特集/地域で取り組む「流域治水」~共助と協働で命を守る~

  頻発する大規模水害に備え、行政ほか住民や事業者が協力して被害を減らす努力が不可欠となってきており、地域全体で取り組む対策「流域治水」が進んでいます。
  ただし、最後に命を守るのは自分自身。いつ、どこへ、どのように避難するか。日頃からの意識がいざという時の的確な判断につながります。


平成30年7月豪雨で浸水した倉敷市真備町(岡山県)

治水対策は全員参加の時代へ

  山林や市街地に降り注いだ雨水は地中や地表を通り、やがて地域で一番低いところにある川に集まります。上流から下流まで、水の集まるエリア全体が「流域」。これまでの治水対策は、ダムや堤防によって流域から流れ込む雨水をいかに川から溢れさせず、閉じ込めたまま海へ流すか、というのが主要なテーマでした。
  しかし、記録的豪雨など、想定を超える規模の雨量に対して、河川の対策のみでは限界があるのも事実。堤防のかさ上げには膨大な費用や年数を要することに加え、将来的には気候変動に伴う大雨頻度の増加など、更なるリスクの増大が懸念されています。
  必要なのは、川の外の広いエリアに目を向ける「流域治水」への転換。河川整備はもちろんのこと、例えば、▽発電ダムの治水利用▽ため池や田んぼでの雨水貯留▽遊水地(川の水を計画的に溢れさせる場所)の造成▽危険な土地からの移転▽防災教育や避難訓練の徹底など、住民や企業を含むあらゆる主体と連携しながら、多角的な視点で水害対策に取り組む考え方です。
  「流域治水」は地域資源を総動員して雨水を受け止め、総合的なリスクマネジメントによって被害の最小化を目指す、地域全員参加の治水プロジェクトなのです。

進む流域治水プロジェクト

  流域治水は、川の流れ方、ダム・堤防の整備や周囲の農地、市街地形成のあり方など、地域それぞれの状況に応じた戦略が必要です。県内でも主要な水系(同じ河口につながる川の流れの体系)ごとのプロジェクトが検討されていますが、最も重要なポイントは地域の合意形成。流域治水の目的や取り組みへの理解に加え、上流と下流でのリスクの分担や土地の利用規制などに伴う負担・損害の調整も必要です。どのような考え方で、どうやって水害から街を守るのか、流域全体の共通理解と主体的な協力がなければ、戦略を立てることも実行することもできません。
  県では、過去に何度も浸水被害が発生している大路川(おおろがわ)(鳥取市)をモデルケースに、地元8地区と協力して流域治水に取り組む試みを実施中。住民との協議会では、流域全体での雨水貯留対策に前向きな意見が出るなど、地域一体となった治水対策への理解が広がっています。
  地域の共助と協働があって初めて力を発揮する流域治水。大路川の成果が各地に展開され、水害への備えが一層進んでいくことが期待されます。
大路川流域を示した図

流域治水の取り組みイメージ

対策の3つの柱
(1) 氾濫をできるだけ防ぐ
(2) 被害対象を減少させる
(3) 被害の軽減と早期の復旧・復興
流域治水のイメージのイラスト
流域治水のイメージ(国土交通省資料より)

田んぼダムの仕組み

田んぼが街を救う
  大路川流域でも試験的に行われている田んぼダムは、水田が本来備えている貯水力を治水に生かす取り組み。排水口を調整して雨を水田にたっぷりとどめ、水路や河川の増水を抑える仕組みです。
  県内全ての水田で10センチずつ水を貯めたとすると、その総量はおよそ2110万立方メートル。これは県の三大湖沼に数えられる「東郷池」(湯梨浜町)の3つ分近くに相当する貯水量です。私たちの食や文化を支えるだけでなく、水害から地域を守る貴重なとりでとして、今、田んぼに大きな期待が寄せられています。

何もしない水田
何もしない水田のイメージイラスト

田んぼダムを行っている水田
田んぼダムを行っている水田のイメージイラスト

田んぼダムの取り組みを体験する子どもたちの写真
子どもたちが描いた手作りのせき板で、田んぼダムの実証を進める鳥取市河内地区。貯水効果や作物への影響などを検証し、取り組みの拡大につなげていく。(写真提供は河内環境保全の会)

住民もできることから少しずつ

鳥取市面影(おもかげ)地区自治会長
稲田(いなだ) 宗万(むねかず)さん(大路川流域治水協議会)
稲田宗万さんの写真

  一級河川の袋川と大路川に挟まれたエリアに位置する面影地区。過去の大雨では、増水した大路川へ地区内からの排水が間に合わず、冠水・浸水に至った経験があり、自治会長の稲田さんも危機感を募らせています。「行政の河川整備は大切だが、それで全てを解決できるわけではない。住民も、自分にできることを少しずつでもやっていかなければ」。
  しかし2000戸以上を擁する地区全体で取り組みを進めることは簡単ではありません。自治会では「具体的な事例を目に見える形で示すことで、住民の意識を高めていきたい」と、まずは公民館に雨水貯留タンクを設置し、河川への排水を減らす試みを計画しています。
  また、「流域治水を考えることは、コミュニティーの希薄化や高齢化、農業の担い手減少といったさまざまな地域課題へ向き合うことでもある」と稲田さん。住民が主体となって取り組む災害に強いまちづくりは、誰もが支え合い、安心して暮らすことのできる未来へとつながっています。

【問い合わせ先】 県庁河川課(治水関係)
電話 0857‐26‐7386 ファクシミリ 0857‐26‐8132
メールアドレス kasen@pref.tottori.lg.jp

命を守る「避難スイッチ」

  浸水被害の対策に加え、日頃の防災教育や避難行動の徹底によって住民の命を守ることも、流域治水の大切な目的です。
  220人以上の尊い命が失われた平成30年7月豪雨。避難を呼び掛ける情報は何度も出されていたのに、なぜ多くの人が逃げ遅れたのでしょうか。国の検証では、過去の経験に基づく認識の甘さや自分だけは大丈夫という思い込みが避難行動の妨げとなった可能性が指摘されています。「今まで大丈夫だったから今回も大丈夫、このまま家にいる間に何事もなく終わってほしい」と思うのは人間のさが。しかし状況を過小評価し、避難をためらうことは、取り返しのつかない結果を招きかねません。
  いざという時に迷わず行動するための工夫として注目されているのが、京都大学防災研究所の矢守(やもり)克也(かつや)教授他が提唱する「避難スイッチ」。気象状況や身近な異変などを基準に、避難のタイミングをあらかじめ決めておこうという取り組みです。「隣の川の水位がここまで来たら逃げる」と具体的に決めておけば、判断に悩むことはありません。矢守教授は「情報を行動にひも付けるものが避難スイッチ」と説明します。
  自分の避難スイッチを決める第一歩は、地域のリスクを知ること。まずはハザードマップで自宅の周囲が浸水想定区域に含まれているかどうか確認してみましょう。水害は多くの場合、避難の時間が残されている災害です。万一の際に生死を分ける判断を誤らないよう、あなたの避難スイッチをぜひ考えてみてください。
矢守克也教授の写真
矢守克也教授

地域で考える「避難スイッチ」

  地域ぐるみで「避難スイッチ」に取り組む鳥取市南大覚寺(みなみだいかくじ)町内会は、その全域が浸水害の心配されるエリア。専門家のアドバイスを受け、過去の記録や体験も共有しつつ、分かりやすい避難スイッチや安全な避難場所を検討しています。
  目的は、誰一人取り残さないこと。みんなで納得して決めたスイッチであれば、いざという時も声を掛け合って行動できます。
避難スイッチの情報を地域で整理している様子
避難スイッチの情報を地域で整理

【スイッチを決めるポイント】
1 情報 市町村の避難情報や気象庁の気象情報など
2 身近な異変 川の水位や道路の冠水など見慣れている状況の変化
3 人からの呼び掛け 隣人からの声掛けや電話などでの連絡など

警戒レベル4「避難指示」で必ず避難

  気象状況や河川水位の状況などを基準に市町村が発令する「避難情報」。レベル4「避難指示」では、必ず全員が危険な場所からの避難を完了させてください。
  地域の「避難スイッチ」を踏まえながら、早めの行動を心掛けましょう。

避難情報等(警戒レベル)
■警戒レベル1 早期注意情報 今後気象状況悪化のおそれ
■警戒レベル2 大雨・洪水注意報 気象状況悪化
■警戒レベル3 高齢者等避難 災害のおそれあり
■警戒レベル4 避難指示 災害のおそれ高い
■警戒レベル5 緊急安全確保 災害発生又は切迫

河川水位や雨の情報(警戒レベル相当情報)
■警戒レベル1相当 
■警戒レベル2相当 氾濫注意情報
■警戒レベル3相当 氾濫警戒情報・洪水警報 大雨警報
■警戒レベル4相当 氾濫危険情報 土砂災害警戒情報
■警戒レベル5相当 氾濫発生情報 大雨特別警報(土砂災害)

住民がとるべき行動 ※警戒レベル4までに必ず避難!
■警戒レベル1 災害への心構えを高める
■警戒レベル2 自らの避難行動を確認
■警戒レベル3 危険な場所から高齢者等は避難
■警戒レベル4 危険な場所から全員避難
■警戒レベル5 命の危険直ちに安全確保!

【問い合わせ先】 県庁危機管理政策課(防災関係)
電話 0857‐26‐7584 ファクシミリ 0857‐26‐8137
メールアドレス kikikanri-seisaku@pref.tottori.lg.jp

「あんしんトリピーなび」は鳥取県が多言語で提供する総合防災アプリ。あんしんトリピーメールの防災情報や避難場所の情報、河川・道路のライブカメラ映像などをまとめて確認できます。
https://www.pref.tottori.lg.jp/toripynavi/



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