第54回県史だより

目次

湯梨浜町泊歴史民俗資料館所蔵の漁撈用具について

民具調査の概要

 平成21年度の民具調査は、湯梨浜町教育委員会と鳥取県立公文書館県史編さん室が共催として、湯梨浜町泊歴史民俗資料館の所蔵する民具を調査しました。

 調査課題は、「漁撈用具」として、基本的に週1回のペースで調査を進め、合計調査日数は、約30日間になりました。この調査には、民具調査協力員としてボランティア8名に参加していただき、泊の漁業の関係者、昭和40年代に資料館の資料収集を協力会の一員として手伝った方、民具に関心がある鳥取大の学生、2007(平成19)年の民具調査開始当初から参加し米子から通っていただいた協力員もおられます。

 協力員の方々には、資料の採寸、資料への整理番号付き荷札の取り付け、調査票へデータ入力、一部の方には重要資料の実測図作成もしていただいています(注1)

民具調査協力員の作業風景の写真
民具調査協力員の作業風景

湯梨浜町泊歴史民俗資料館の概要

 資料館の設置は、泊の医師、吉田道孝(よしだみちたか)氏の民俗資料収集の呼びかけで各地区に協力会が編成され、民具が収集されたことに始まります。1973(昭和48)年4月にそれらの資料を旧泊中学校校舎(現在は湯梨浜町中央公民館泊分館の敷地)に収納し資料館として開館しました。のち1979(昭和54)年11月に鉄筋2階建ての資料館が完成し、現在に至っています。

現在の湯梨浜町泊歴史民俗資料館の写真
現在の湯梨浜町泊歴史民俗資料館

県史調査以前の民具整理状況

 県史調査以前の資料館には、民俗資料整理票(作成時期不明)が存在し、一部の資料について資料番号、資料名、寄贈者の記載がありました。しかし整理票と原資料を照合するための整理番号はなく、照合は困難でした。後に原資料との台帳の照合を試み、台帳の重複分の処分した形跡があるものの、残念ながらそれも不完全であったと思われます。照合可能な資料については、その情報を今回作成した民具台帳の内容に反映させました。

県史編さん事業における調査結果

 平成21年度実施の民具調査では、資料館内に保管される資料が、総点数1968点であることが確認できました (注2)。『泊村誌』(泊村、平成元年)には昭和48年に約3000点の民具を収集とありますが、その後、新資料館が完成するまでに、処分されたものや、所在不明になったものもあると思われます。今回調査した資料群の中で分類上、数量が多い順番は以下となります。

1. 漁撈用具           414点
2. 食(食器、桶等)       306点
3. 服飾(衣類、履物等)     268点
4. 住居             179点
5. 交通・運輸・通信         121点
6. 農耕             109点

 このように漁撈に関する民具が最も多く、これは旧泊村が港を中心に発展した地域であり、また収集時に漁撈用具の積極的な収集が行われたためと思われます。鳥取県内にこれほど充実したコレクションは存在せず、これらの漁撈道具は全国的に見ても重要な学術資料であることは間違いありません。

 全体的には資料収集開始の時期が早かったこと、吉田氏という情熱あるリーダーがいたことにより、バランス良く充実したコレクションになっており、昭和初期(一部は明治期)から高度経済成長直前までの庶民生活をよく知ることができる資料群となっています。

漁撈用具について

 泊歴史民俗資料館の漁撈用具は414点ですが、この中には様々な漁具があります。巻網、刺し網、底引網など網漁(あみりょう)に関するもの、連続した縄漁具に多数の枝(えだ)縄を結着させ、その先端に釣り針を取り付けて、鯛やブリ、サメなどをとった延縄漁(のべなわりょう) (注3)に関するもの、現在、鳥取県ではほとんど見ることができなくなったシイラ漬け漁に使うロープ切りもあります。また主に鯛釣りの餌としたイイダコをとるための蛸壺は、サザエの殻や陶器製の壺などがありますが、大きな二枚貝を利用したものは、イイダコが空になった二枚貝の中に隠れる習性を利用したユニークなものです。

イイダコとり用の二枚貝の写真
イイダコとり用の二枚貝

イカ漁用具

 泊の漁撈用具の中で、100点以上の資料があり、最も充実したコレクションはイカ漁に関する用具です。イカは現在でも鳥取県の名物であり、県民にも人気の食材ですが、資料館にはシマメイカ(スルメイカ)、シロイカ(ケンサキイカ・ブドウイカ)、アオリイカ、コウイカなどをとる用具が揃っています。

 このイカ漁に関する資料はかなり古い形態のものもあり、その詳細についてはまだ調査を継続中です。今後、詳細について報告していきたいと思います。

 

水面近くにいるイカを釣る用具「ハンジキ」の写真
水面近くにいるイカを釣る用具「ハンジキ」
深い場所にいるイカを水面近くに誘いだす用具「ソコマタ」の写真
深い場所にいるイカを水面近くに誘いだす用具「ソコマタ」

今後の課題

 漁撈用具については充実した資料ですが、特に充実しているイカ漁関係用具に関しても、どの程度総体的なコレクションであるかまだ不明瞭であり、継続的な調査が必要な状況にあります。

 また漁撈関係資料は、当然ながら塩水に浸かって使用されたものがほとんどで、腐食が進んでいる資料もあります。これらをどのように保存するかや、収蔵方法も今後の大きな課題となります。

(注1)平成22年10月現在作成中。

(注2)釣り針などの場合、同類の資料として一括して1点としているため、実際には資料点数よりはるかに多くの資料が存在します。

(注3)延縄は、「はえなわ」と読むのが一般的ですが、泊地区の漁師は「のべなわ」と呼びます。

(樫村賢二)

最近の活動から:中世史料調査を実施

 古代中世部会では、2010(平成22)年9月16日から19日まで、東京大学史料編纂所と神奈川県立金沢文庫において史料調査を実施しました。

金沢文庫での史料調査様子の写真
金沢文庫での史料調査の様子

 このうち、東京大学史料編纂所では、国宝の「島津家文書」をはじめ、「『宸翰集(しんかんしゅう)』所収文書」や「松浦文書」の原文書を調査し、釈文(しゃくもん)の作成や校訂を行いました。

 また、金沢文庫では「称名寺所蔵文書」に含まれる鎌倉~南北朝時代の鳥取関係の古文書を調査し、内容・法量等を確認した上で、1点ごとに写真撮影を行いました。

 貴重な原文書の調査・撮影を許可していただいた関係者の皆様に深く感謝申し上げます。

(古代中世部会 岡村)

活動日誌:2010(平成22)年9月

1日
共同民俗調査(~2日、県中部平野湖沼部、樫村)。
2日
新鳥取県史専門部会(古代中世)(県立公文書館会議室)。
3日
六部山3号墳現地確認(鳥取市久末、湯村)。
4日
県史編さん協力員(古文書解読)東部地区月例会(県立博物館、坂本)。
5日
県史編さん協力員(古文書解読)中・西部地区月例会(倉吉市・米子市、坂本)。
民俗調査(大山町赤松、樫村)。
6日
古海遺跡出土縄文土器調査指導(県立公文書館分室、湯村)。
8日
民具調査(鳥取二十世紀梨記念館、樫村)。
15日
民具調査(鳥取二十世紀梨記念館、樫村)。
16日
中世史料調査(~19日、東京大学史料編纂所・神奈川県立金沢文庫、岡村)。
17日
民俗・民具調査(松江市八束町江島・同市美保関町森山、樫村)。
21日
民具調査(湯梨浜町泊歴史民俗資料館、樫村)。
22日
民具調査(鳥取二十世紀梨記念館、樫村)。
25日
出前講座(まなびタウンとうはく、坂本)。
民具調査(湯梨浜町泊歴史民俗資料館、樫村)。
28日
資料調査(鳥取市佐治町総合支所、大川)。
古墳測量入札(県立公文書館会議室)。
29日
遺跡再整理協議(倉吉博物館、湯村)。
資料調査(智頭町誌編さん室、大川)。
民具調査(湯梨浜町泊歴史民俗資料館、樫村)。

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編集後記

 日々秋も深まっています。味覚の秋といいますが、今は二十世紀梨の時期は終わって、西条柿が旬を迎えています。また海産物では夏から秋が旬のイカも美味しい時期です。今回は、湯梨浜町泊の漁撈用具を紹介しました。味覚を楽しむと同時に秋の味覚に関係した博物館や資料館にでかけて、学習の秋を実践してみてはいかがでしょうか。

(樫村)

  

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