○(第1部)基調講演

内容

 講師の略歴や多様な働き方の代表者として総理官邸に行かれて安倍総理と対談された体験、自身がマイクロソフト(株)時代の2013年3月の40代の頃に立てたキャリアプランの紹介から講演が始まりました。キャリアプランの紹介では、55歳になったころにこんなことをしてみたいという5つの項目の紹介があり、その中の1つに「地方でのビジネスプロデュース」という項目がありました。そして、徳島県の神山町での地方の現状を見て、今、このような事業に取り組んでおられるというお話しがありました。続いて、今回開催している地域情報化セミナーの過去の事例の紹介がなされ、「毎年開催していますが、IT化は進んでいますか?」という講師からの問いかけに思わず会場内に苦笑が。そして、本日のテーマである、「ICTを使って地域の活性化を考える」の主体は講師ではなく、会場内のみんなであるとの宣言がありました。また、今日の出口は「活性化を考えるきっかけになれば」という講師からのメッセージで本題へと入っていきました。
 まず、「ICTを使った地域の活性化ってどんなこと?」というお題が与えられ、具体的には「(誰)が、(どんなICT)を使って(こんな状態)になっている。」という状態をそれぞれ参加者に考えていただくよう依頼がありました。そして、考えた事を周囲の方とシェアし、その後、簡易なシステムとスマートフォンを活用して自分の考えについてネットに登録。登録が完了すると、来場者それぞれの回答がソフトを介してタイムリーにスクリーンに映し出されていきました。その光景に、主催者として少々驚きと感動を覚えました。また、来場者からは、我先にと自分の考えを入力する姿が見られ、講師からそれぞれコメントをいただきました。実際、参加者の感想もおもしろい取り組みであったと評価するコメントをいただいております。
 その後、地域活性化の定義は人それぞれバラバラで1つではないことの説明がありました。そして、講師が考え方に共感している方の解説について紹介がありました。
 「活性化とはそこに住む人びとが地域の資源を活用し、生きいきとした創造的な生活を営んでいる状態、またはそうした目標に向かって努力している状態を指すのであろう。」(塩見譲「地域活性化と地域経営」)
 さらに、これを見て感じ取った藤本理弘博士(地域政策学)、情報処理技術者のコメントの紹介がありました。
 「確かに、地域活性化とはそのようなものだろうと、漠然とは思える。しかし、肝心の「創造的な生活を営んでいる」状態がどのような状態なのか具体的に見えないし、第一、この定義は地域活性化に成功しているかどうかを客観的に判断できるものではない。他にも地域活性化を定義する試みは行われてきているが、同様に地域活性化に成功しているかどうかを判断したり、地域の活力を測ったりすることができるようなものはほとんど見られない。そこで、地域の目的を再確認してみよう。地域が社会全体に対して果たす役割は様々なものがあり、地域によって異なっている。そのため、一概に地域の目的が何であるかを定義するのは難しい。さながら人によって人生の目的が異なっているのと似ている(個人も地域も自然発生するものであるという点も共通している)。しかし、人生については生きることそのものが共通の目的といえるだろう。同様に考えると、地域の共通の目的は地域の存続そのものであると考えられる。そうすると、地域活性化の目的とは地域を存続させること、もう少し専門的な言葉を使えば地域の持続性を高めることにあるといえるだろう。」
 このコメントについて、講師自身が共感されるとともに、引き続き、藤本博士のコメントを紹介されました。
 「どのような手段によるとしても、地域の持続性を高めることができれば地域活性化したといえるし、どのような魅力的な活動であっても、地域の持続性を低下させるようなものであれば地域を疲弊させると判断することができる。例えば、地域内に高規格な道路を作って利便性が高まったとしても、それが地域の持続性を高める結果にならなければ地域活性化したとは言えない。むしろ、地域内への立ち寄りが少なくなったり、維持費がかさんだりして地域を疲弊させる可能性もある。」
 藤本博士のコメントを述べられた後、講師自身もこのような世界観をもっていて、人によってはこうではないという意見もあるが、講師の言葉で言えば、「地域を疲弊、疲労させる状態になっていない状態が地域活性化」であると結論づけられました。また、県庁が公表している「鳥取県の理想」についても触れられ、その中で「都市地域と中山間地域が共生し、支え合う「持続可能な地域づくり」を推進」する旨の記述があることも紹介いただきました。
 その後、ICTを活用した地域活性化の事例として、1つ目は映画でも取り上げられた有名な事例として「上勝モデル」(徳島県)の紹介がありました。これは、おばあちゃん、おじいちゃんが葉っぱをとって、東京の料亭に葉っぱを出荷し、トップの年商は1千万になる。今や、ひ孫に家を建ててあげるといったことになっている。この取組は、システムを利用しており、今は第三世代ぐらいになっていてクラウドを組み合わせて実現している。今のシステムの前は、何がどれくらい提供できるという情報が共有できず、仲介業者の「いろどり」のマネージャーがほぼ寝ずに、問い合わせに答えており1日中仕事を行って疲弊していたが、今のシステムで解消された。この取組は、外貨稼ぎで東京のお金を上勝にもってくるということで、地域に幸せをもたらすモデルとして紹介がありました。
 もう1つは、実際にシステム構築に携わった講師から「益田モデル」(島根県)について紹介がありました。地域毎に様々な課題があるが、これを今のパブリッククラウドサービス(ICT)でどのように解決するか実験したものだそうです。1つの事例として、さるが出た、鹿が出たという情報を地元の人が入力しマップ上にその情報を掲載し、まちぐるみで情報が共有され、猟友会がわなをしかける。そして、自治体は鳥獣を単に殺せばいいのではなく防除するためにどうすればいいのかというセミナーを開催するといったまちぐるみの取組の事例が紹介されました。もう1つの事例として、おじいちゃん、おばあちゃんが作っていた野菜が捨てられていた現状をお坊さんが何とかしたいと考えた。そこで、お坊さんが経営している幼稚園、保育園の給食で利用することとし、紙と鉛筆とFAXで受発注作業を行っていたのが、とても大変で持続可能性がないような状態であった。これを、システムで処理するようにしたもの。これにより、データの蓄積により色々なデータが見えるようになってきて、例えば、献立を考える側もこの時期にはこの野菜がこれぐらい出来るということが把握可能となり、献立を作る時に工夫されどんどんロスがなくなっていった。このことは、講師もすごいことだと関心され自分もここから学ぶことがあるとおっしゃられていました。そして、さらにもう1つ事例の紹介がありました。自治体の災害対策本部にあがってくる情報は通常、電話やFAXで1時間前の情報があがってくるのが当たり前であったが、公民館の職員の人とか、地元の人がどんどんタイムリーにシステムに入力することにより、タイムリーな情報把握が可能になったというもの。これは、市民の情報を市役所の人が知るという仕組み。
 この益田モデルは、各地域で問題になっていることをシステムを使ってやりとりする新たな取り組みとしての紹介でした。その後、益田モデルの良いところを地元の方がコメントされる動画が流されました。そのコメントでは、地域住民と行政職員の意見交換が活発になったこと、地図が見やすいこと、職員でも簡単に操作出来ること、ハンターの勘をデータで追認出来ること、情報共有のしやすさなどの感想が述べられていました。
 そして、益田モデルの運用方法の紹介があり、その主体はNPOぽい地域の一般社団法人が行っていて、地域や役所からお金を集めて委託業者にシステム利用料を支払っている。特徴としては、1つ目「行政の効率化」紙やExcelで扱われていた空家、施設保全情報をアプリ利用。2つ目「行政と自治組織との情報共有」鳥獣被害のアプリを作成し、防除に活用。3つ目は、「自治組織内の情報共有」食と農を守る会のアプリで、地元のお年寄りが作った作物を地元の保育園で提供など。
 その後、益田モデルから講師が思うこととして、次の6つの項目を述べられました。
 1つ目は国に言いたいこととして「役所で新しく作られるアプリを国もしくは県が持ち県市町村に配付!1つアプリを開発すれば、応用が利くのでみんなで使えばいい。鳥取県は、県、市町村が共同で使えるソフトを整備しており期待できる。」
 2つ目は「LG-WANでも、役所内でパブリッククラウドが使えるように!両備システムがもっているようなProxy接続サービスを入れることで対応可能。」
 3つ目は「役所で民間のように、個人情報を運用する能力を!あまりにもがちがち過ぎる。民間では普通にやっている。」
 4つ目は「役所内にデジタルトランスフォームを推進する専門家の育成の仕組みを!役所は人事異動があり専門家が居ない。民間は、スペシャリスト、ジェネラリスト両方がいるので役所もそうなればいいが。」
 5つ目は「市民と役所の連携を支援する中間支援組織の育成、運用を!中間支援組織への適切な資金補助。」
 6つ目は「行政のデジタルトランスフォーメーションできたところをタレント化!うまくいったことをどんどん宣伝して。」といった内容でした。
 続いて、チームワークの話題になりました。そこで、「グループワーク」と「チームワーク」の違いについて講師から質問がなされ、会場を見渡すと「はてな(?)」という表情をされている方も多かったなか、来場者の1人である井上総務部長(県)が講師から指名を受けると「グループは単に人が集まっているだけで、チームは何か共通の目的があって取り組んでいる。」と発言され、会場内は「なるほど」といった雰囲気に変わりました。
 講師からの説明によれば、違いは次の3点(YESの場合がチーム)。
 ・「理想があり共有しているか。」
 ・「メンバーが役割を持っているか。」
 ・「前述の2つを前提として、協働する集団か。」
 チームといってもいろいろなチームがあって、会社も行政もチーム。そのチームについて、いろいろなタイプを整理している本があるとのことで、講師から「ティール組織という本」の紹介があり、ここでも会場内はちんぷんかんぷんといった状況。わずか数人、知っているという方がおられましたが、さすがに分厚い本のようで読まれた方はおられませんでした。
 ティール組織に至るまでには5つの過程があると言われていて、ようするにチームには5つの種類があるとのこと。
 1つ目は、RED(レッド)と言われるもので、「いわゆるジャイアン。人間ではなく、どちらかというとオオカミの群れに近い。力による支配、短期的思考で物事の行動をおこす。」
 2つ目が、AMBER(コハク)と言われていて、「長期的な展望があって、イメージ的には軍隊。ヒエラルキーがあって変化や競争に対してきちんと向かい合って物事を解決する。どちらかというと、決められたものをきちんと作業していく。上意下達が多い。怒られるかもしれないが、行政は多分これかもしれない。これはいいとか悪いとかはなくて、そういう組織とか役割であればそれがいいという時もある。」
 3つ目が、ORANGE(オレンジ)で、「機械のようにといっているが、どちらかというとイノベーションと言って、新しい変革をスピード良く合理的にやっていくこと。KPIだけで評価して、それがうまくいくよう機械のように働いていく。」
 4つ目が、GREEN(グリーン)と言われていて、「これはどちらかと言うと家族。個人の多様性を尊重して自律を促してやっていく。日本では家族経営というものがあるが、これは近いかもしれないが、若干、ニュアンスが違っている。ここの特徴は、家族的であるがヒエラルキーが残っている。これは、どういうことかと言うと経営者が情報を全て握っている。ある意味、経営者から見ると守ってあげますよという立場で、別にそれにしたがっている家族的な社員がいればそれでまわっていきますというようなもの。」
 最後が、TEAL(ティール)と言われていて、「これを言葉で言うと生命体というイメージ。経験しないとよくわからないかもしれないが、特徴は、その組織が社会にとって必要だと思われていること。そして、それが共有されていること。そして次に、セルフマネジメント。社長がぜんぜんマネジメントしていませんという状態。個々に社員が動いている状態。次にホールネスで、それぞれ個人の強みで仕事をやっていて、それでいいよねという安全性、そこにいて安心、ミスしてもいいよという役割分担がされている状態。」
 これが最近注目されていて、海外ではアウトドアメーカーの「パタゴニア」みたいなところであるし、「かんてんぱぱ(伊那食品工業)」がこれに近い経営をしているとのこと。どちらかというと、フラットな組織。これが出来ているのには理由があって、それは情報の透明化。みんながオープンにその情報を共有しあいながら、自分がどこの立ち位置で動いたらいいのか自主的に考える。これが、この時代に出来ている理由はITがあるからと講師は認識しているし、翻訳した著者と講師が話をされた時もそれが大きいと言われていたとのこと。ある囲まれた部落の中で、ある特定の親父さんだけが情報を握っていたらこれにはならない。これがいいかどうかではない。このような持続可能性が高そうなTEAL(ティール)というのもあるよねというキーワードを紹介されたくて、5つのチームの話をされた。
 そういう意味で、参加者が地域を活性化する時のチームというのはどのタイプでいこうかなと考えてほしい。講師からは、具体例として「大地震が起き、これから洪水がおきる時にTEAL(ティール)組織では対応出来ない。いちいちあれこれ考えている間に土砂が崩れて死んでしまうということになるので、統制がとれたところが指示を出しながらやっていくことがいいかもしれない。新しい物を作り出すときに、いろいろな人が役割分担をしながら対話をして摺り合わせを行うのはTEAL(ティール)がいいかもしれない。会社の中には、この5つのタイプが複数存在していることを共有させてほしい。どれがいいかではない。その場、そのシチュエーションによって、チームワークの形態を変えているのが現状なので、どの時にどれを使えばいいかを共有させていただいた。」との説明がありました。
 続いて、まとめとしてICTを使って地域の活性化を考えるために必要となる、キーワードについて、具体例を交えて次のとおり紹介いただきました。
 ・地域の活性化
   【サステナビリティ】地域活性化の目的
   【多様性】100地域あれば100通りの課題
   【共有化】地域情報の透明化がティール型コミュニティー形成へ
 ・ICTの進化
   【民主化】ノンコード開発アプリ
   【部品化】クラウドサービスの組み合わせ
   【標準化】標準アプリと再利用
   【共有化】クラウド型グループウェアがインフラ
 そして、最後に、講師が行った小学生4年生に対するパソコンを使った授業の動画が映し出され、小学生達のすごい、すごいといった言葉が飛び出し、楽しそうに授業を受ける様子が上映されました。
 なお、後の来場者アンケートで、「自分がIT企業に入ったのは、小学6年生のときにマイコンってすごい!!と心をわしづかみにされたのがきっかけで、その時の事を思い出して思わず涙が出ました。」といった感想も聞かれました。
 講師の柔らかい口調と平易な言葉での説明、変化に富んだ進行により、終始和やかで集中した講演会となりました。

「ICTを使って地域の活性化を考える ~新たなチームワークがもたらす地域活性化~」

  <講師>
   複業家(コラボワーク代表、サイボウズ社員およびNKアグリ社員)中村 龍太氏
  

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