鳥取での初上映にあたって
農夫がリンゴを育て、画家が一つの絵を仕上げ、歌手が歌を唄う。
これらart worksは、経済過程にあるものではないでしょう。
カラダの経路からの喜びをもって行われる、本来は純粋な活動/worksだったことでしょう。これら精神生活に属する労働/worksとは、人間の内奥から生じる最も神聖な自己実現の瞬間だった筈のものです。
賃金契約で支えられた社会は、限りなく、強者はさらに強く、弱者は更に弱くならざる得ない格差社会を生み出し、国家間においては、戦争を引き起こす最大の要因と直結したものが賃金契約と言っても過言ではないでしょう。戦争を止めるには、収益を自己自身の所有にすることを止めることしかありませんが、これは労働/worksそのものが自律性を保ちつつ、賃金契約という現代の奴隷制がいかに克服されるかにもかかってきましょう。
それを私は、子午線の克服と呼びます。目にみえず、しかし確かに存在するもの。これは時間と共に、或いは歴史として、たえず巡りつづけるでしょう。
子午線と経路を切り結ぶ、ふたりの友人をとらえた2時間40分の映画をつくりました。
ふたりは、この制作を通じて多くのことを教えてくれました。彼らはたえず、この境界において、歩み、立ちどまり、耳をすませ、踊ることを体現した稀有な芸術家です。
鳥取の方々の手によって初上映されるこの映画は、ふたりへの私の感謝の気持ちを表し、聴く人の子午線とダンサーの身体の経路が教えてくれたことを、ちゃんと学びましたよと示すものなのです。
宮岡秀行
Photo Atsushi Koyama