平成24年度議事録

平成24年7月18日~7月20日・所管事項に係る県外調査

1 調査日時・箇所・内容

平成24年7月18日(水)
○京都府庁(京都府)
  原子力発電所対応の現状について
○滋賀県庁(滋賀県)
  原子力発電所対応の現状について
平成24年7月19日(木)
○京都大学原子炉実験所(大阪府)
  科学研究への中性子利用について、原子炉の安全性について
○美浜原子力防災センター(福井県)
  オフサイトセンターについて、美浜原子力発電所の安全対策について
平成24年7月20日(木)
○あいとうエコプラザ菜の花館(滋賀県)
  菜の花プロジェクトについて

2 調査委員

浜田委員長、砂場副委員長、山口委員、小谷委員、野田委員、横山委員、濵辺委員、森委員

3 随行者

鳥取県議会事務局調査課 梅林係長、西村主事

4 調査報告

 昨年3月の東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所事故後、原子力発電所の再稼動問題は国民の注目を集めてきた。
 本県においても、中国電力島根原子力発電所からは最短で17kmの距離にあり、今後の再稼動に関しては県民の関心も極めて高い現状にある。こうした中、関西電力大飯発電所3・4号機が、さまざまな議論の下、7月に再稼働した。
 本県は、中国電力と昨年12月に「島根原子力発電所に係る鳥取県民の安全確保等に関する協定」を締結したところである。現協定には運転再開時等の「事前了解」等が盛り込まれていない。一方、6月の原子力規制委員会設置法の成立を受け、9月にも発足する原子力規制庁は、原発から半径8~10キロ圏内とする現行の安全対策重点実施地域を、30キロ圏内に拡大する新たな「原子力災害対策指針」を策定する見通しだ。そうなれば県内では境港市全域と米子市の一部が重点実施地域に含まれる。このことが実現した段階で、本県では、島根県、松江市が中電と結ぶ安全協定にあって本県にはない原子炉増設時の事前了解、立ち入り調査など原発稼働に一定の権限を持つ差異を解消し、立地自治体と同じ内容への格上げを目指し、中電へ協定の改定を申し入れることとしている。

 こうした実情を踏まえて、本県の原子力行政に生かすべく、今回、京都府及び滋賀県の原発立地隣接県としての対応の現状や、国内有数の原子炉の共同利用研究所である「京都大学原子炉実験所」の研究を調査した。
 また、原子力エネルギーとはいわば対極にあるクリーンエネルギーの普及に先駆的に取り組んできた、東近江市の「菜の花プロジェクト」について、本県での再生可能エネルギー増産に応用できる点を探ろうと、併せて調査を行った。

 京都府は、高浜発電所から30km圏内に7市町約13万人、大飯発電所から30km圏内に5市町約6万8千人の府民が暮らしている。また、原子力災害対策特別措置法が定める関係隣接都道府県の権限を持っており、原発への立ち入りや原子力事業者の施設、書類などの検査、関係者への質問ができる。(なお、本県の場合、島根原発の所在する松江市とは、中海や境水道という「水域」を隔てていることを理由に同法に基づく関係隣接県にはなっていない)。
 このことからも、原子力防災に関しては従来から種々取り組みを進めており、この3月には府民向けの「原子力防災のしおり」の作成や「原子力発電所防災対策暫定計画」の修正なども行った。
 また、関西電力に対し「被害地元」として立地県並みの安全協定締結を求めている。一方、関西電力としては立地県である福井県への配慮等もあり、また他の先例となる協定は避けたいとして難航しているのが実情のようだ。府民からは立地県並みの協定締結を求める声が多く、粘り強く交渉を進めていくという。
 避難計画に当たっては、高速道路の活用を検討中で、福島原発事故を見ても、高速道路のインターチェンジを押さえて一方通行や緊急車両に限定指定をしたことが効を奏したことあり、今後、規制は府警やネクスコと相談することになってくるとのことであった。

 滋賀県も、京都府と同様、法に基づく関係隣接都道府県の権限を持つ。地域防災計画原子力災害対策編を昨年度に見直し、今年度はさらに、広域的応援等連携体制や警備及び緊急対策、琵琶湖への影響評価などを項目に加えて見直しを進めていくという。
 大飯原発再稼動に当たっては、京都府と共同しての国への提言や、大飯原発オフサイトセンターへの職員派遣などを進めた。また、連絡体制について、これまで関係市にだけ流していた情報を県内全市町に流すことにしたとのことである。避難計画は今後の検討事項だそうだが、隣県との連携も必要になってくるのではとのことである。
 また、関西電力に対して、京都府同様立地県並みの協定を求めているが、同じく難航中とのことであった。
 国の安全対策重点実施地域拡大等、今後の動向を踏まえつつ、両府県の交渉の展開を注視したい。本県の中国電力との交渉にも示唆を与えるであろう。

 京都大学原子炉実験所は、我が国唯一の原子力関係の全国共同利用研究所であり、研究用原子炉や臨界集合体実験装置などを用いて、原子力科学の教育・研究、学際領域(放射線を利用した研究、革新的ガン治療)の研究等を進めている。
 原子炉は核燃料に中性子を当てて核分裂させ、その連鎖反応を定常な状態に保てるようにしたものだ。中性子は分析に有用で、水俣病患者の毛髪や小惑星探査機はやぶさが小惑星イトカワから持ち帰った試料も分析したという。
 また、中性子で金属の様子を調べることができ、橋の劣化などの調査にも応用できる。リチウムイオンが電池中でどう流れていくか、中性子を使って原子レベルで回析し、リチウム電池の性能を上げる研究なども進めており、暮らしに身近な分野でさまざまに貢献している。
 また、医療面での研究も盛ん。ホウ素から出た熱中性子を当てるとガン細胞だけを殺し正常細胞を傷つけないと、これまで約300症例を治療。中皮腫は肺全体に広がったガンなので、外科的治療が難しく中性子の治療が有効という。
 原子力発電は核分裂で得た熱で水を水蒸気にしてタービンを回して発電している。原子炉格納容器の中で核分裂し放射性物質が飛び散ることはないとされてきたが、福島の事故でその事態が生じた。少量の燃料で大量のエネルギーを発生させることができCO2を排出しないメリットがある反面、放射線と放射性物質が発生し、これらの放射性廃棄物はテロ、事故さらには処理の問題がある。核分裂反応を止めても、核分裂生成物は熱を出し続け、停止後3日経っても、1時間で8.3トンの水を蒸発させるほど。原発に何かあったら「核分裂を止める」「原子炉を冷やす」「放射性物質を閉じ込める」が原則との話であった。
 自然災害の評価の難しさが、福島の事故での一番の教訓で、想定外への対応は思考停止にならないようにしなければいけない。準備や訓練をしても、それが本当の意味で役立つものでなければならない等の意見をいただいた。
 放射線は宇宙線として常に地球上に降り注いでいるもの。原子力発電所の事故で心配が高まる中、我々の暮らしと共存共栄していくために有用な研究が進むことが期待される。

 美浜原子力防災センターでは、オフサイトセンターの機能や事故発生時の対応等について話を伺った。
 オフサイトセンターは緊急事態応急対応拠点施設のことである。福井県では、原子力事業所の敷地境界で0.5マイクロシーベルト/時以上の放射線量が検出された場合警戒配備に着き、1マイクロシーベルト/時で事故対策本部が立ち上がるという。これは原子力災害対策特別措置法で定められたものよりも厳しい配備基準である。
 美浜原子力防災センターは美浜原発から9キロの場所に立地。ERSS(緊急対策支援システム)で美浜原発のパラメーターを表示して状況を把握する。衛星通信設備、可搬型衛星電話、SPEEDI、空間線量システムなどがあり、サーベイメーターも各種用意されている。
 福島の事故の場合、オフサイトセンターに関係機関が集まることができず機能不全を起こし、電力会社本店にオンサイト対応の総合対策室を設けることにして、オンサイトとオフサイトで分担して対応することになった。
東日本大震災は海溝型地震だったため、大きなすべり量と地震セグメントにより、大きな津波となった。古文書、伝承の調査、津波堆積物の調査、海底地形図の作成により、津波の高さを予測し、福島第一原発事故に学び「外部電源対策」「冷却・注水設備対策」等について30項目の対策を立てている。電源確保に電源車や非常用発電装置を追加し、水源確保では消防ポンプ、可搬式エンジン駆動海水ポンプ、大容量ポンプを順次配備した。浸水対策としては扉や配管官貫通部にはシールを貼ったほか、非常用電源装置は海抜42メートル、消防ポンプは同32メートルに置き、防潮堤も地盤プラス11.5メートルに嵩上げしていくという。
 また、シビアアクシデント対策として、建屋からの着実な廃棄手順を整備したほか、静的触媒式水素再結合装置を設ける予定。また、フィルタベントも設置し、福島で扉が曲がって使えなかった経験から免震事務棟を28年までに新設するという。
 また、休日夜間要員を26人から47人に増強し、2時間以内に100人以上の技術系社員の招集ができるようにしたそうである。プラントメーカーも、三菱若狭原子力安全統括センターを美浜町内に開設したとのことであった。
 島根原発も美浜原発同様、再稼動については時期未定の状況にはある。大飯原発の稼働状況並びに9月の原子力規制委員会の発足も見据えつつ、関係者による訓練やあらゆる事態を想定した防護策が着実に進められることが必要であろう。

 平成10年に滋賀県旧愛東町から始まった地域型循環モデルの「菜の花エコプロジェクト」。平成17年に開館した「あいとうエコプラザ菜の花館」は、同プロジェクトと、未利用バイオマスのもみ殻を炭化し農地還元するなど、さまざまな資源循環の拠点となる施設である。
 転作田に菜の花を植え、菜種を収穫し、搾油して菜種油に。そのナタネ油は家庭での料理や学校給食に使い、搾油時に出た油かすは肥料や飼料として使用。廃食油は回収し、せっけんや軽油代替燃料(BDF)にリサイクルし、せっけんやBDFは地域で利活用。こうした資源循環サイクルの形を確立しようと誕生したのが「菜の花プロジェクト」だ。
 平成13年には滋賀県で、全国の「菜の花プロジェクト」の実践者、関心のある者が集まり「菜の花サミット」が開催され、「菜の花プロジェクトネットワーク」が設立された。市民イニシアティブに基づいた産・官・学・民のパートナーシップにより、菜の花を中心とした資源循環型社会の具体的な地域モデルづくりを推進し、地域自立の循環型社会形成の推進を目指そうとするものである。
 「菜の花プロジェクト」は耕作放棄地の解消に加え、エネルギー消費者型農業からエネルギー供給型農業へ転換する展望ももたらした。また、NPO法人が循環過程の一翼を担うことでコミュニティビジネスも生まれた。開花期の菜の花は観光資源となり、経済効果を生んだ。環境意識が高まり、厄介者だった廃食油が資源になった。その結果、市民や各機関、企業に新しい連携軸も生まれた。菜の花プロジェクト発祥の地として全国への情報の発信源になったことで市民や子どもたちの誇りになっているとの話であった。
 本県においても、例えば鳥取環境大学がネットワークに名を連ね、BDFを燃料としたスクールバス運行など再生可能エネルギーの普及研究を進めてきた。また、三朝温泉や皆生温泉でも、廃食油を回収してBDFを精製して送迎バスや幼稚園バスの燃料とするなど、地域ぐるみのエコ活動が各地で広がってきているところだ。メガソーラーやバイオマス、風水力導入などのほか、菜の花プロジェクトのような草の根発祥の取り組みの広がりも、本県のエネルギーシフト並びに地域活性化を進めていく上で有益であろう。

 

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