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各委員から定期的に教育情勢に関する意見や思いなどをいただき、リレー形式のコラムとしてご紹介します
バックナンバー
2019年03月15日
<居場所>(佐藤委員)
2019年02月12日
特別支援教育と障がい者スポーツ(鱸委員)
2019年01月31日
新年、「途中を楽しむ」を大事にしたい(中島委員)
2018年11月09日
「コラム」(坂本委員)
2018年10月10日
「コラム」(佐伯委員)
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「インクルーシブ教育の目指すところー障がいをどうとらえるかー」(鱸委員)
「国家百年の計は教育にあり」
人づくりは国づくりの根幹であるといわれる。岡山藩主池田光政が儒教を教育理念にすえ、開設した庶民の学校である閑谷(しずたに)学校の歴史的成果が、それを物語る。
今日のグローバル社会においても、米子出身の経済学者/宇沢弘文氏(故人)は、社会的共通資本という視点で「人間にとって、社会にとってもっとも大切なものは医療と教育をすべての人にとっての共通財産として大事に守り、それに加えて自然環境の大切さにも目を向けること」と強調している。情報化社会、多様化する社会の中で、日本の将来を託す子供たちには、学校教育が、違いを持った人と人が共に生きていくための知恵が学べる場であってほしいと考える。
障害者の権利に関する条約(障害者権利条約 平成26年2月発効)にある「インクルーシブ(共生)教育システム」にはいくつかのポイントがある。
○人間の多様性の尊重等の強化(道徳としての人権教育)
○障がい児が精神的及び身体的な能力等を可能な最大限度まで発達させる(療育:小児リハビリテーション)
○自由な社会に効果的に参加することを可能とする目的での教育(特別支援教育)
○障がいのある者と障がいのない者が共に学ぶ仕組み(通級制度、特別支援学級、特別支援学校)
○個々の障害に必要な教育的ニーズに対する「合理的配慮」が提供される等(障害者差別解消法)
つまり、教育現場では同じ空間で共に学ぶ、個別の障害のある子どもたちに対して、自立と社会参加をめざし、障がいの違いや、成長の過程での教育的ニーズに最も的確に応える指導を提供できる、多様で柔軟な仕組みを整備することが求められる。
障がいをどうとらえるか?
近年、二国間の歴史認識、文化、宗教の違いによる領土問題や、テロをふくめた紛争に関しての記事が新聞を賑わしている。それは文化摩擦の結果ともいえる。その解決法として、領土問題での摩擦解消においては外交で、両国が容認し相手国とのすりあわせが行われる。大辞泉によると文化とは、『世の中が開けて生活水準が高まっている状態や〈人類の理想を実現していく精神の活動>を意味する場合と、〈弥生文化〉というように〈生活様式〉を総称する場合とがある。』とある。
障がい者の支援者の中には、障害児・者のことを“異文化の中で生活する少数民族”と呼んでいる人もいる。言葉の読み、書き、会話ができない国に一人で外国旅行をすることを想像してみる。異文化のなかでの生活は、異文化に触れる楽しみよりも不安が先に立つものである。その時、言葉、生活のルール、金銭管理など異文化に対する“すり合わせの作業”が必要となる。障がい児・者の社会参加を進めようとする中で起きる文化摩擦は、互いが理解するうえで必要なプロセスであり、理解し合える基となる。
肢体、知的、精神等の障がいに加えて、発達障害者支援法の成立(平成16年)により発達障がいも障害者基本法、自立支援法において支援対象として明記された。発達障害のこどもは、発達に凸凹があり、生来の特性、気質と後天的な環境要因により適応障がいとなり、“障がいを持った子”として位置づけられる。そして、その子の持つ認知特性の理解不足から、いじめにあったり、自己肯定感の低下から不登校になる子もある。しかし、障がいのある子供たちをみていると、多数派の子供にはないきらめきを感じることが多く、発想の豊かさ(芸術性)、飾らない素直な思い、を感じる。また、成人して社会参加のなかで、優しく、規則正しく、忍耐強い性格から福祉施設で就業したり、細かい数字記号に集中できることで、医療材料などのロッド番号の確認など、医療安全関係の医療職として、産業界で品質管理に
成果を出している方の話も聞かれる。
障害のある幼児児童生徒の自立と社会参加を実現するには、特別支援教育専門職が他機関と協働して、子供の持っている光るところを伸ばす努力:よいところを見つける(異文化とのすり合わせ作業)を行うことが必要だと感じる。この文化交流=支援を通した成果が、地域社会で障がい者が如何に過ごしやすくなったか(生活の質の向上)につながると確信する。
また、長年にわたる障がいとのすり合わせ作業と科学の進歩と支援者の情熱により、すばらしいコミュニケーションエイド、補装具(例えばロボットスーツHAL、車椅子など)補聴器 ITリハビリ機器等が産まれた。そしてそれぞれの障がいの特性から形付けられる生活環境(様式)の深化は、高齢化により増加しているロコモ症候群、認知症患者にとっても、非常に役に立つモノであり、障がいの無い人にとっても便利である。結果、バリアフリー、ユニバーサルデザインとしての町作りにもつながっている。まさに、障がい児・者文化が、ノーマライゼーション理念を後押ししている。言い換えれば、インクルーシブ教育が生み出した成果の一つかもしれない。
“発達障がい者にとって、好きな活動に集中出来るとき、苦手な行動に対し良き理解者と環境要因が備わったとき その時、障がいは個性になる”
井上雅彦先生(鳥取大学心理学)の講演より
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