こんにちは。鳥取県東南アジアビューローの辻です。
先月より世界的に新型コロナウイルスが猛威を振るっていますが、タイにおいても3月下旬に入ってから感染者数の増加率が上昇したため、緊迫度を増してきました。バンコク首都圏ではデパートや娯楽施設の閉鎖(食料品や日用品売り場、スーパーマーケット、コンビニエンスストアは営業)や、飲食店では持ち帰りやデリバリーのみ対応(店内での飲食は禁止)となるなど日常生活にも影響を及ぼしています。
今回はアジアでも屈指の観光立国である、タイの観光産業とその問題、また新型コロナウイルスによる影響についてお伝えします。
なお、最新の東南アジア地域への渡航情報については、当課ホームページ公表の「現地レポート2020年2月号」からもご確認いただけます。
1.タイの観光産業
タイを訪れる外国人観光客の数は年々増え続けており、2017年は3,535万人、2018年は3,828万人、そして2019年には3,980万人と、ここ3年間でその数は日本を上回っています。
2018年のデータでは、タイは世界全体で9番目に外国人旅行者の多い国で、アジアでは中国(4番目)に次いで2番目に位置しています。(日本は11番目)
国際観光客数トップ10 |
2018年 |
2017年 |
1位 |
フランス |
8,940万人 |
フランス |
8,691万人 |
2位 |
スペイン |
8,277万人 |
スペイン |
8,178万人 |
3位 |
アメリカ合衆国 |
7,961万人 |
アメリカ合衆国 |
7,694万人 |
4位 |
中国 |
6,290万人 |
中国 |
6,074万人 |
5位 |
イタリア |
6,214万人 |
イタリア |
5,825万人 |
6位 |
トルコ |
4,576万人 |
メキシコ |
3,929万人 |
7位 |
メキシコ |
4,144万人 |
イギリス |
3,765万人 |
8位 |
ドイツ |
3,888万人 |
トルコ |
3,760万人 |
9位 |
タイ |
3,827万人 |
ドイツ |
3,745万人 |
10位 |
イギリス |
3,631万人 |
タイ |
3,538万人 |
出典:世界観光機構
更に、マスターカード発表の、都市別でみる2019年版の世界の渡航先のランキングでは、2位のパリに360万人以上の大差をつけ、バンコクが年間約2,278万人で1位に輝きました。バンコクは2016年から4年連続トップで、他にも14位、15位にプーケットとパタヤがランクインしていることからも、観光地としてのタイの世界的な人気の高さがうかがえます。
また、外国人観光客から得る国際観光収入で見ると、タイは2018年に630.42億米ドル、日本の411.15億米ドルから1.5倍以上、アジアトップの利益を上げており、世界的に見ても、アメリカ、スペイン、フランスに次いで4位に位置しています。
観光業のタイ経済に置ける役割は大きく、特に商品輸出の低迷が続く近年では、タイのGDPに占める観光業の割合は増加しており、国家経済社会開発庁の発表では2019年にはGDP全体の20%近くまで上昇しました。タイ政府は2030年までに、この割合を30%まで引き上げることを計画しています。
2.タイの観光業が抱える問題
タイでの観光ブームが高まる一方で、環境問題への対応が国としての急務となっています。アメリカの俳優レオナルド・ディカプリオ主演の映画「ザ・ビーチ」の舞台として有名になった、タイ南部に位置するピピ島のマヤ湾は、1日に5,000名前後の観光客が訪れる観光名所でした。しかし、現在はサンゴなどの生態系回復のため閉鎖されています。閉鎖期間については、当初2018年6月から4か月間とされていましたが、その後、何度か延長を繰り返し、2021年の半ばまで閉鎖となりました。
プーケットやサムイ島など、日本人観光客にも人気観光地が多いタイ。2020年1月からは大手スーパーやコンビニ、デパートでのビニール袋の提供が完全に中止されるなど、今後の環境への取り組みが注目されます。
タイ南部の人気観光地マヤ湾
出典:BANGKOK POST
3.新型コロナウイルスの影響
前述の通り、観光産業の更なる成長を見込んでいたタイ政府ですが、タイ国会経済社会開発評議会(NESDC)は、コロナウイルスの感染拡大を受け、2月17日に2020年の経済成長率の見通しを従来の2.7~3.7%から1.5~2.5%へと下方修正しました。特に、タイの主要産業である観光産業への打撃は甚大です。
日本について言えば、2019年に約180万人と過去最高を記録した訪タイ日本人旅行者数ですが、2020年には更に200万人までの旅行者数の拡大を目標としていました。しかし、タイ日旅行業協会は2月19日に新型コロナウイルスの感染拡大問題のため、日本からタイを訪れる団体旅行の約8割がキャンセルになっているとの発表をしました。
出典:タイ観光・スポーツ省
世界的に見ても、タイの観光・スポーツ省長官が、2020年の上半期の訪タイ者数は前年比50%減を見込み、タイのサービス業に従事する何百万もの人に大きな影響を及ぼすとの発表をしました。2月1日から9日だけを見ても訪タイ者数は43.5%下落しており、中国人観光客だけを見ると、86.6%にもなります。その後、世界的なウイルス感染の更なる拡大に伴い、3月11日にはタイ国政府観光庁(TAT)が、2020年にタイを訪れる外国人旅行者は、最大で1,000万人、観光収入も約1兆5,000億バーツ(日本円で約4兆9,500億円)減少する可能性があるとの見解を示しました。更に20日には、観光・スポーツ相のピパット氏が、新型コロナウイルスが今年の12月までに終息をしない場合、タイの今年の外国人旅行者数は、最悪のシナリオとして前年比で3,000万人減少する可能性があるとの発表しており、見通しは悪化の一途をたどっています。
3月18日には、タイへ渡航する全ての旅行者に対してタイ発の航空便の搭乗時に、コロナウイルスに感染していないことを示す健康証明書の提示を求める措置を行う旨が発表され、実際に3月22日から行われております。日本では健康証明書を入手することが困難なため、事実上の渡航制限となります。これに伴い、タイ・ライオンやタイ・エアアジア、バンコク・エアウェイズ等の航空会社各社も国際線全便の運航休止を余儀なくされています。
これを受けてタイ政府では、政策金利の過去最低となる0.75%への引き下げや税制の優遇やコロナウイルスの感染者や損失を受けた事業者に対し、納税の猶予を認めるなど対策を講じていますが、タイ国内の感染者は、3月16日からの1週間で5倍以上に激増しており、3月23日時点で、721名の感染が確認され、更なる感染の拡大が予想されます。世界的にも終息の兆しがみられない現状を考えると、観光業を含めタイ経済への影響は計り知れません。少しでも早い収束を祈るばかりです。
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