今回の例会では、昭和24年1月の公共事業を含む産業や教育についての軍政部活動報告書の解読を進めました。

(写真1)英文の活動報告書の解読の様子
会では、翻訳内容に関連し、参加者から様々な情報や体験が発表されました。
絹製糸場に関しては、県西部の参加者の方から「弓ヶ浜半島では、江戸時代には綿(伯州綿)の栽培が盛んだったが、明治中期には衰退する綿から養蚕のための桑畑への転換が進んだ。地図で見ると昭和5年の桑畑の記号の範囲が広範囲にわたっていたが、平成13年の地図では桑畑の記号の部分はなくなっている」と地図を手にして話がありました。

(写真2)地図を手に説明する参加者
また、皆生送信所に関しては、正式には美保海軍航空隊の皆生送(受)信所というがその施設の跡は現在も残っているとのことで、送信所跡地の写真が投影されました。送信所に関連し、昭和20年7月の米子市への空襲について参加者の父親の体験談もありました。
学校教育に関しては、「この報告書を書いた軍政部教育担当のエバンス氏がよく学校に来ていた」との話や「当時は学校へは下駄で通い校内では裸足だった。トイレがとても汚かった」との体験談がありました。
社会教育では、「昭和24年4月に全国で始まった『婦人週間』以外に、鳥取県では国とは別にその年の1月に『女性週間』が設けられたようだが、戦前から使われてきた婦人でなく女性という言葉を用いたことは先進的だったのでは」という意見がありました。

(写真3)活発な意見交換が行われました
今後も引き続き、会員皆様からの情報や体験等も参考にしながら報告書の英文解読を進めていきたいと思います。
令和6年3月12日(火)、県立図書館大研修室にて、資料保存・修復研修会を行いました。講師は、南部町で修復工房「Hata Studio」を経営されている秦博志さんです。秦さんは、県内外の紙資料の修復を手がけており、県立博物館で開催された企画展「根本幽峨」の資料の修復も行いました。今回の参加者は県内の図書館・博物館等の職員18名でした。

「Hata Studio」代表 秦博志さん
研修では、(1)裏打ち、(2)昭和期発行の刊行物の修復を行いました。
(1)裏打ち
裏打ちは、正麩糊(小麦粉のでんぷん糊)を使って資料の裏に薄い和紙を貼りつけるものです。昨年度も実習しましたが、一度では習得が難しい技術ですので、今年度も優先的にプログラムに加えました。昨年度同様、まず秦講師に手本を見せていただき、それから各自が実習しました。

秦講師による裏打ち作業の様子

裏打ちした資料を板に貼りつけて乾燥させる
(2)昭和期発行の刊行物の修復
昭和期発行の刊行物はホチキス等の金具で綴じてあるものが多く見られます。ホチキスは年月が経つとさびてしまい、その周辺の紙が破損します。今回は、表紙と見返しの糊付け部分を水を使って丁寧にはがし、ホチキスを取り除き、穴を開けて糸で綴じ、正麩糊を付けて表紙を元に戻す方法を実習しました。

刊行物の修復の実習風景
最後に参加した職員の感想を紹介します。
- 古文書を糊で繋いだとき、上から刷毛で強く叩くことに驚きましたが、そういった体験から、紙と糊が何でできていて、どのように作用して張り付けることができるのかを考えるなど、紙、資料についての理解が少し深まったように感じました。
- 今後、状態の悪い資料を目にしたときに、どんな処置が必要か、それを自分たちでするのか、専門家に外注するのか、などの判断ができるようになったことが大きな成果だと思います。
- 「針金綴じの資料の手当て」については、日頃よく目にするものなので、他の職員に伝達研修をし、郷土資料の保存に活かしていきたいです。
- 博物館、公文書館、図書館それぞれ扱う資料は異なるが、いろいろな技術や知識を習得することも大切だと思いました。
研修の中で秦さんは、「正麩糊を使っての資料修復は昔から行われている。現在までよい状態で残されていることから、歴史に裏付けされた最善の方法である。」と説明されました。技術を伝えていくことで、資料を永久に残していくことが可能です。紙資料の利用や保存に携わる者として、少しでも技術を学び、伝えていくことができればよいのではないかと思います。
御指導いただきました秦博志さんには、厚くお礼申し上げます。
11月7日、8日の両日、県立図書館と公文書館の職員対象の資料修復研修会を開催しました。講師は、南部町在住の修復士・秦博志さん(Hata Studio代表)です。

講師・秦博志さん(修復士・修復工房Hata Studio代表)
両日とも6名ずつの参加で、同じ内容で講義と実務指導を行っていただきました。
(1)講義
ア:資料修復の原則
修復は必要最小限にとどめ、元の状態を壊さないこと。元に戻せる材料や方法を選ぶ必要があります。修復の際に、本紙(修復する資料)より薄い和紙を使用し、小麦粉のみで作られた正麩糊を使うのはそのためです。
ただし極力手を加えないとは言っても、酸性紙などのように保存しているだけで自然に劣化していくものなどについては、劣化を遅らせる処理なども必要になります。
イ:紙の特徴
和紙を透かして見ると、縦横に線が入っているのが分かりますが、線が濃く入っているのが「糸目」で、線が薄く入っているのが「簀の目(すのめ)」です。紙を漉く際には前後に揺するため、繊維が「糸目」に沿って並びます。そのため、「糸目」方向には裂けやすく、折り曲げやすいのです。また、水分は繊維と繊維の間に入り込むため、「簀の目」方向に伸びやすい性質もあります。これらの紙の特徴を活かして修復、製本を行うとよいとの事でした。
(3)実習
ア:裏打ち
裏打ちには「送り」と「投げ」という技法がありますが、今回は「送り」による裏打ちを行いました。糊の濃さは刷毛から糸のように垂れる程度。想像以上に薄い糊を使用します。

裏打ちの実習風景
イ:食い裂きによる繕い
食い裂きは、和紙を細くちぎって虫食いなどの部分を埋めていく技法です。先に和紙を細長くちぎったものを用意しておくと便利だということでした。食い裂きの毛羽を活かし、虫食いなどの部分を埋めていきます。糊の濃さは裏打ちより濃く、緩いジェル状です。糊付けした後は低温のアイロンをかけて乾燥させます。
ウ:大きく欠損した資料の繕い
欠損部分の上に和紙を重ね、少し大きめに鉛筆で形をとり、水筆でなぞってから鉛筆部分が見えなくなるようにちぎります。本紙に糊をつけて貼り付けます(別の場所で和紙に糊をつけてから貼り付ける場合もあります)。糊の濃さは食い裂きと同じ程度です。食い裂きと同様にアイロンをかけて乾燥させます。
エ:切継ぎ
糊の濃さはマヨネーズ程度。資料は糊をつける部分だけ出し、糊がつかなくて良い部分は別の紙で覆い刷毛で糊をつけて貼り合わせます。糊の水分が少ないため紙も伸びないので自然乾燥させます。
参加した職員の感想を紹介します。
- 「今後、今日の学びを生かせる機会を作りたい」
- 「どんな古い資料が出てきても、時間と手間をかければ保存できる自信がついた」
- 「あっという間の3時間だった」
皆様、お疲れ様でした。
今回は、研修に初めて参加する職員も多かったので、基本となる裏打ちと繕いを習いましたが、一度ではなかなか覚えきれない技術です。経験したことのある職員も前回の研修から時間が経っているため、再度受講できたことで思い出す機会になったようです。
普段の業務には直接は関係のない技術でも、知識として持っておくことは、資料と関わる上で大切なことであると実感しました。
御指導いただきました秦博志さんには、厚く御礼申し上げます。
令和5年3月25日(土)、令和4年度鳥取県災害アーカイブズシンポジウム「過去の災害情報をどのように活用するか―データベース・アーカイブの可能性―」をオンラインにて開催しました。
本シンポジウムでは、まず鳥取大学工学部教授の香川敬生氏から「山陰地方で発生した近現代の地震活動と長期評価」と題する基調講演を行っていただき、その後、関連報告として奈良文化財研究所主任研究員の村田泰輔氏から「考古資料による潜在する地震ハザードの見える化と歴史地震研究」、同研究所客員研究員の西山昭仁氏から「史料データを活用した地震研究―京都での歴史地震の事例―」を、それぞれご報告いただきました。
香川氏の基調講演では、強震動地震学の観点より、主に戦前から2016年の鳥取県中部の地震に至る、山陰地方での地震活動が分析されるとともに、それらを勘案した、この地域での今後の地震活動の見通しが示されました。
また、村田氏の関連報告では、現在、奈良文化財研究所において進められている、「歴史災害痕跡データベース」の構築に関する話を軸としつつ、複雑な被災の様相を明らかにしていくためには細かなデータ収集が必要であること、その際、発掘現場での調査から得られた情報、あるいは関係する調査報告書等の丹念な読み取り・評価といった地道な作業が求められること、そしてそれらの情報を総合したデータベースを活用することで、活断層についての評価の見直しなどにもつながり得ることなどが分かりやすく説明されました。
さらに西山氏の関連報告では、京都に被害を及ぼした3つの地震の事例が取りあげられ、歴史学的な観点からする丹念な史料の評価・分析を通じて、通説とは異なる、新たな震央の情報が浮かび上がってくるなど、文系の学問分野も防災・減災に大きな貢献をし得ることが示されました。
今回ご講演・ご報告いただいた先生はじめ、関係する有識者の方からのご意見を踏まえながら、いよいよ本格的に鳥取県災害アーカイブズの構築に取り組んでいきたいと考えています。

災害アーカイブズシンポジウムの様子(プライバシー保護のため、一部画像を加工しました)
3月8日(水)、県内の図書館・美術館・博物館等の職員を対象に資料保存・修復研修会を行いました。講師は南部町在住の修復士・秦博志さん(修復工房Hata Studio経営)です。秦さんは、県内外の紙資料の修復を手がけられ、資料修復の講師などもされています。会場は県立図書館大会議室で、参加者は13名でした。

左から柳楽公文書館長、秦講師
研修の様子をご紹介します。研修では、(1)裏打ち、(2)繕い、(3)糸切れした和本の綴じ直しを行いました。
(1)裏打ち
秦講師に手本を見せていただき、それから各自が実習しました。糊の濃さは刷毛を持ち上げた時に1本の線になって垂れる程度で、想像より薄くて驚く参加者が多くいました。また、裏打ちする和紙は、将来的に剥がすことを考えて、資料より薄いものを用いますが、薄ければ薄いほど技術的に難しいため、公文書館が使用している中厚(3匁)のものを使いました。

裏打ちの実習風景
(2)繕い
裂けてしまった資料や、欠損部分のある資料の修復方法を習いました。裂けた部分は、典具帖紙という極薄和紙をあて、上から糊を塗ります。欠損部分は、バックライトボードの上に載せ、その上に修復用の和紙を重ねて水をつけた筆でなぞり、欠損部分と同じ形になるようにちぎります。形をそろえて補修するときれいに出来上がることが分かりました。欠損部分もできるだけ同じ厚さになるように補修するのが良いとのことでした。

繕いの実習風景
(3)糸切れした和本の綴じ直し(四つ目綴じ)
当初は、和綴じ本の作成を教えていただく予定でしたが、より実践的に、参加者が持ち寄った糸切れした和本の綴じ直しを行うことになりました。糸の長さは資料の対角線の3.5倍程度。既に4つの穴が開いているので、最初の穴と進む方向を間違えなければ、一筆書きのように穴に沿って針を進めていけば完成します。参加者の習得も早く、すぐにでも業務に生かせるように思いました。

和本の綴じ方を説明する秦講師
最後に参加した方の声を紹介します。
- 「紙資料の修復に適した糊や和紙の種類などを具体的に紹介いただき、大変参考になった」
- 「裏打ち実習を体験し、資材だけでなく不織布やハケなど作業に使用する道具の効果も実感し、とても有意義な研修会だった」
- 「裏打ちなどの資料の修復について、座学だけではなく、実習できたことがとてもよかった」
- 「実際に修復を体験できたことは、本格的な修復でなくとも、応急処置などでも応用できるのではないかと思った」
資料修復の方法について、インターネット上でも色々と見ることはできますが、実際に自分の手を動かして、指導を受けるのとは大違いです。日常業務に生かせる大変有意義な研修になったのではないかと思います。
ご指導いただきました秦博志さんには、厚くお礼申し上げます。