ全体として単位当たりの生産性が低い結果となっています。これは農民の高齢化・少子化に寄る若年労働力の枯渇、農業従事者の低い教育水準、農業従事者の所得が不安定かつ少ないことが原因です。ファイナンスの観点でも東南アジア諸国中でタイ農家の所得は低く、同じ価格帯の農機でもマーケット標準として回収期間が他国より長くなっています。

 農家の収入は旱魃と洪水の影響により安定せず、不足分をコメ商人からの借入で賄い、その日暮らしを送るため借金は返せず、土地を売らざるを得ない小農家がまだまだ多く、生産性を上げるのに大規模化が必要にもかかわらず逆行していると言わざるを得ません。経済的な貧しさが理由で農家の子弟の教育レベルは低いままで止まっています。

 教育レベルが低い農家は市場に対する知識や情報に乏しく、バイヤーに対する価格交渉力も弱い。また、市場への供給量や市場価格の情報を生産者が持たないため、生産や出荷の調整ができず、農産物の価格が下落したり農作物の保存コストがかさんだりする傾向にあります。

5.農業の高度化に向けて

 情報技術通信省はタイ国立電子コンピューター技術研究センター(NECTEC)と連携し、農業をよりスマート化する意向です。具体的には、農業従事者の能力向上を支援しようとしています。農家向けサイバーブレインプロジェクトを立ち上げ、農作物の栽培方法や市場価格といった情報を提供することで格差を無くそうとしています。このように、農業の近代化・高度化にはICT化が急務と言わざるを得ません。

 タイでは通信キャリア大手のDtacも農家向けの情報配信事業に力を傾けています。農作物の市場価格をリアルタイムで配信し、作物の栽培方法などのノウハウをコンテンツ化し、農家や一般消費者が容易に情報へアクセスできるようなサービスを提供しています。 また日本企業のトプコン(https://www.topcon.co.jp/positioning/products/product/agri/)が2019年11月にタイ農業省とスマート農業の開発協力に関するMOU(基本合意書)を結びました。土木分野でつちかったノウハウを農業分野に転用し、営農サイクルの計画・種まき・施肥・農薬散布・収穫などの効率化を実現。また、レーザー式生育センサー「CropSpec」や自動操舵システム・可変散布システムの組み合わせで農薬散布や追肥の最適化を実現するソリューションを提供します。

 タイ政府は農業を投資奨励産業として位置付け、BOI(投資奨庁)が奨励策を近々発表するとのNewsが入ってきています。水田を使わずにGreen House工場での野菜の栽培も実験的にバンコク市内でも始まっています。タイ中部のアユタヤでは日本の大気社(https://www.taikisha.co.jp/vegefactory/download/img/pdf_art_jp.pdf)がタイ初の完全人工光型の植物工場をショールームとして運営を開始しています。日本の培ってきた農業技術を用いて、更なる高度化が期待されるところです。

県内企業の皆様への現地情報のご提供について

タイの最新の現地情報については、以下にお問合せください。

鳥取県東南アジアビューロー 担当:辻 三朗 (TSUJI SABURO)

TEL/FAX:+66-(0)2-260-1057+66-2-260-1057
E-mail:tottori@aapth.com

鳥取県商工労働部通商物流課 担当:村上

TEL:0857-26-76600857-26-7660
FAX:0857-26-8117
E-mail:tsushou-butsuryu@pref.tottori.lg.jp

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アジア・アライアンス・パートナー・ジャパン株式会社

タイを中心に、ベトナム・インドネシア・インド・メキシコにて主に日系中堅・中小企業様の海外進出や進出後の会計税務法務を中心とした運営支援業務を行っております。

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