1 公の施設の設置及び管理
公の施設とは、地方自治法第244条第1項に規定する住民の福祉を増進する目的をもって、その利用に供するための施設(以下「公の施設」という。)をいう。
一方、公の目的のために設置された施設であっても、庁舎や研究施設など住民の利用に供することを目的としていない施設などは公の施設には当たらないとされている。
本県では、公園、体育館、博物館、文化会館など、平成23年4月現在で65施設(県営住宅、県立学校、河川、道路等を除く。)が設置されている。
2 指定管理者制度
指定管理者制度は、地方公共団体が指定する法人その他の団体に、公の施設の管理を行わせるものであり、 多様化する住民ニーズに、より効果的かつ効率的に対応するため、公の施設の管理に民間の能力を活用しつつ、住民サービスの向上を図るとともに、経費の節減等を図ることを目的として、平成15年の地方自治法の改正により設けられた制度である。
改正前の地方自治法では、公の施設の管理を地方公共団体が外部に委ねる場合は、相手先が地方公共団体の出資法人や公共的団体などに限定されており、地方公共団体の管理権限の下で、具体的な管理の事務・業務を管理受託者が執行していた。
指定管理者制度では、公の施設の管理は、地方公共団体の指定を受けた指定管理者として、地方公共団体の出資法人や公共的団体などに加え、新たに民間企業、NPOなどの団体による管理も可能となった。
また、指定管理者に施設の管理権限を委任し、使用許可などの業務を行わせることも可能となった。
指定管理者として指定するに当たっては、指定の手続、業務の具体的範囲、管理の基準等を定める条例を制定し、個々の指定管理者を議会の議決を経て、期間を定めて指定することとなって おり、 本県では、鳥取県公の施設における指定管理者の指定手続等に関する条例(平成16年鳥取県条例第67号。以下「手続条例」という。)を定めている。
なお、指定管理業務を適正に執行するため、指定管理者制度を所管している業務効率推進課は、募集要項、審査基準、協定書等について標準様式を示している。
表2 管理委託制度(旧)との比較(地方自治法第244条の2)
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管理委託制度(旧)
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指定管理者制度(新)
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受託者 |
地方公共団体の管理権限の下で、具体的な管理の事務・業務を以下の管理受託者が執行→以下の者に限定
・地方公共団体の出資法人のうち一定要件を満たすもの(2分の1以上出資等)
・公共団体(土地改良区等)
・公共的団体(農協、生協、自治会等) |
地方公共団体の指定を受けた「指定管理者」が管理を代行
→民間事業者、NPOによる管理が可能
・法人その他の団体を議会の議決を経て、期間を定めて指定 |
管理権限 |
管理権限は地方公共団体が保有
→管理受託者による使用許可は不可 |
管理権限を指定管理者に委任
→指定管理者による使用許可が可能
(ただし、使用料の強制徴収や行政財産の目的外使用許可など、法令上、地方公共団体の長に専属的に付与された権限は行えない) |
注 業務効率推進課のホームページより作成。
1 指定管理者の選定手続
(1) 募集要項及び指名指定の場合の審査要項について
〔監査結果〕
全ての施設で、必要事項を具体的に記載した募集要項及び審査要項を作成していた。
(2) 指定管理者の審査基準について
〔監査結果〕
各施設とも、必要な事項を記載した審査基準を定めていた。 なお、公募の場合では応募者が見積もった「県の委託料額の多寡」を審査基準の項目の1つとしており、その配点は、10/110~20/100となっていた。
〔監査意見〕
管理経費の節減は、指定管理者制度の目的の一つとされており、見積額は重要な審査項目であるが、審査基準の配点については、施設によってまちまちである。配点の設定について、合理的な説明ができるよう留意されたい。 |
(3) 公募の場合の募集の周知方法及び募集期間について
〔監査結果〕
募集の周知方法については、県広報、ホームページ及び新聞により行っており、必要な周知を図っていた。
募集期間については、多くの施設の更新が行われた平成21年度段階では、当時の業務効率化室の指導で30日は確保することとされていたことから、おおむね30日設定していた。
なお、30日では短いとの応募者からの指摘を受け、業務効率化室は平成22年度以降の指定からは1か月半以上の期間を設定するよう指導している。
2 管理に関する事務手続
〔監査結果〕
全ての施設について、手続条例に基づき必要事項を定めた協定書を作成しており、問題とすべき点はなかった。
しかし、一部の施設については、再委託について、事前承認や報告を求めるなど、不必要と思われる事務手続を定めている事例があった。
ライフル射撃場は、利用者が県ライフル射撃協会の会員に限定されているにもかかわらず、大規模な集客施設と同様の不必要と思われる事務手続を定めていた。
〔監査意見〕
事務の効率化の観点から、協定書に不必要と思われる事務手続を定めているものはないか再度点検し、省略が可能なものは簡素化するなど実態に応じた事務手続に改善されたい。 |
3 施設の管理運営状況
(1) 施設の利用状況について
〔監査結果〕
利用者数の状況について、指定管理者制度の導入前と比較して利用者数が増加し、指定管理者制度導入の効果が見られる施設もあるが、一方、利用者数が減少している施設があった。
〔監査意見〕
指定管理者制度の導入前と比較して、利用者数が大幅に減少している施設については、指定管理者と原因分析を行い、利用促進策を検討されたい。 |
(2) 施設の経費節減の取組及び経営収支について
〔監査結果〕
ほとんどの施設で経費の節減が図られたことにより、経営収支は、おおむね安定していた。
しかし、東郷湖羽合臨海公園(引地地区:燕趙園とその周辺)については、入園者の大幅な減少による収入減のため赤字となっていた。
〔監査意見〕
東郷湖羽合臨海公園については、入園者の減少が続いているため、集客対策等に併せ、運営の維持、安定を図るための抜本的な対策を検討されたい。 |
(3) 施設の安全管理について
〔監査結果〕
大部分の施設ではおおむね適正な安全管理が図られていた。しかし、境港水産物地方卸売市場では、みさき会館について消防法に規定されている消防計画が未策定で、避難訓練等も実施していなかった。
〔監査意見〕
境港水産物地方卸売市場については、安全管理に向けた取組を確認し、必要な措置を講じるなど安全管理を徹底されたい。 |
4 施設の維持・修繕
(1) 修繕の責任分担について
〔監査結果〕
施設等の修繕に係る県と指定管理者の責任分担について、大多数の施設で協定書により大規模修繕は設置者である県の負担、小規模修繕は指定管理者の負担により行うこととしている。
一部の施設では、協定書に定める基準を超えて指定管理者が行ったものがあった。
〔監査意見〕
必要な修繕を迅速に行えるよう、指定管理者の意見を聴きながら、実態に応じた対応を検討されたい。 |
(2) 施設及び設備の計画的な修繕について
〔監査結果〕
33施設中5施設で長期修繕計画を策定しており、知事部局の施設では、中長期保全計画の策定を予定しているが、教育委員会所管の施設では策定予定はない。
〔監査意見〕
教育委員会所管の施設については、施設の安定的な運営や長寿命化を図る観点から、中長期の修繕計画を策定するなど、計画的な施設保全を検討されたい。 |
5 県との協力・分担体制〔監査結果〕
多くの施設では、県との協力・分担体制がとれていたが、一部の施設では、施設の現状の把握が不十分で、指定管理者に任せきりにしている状況も見受けられた。
〔監査意見〕
各施設の所管課は、設置者としての認識のもとに、常に施設の運営状況を把握するとともに、指定管理者と定期的な情報交換を行うなど、公の施設が設置目的どおりの機能を発揮できるよう対応されたい。 |
6 施設の設置目的をより効果的に達成するために検討すべき事項
(1) 指定管理者の努力に対するインセンティブについて
〔監査結果〕
利用料金を設定している施設は、利用者増加のインセンティブが働く仕組となっている。
一方、利用料金の設定がない施設では、利用者が増加しても指定管理者の収入増につながらず、利用者増のインセンティブが働かない。
指定管理者制度を効果的に運用するためには、指定管理者のやる気を向上させるインセンティブの付与は重要であるが、多くの指定管理者から、安定的な運営の観点で、良好な運営を行った場合、次期の委託について有利になるような仕組にして欲しい等の意見があった。
〔監査意見〕
指定管理者制度を効果的に運用する観点から、良好な運営を行えば、指名指定による場合は再び指名する仕組や、公募による場合は次期指定の審査に当たりメリットを付与するなど、指定管理者にサービス向上のインセンティブが働くような仕組を検討されたい。 |
(2) 管理運営の評価・検証について
〔監査結果〕
事業年度終了に伴う事業報告書の提出後、速やかに行うべき点検及び評価を行っていない、又は遅延した機関が多数あった。
なお、全ての施設で利用者数などの具体的な目標(値)を定めておらず、施設の特性、指定管理者への委託業務の内容に応じて、施設個別に点検すべき項目を設定していないものがあった。
〔監査意見〕
毎年度行う点検・評価については、次期事業計画に反映するよう、速やかに実施されたい。
また、県は指定管理者に対してどのような成果を期待するのか目標(値)を定めることを検討されたい。 |
(3) 将来の安定的な運営の確保について
ア 人材の確保
〔監査結果〕
平成21年度からは、指定期間を3年から5年に見直したところであるが、指定管理者の中には、将来の委託料の減額や指名指定の継続に不安を抱き、長期的な人材養成に支障があると感じたり、正職員等の採用に踏み切れない団体があった。
〔監査意見〕
公の施設のサービスの向上を図るためには、管理及び運営に携わる職員のスキルの向上が不可欠である。そのためには、長期的な視点に立ち、雇用の安定を図るとともに、研修などを通じた人材の育成を図ることが重要であり、その趣旨からも前述6(1)の監査意見に留意されたい。 |
イ 委託料の設定
〔監査結果〕
県の指定管理における委託料の限度額である債務負担行為額の設定において、大部分の施設では、人件費について民間平均給与を基に、その他の経費は実績等を基に必要額を算出していた。
ただし、天神川流域下水道では、人件費について、民間平均給与を下回って算出していた。
〔監査意見〕
次期指定に向けた委託料の限度額の設定に当たって、次の点に留意されたい。
・人件費について、民間平均給与より減額して算出された施設があったことから、過度の抑制をせず、指定管理者の職員の意欲喚起につながるよう適正に算出されたい。
・人件費以外の経費について、合理的に算出した標準管理費の設定を検討する等、経費削減に努力した結果が次期委託料の単純な減額に繋がらないよう配慮されたい。 |
7 施設の設置目的に沿った運営
〔監査結果〕
大部分の施設において、設置目的を念頭においた運営が行われていたが、設置目的が事業に十分反映されていない施設や設置目的の見直しが必要な施設があった。(報告書14頁参照)
〔監査意見〕
・設置目的が事業に十分反映されていない施設については、設置目的に沿った施設の運営となるよう努められたい。
・また、設置目的の見直しが必要な施設については、設置目的を再度検討されたい。 |
8 個別課題
(1) 鹿野かちみ園及び鹿野第二かちみ園、皆生尚寿苑
〔監査意見〕
厚生事業団への移管を前提に、条件が整うまでとして指名指定により運営されているが、起債の償還が完了するなどの条件が整い次第、早期に移管することを検討されたい。 |
(2) 天神川流域下水道
〔監査意見〕
下水道設備関係については公社の方が専門性が高く、指定管理者制度の導入以前は上限なく自らが発注していたことから、単純に金額で責任分担するのでなく、例えば、下水道関係設備については、原則公社が行う等修繕内容によって分担するなどの現実に即した方法を検討されたい。 |
(3) 農村総合研修所
〔監査意見〕
農村総合研修所の施設の設置目的は「農村指導者等の研修のための利用に供し、農業の振興に資する」となっているが、県中部に位置する宿泊機能を有する研修施設であり、農業関係者の利用にとどまることなく、広く有効活用を検討されたい。
併せて、県民が利用しやすいよう、障がいのある方への対応を図るとともに、駐車場の確保等を検討されたい。 |
(4) 生涯学習センター
〔監査意見〕
生涯学習センターの施設の設置目的は「県民の生涯学習の振興に資する」とあり、制度導入以前は、当施設に県の機関である「生涯学習センター」が設置され、県民の生涯学習の振興に係る業務を行っており、当施設は設置目的どおり運営されていた。
制度導入後は、施設の機能は公募により指定管理者となった鳥取県教育文化財団が担っているが、貸し館業務を専らとしており、施設の設置目的どおり運営できる体制となっておらず、専門性も不十分である。
ついては、「県民の生涯学習の振興」は誰がどう担うこととするのか役割分担を明確にするとともに、施設の設置目的どおりの機能を十分に発揮できるよう鳥取県教育文化財団の今後のあり方も含め検討されたい。 |
9 総括的意見
指定管理者制度は、公の施設について、民間事業者等が有するノウハウを活用することにより、住民サービスの質の向上を図って行くことで、施設の設置目的を効果的に達成するため設けられた制度である。
指定管理者のノウハウを有効に活用していくためには、指定管理者において、人材の確保、育成を図るとともに、その職員が意欲的に働ける環境を整えていくことが最も重要であると考えられる。
しかし、指定管理者の多くは、制度導入当初、指定を受けるに当たって給与の引下げを行っており、職員のやる気の低下や人材の確保が困難となることを危惧している。
また、ほとんどの施設が制度導入からおおむね6年を経過しており、住民への公共サービスの提供については県が最終的に責任を負うという、公の施設の設置者としての認識が希薄となり、指定管理者任せとなっている状況も見受けられた。
ついては、次期指定に向け、指定管理者制度が目的どおりの効果を上げ、公の施設の設置目的に沿って適切に運営されるよう努力されたい。 |