石こけしの誕生から現在までの歴史

日野町の民芸品のひとつ、石こけし。自然の玉石に絵の具で描いたかわいらしいこけしです。

日野町の石こけしの発案者は、奈良県出身の故樋口圓石(ひぐちえんせき)(本名 喜助)さん。
今から約半世紀前の1957年(昭和32年)頃、旅の途中に日野で病に倒れ、旧日野病院(当時日野町根雨)に入院。入院していたある日、病院近くを流れる日野川の河原で、玉石が2つ重なっているのを見て、「上の小石に顔を、下の大きな石に着物を描けばかわいい石人形になる」と思いつき、石こけしが誕生しました。

1960年代後半には石こけしの人気が高まり、東京や大阪の物産展に出展するなど国内からの需要はもとより、ヨーロッパやアメリカなどの海外に年間約1万6千個を輸出するなどの盛況ぶりでした。1970年(昭和45年)には大阪で開催された日本万国博覧会(万博)にも出展。当時は、鳥取県西部の家庭の主婦を中心に約170名の書き手がいました。
しかし、80年代に入ると護岸工事の影響もあってか玉石がなかなか手に入らなくなり、その後、作り手の高齢化などもあり、あまり作られなくなっていきました。

しかし、近年になって「優れた民芸品を将来に残そう」と有志が立ちあがり、2001年(平成13年)に「石こけし保存会」を結成。全国こけしコンクールで銅メダルを獲得し樋口さんから後継者として「美石」という画号をもらった小川宇佐美さんを指導者に迎え活動を始めました。2002年(平成14年)には、鳥取県で開催された国民文化祭にも出展されました。

現在は、月に一回程度会員が集まり、思い思いに石こけしづくりに励んでおられます。
  

石こけしの魅力

石こけしは7センチ大から20センチ大のものまでサイズはいろいろ。
自然の石に特殊な絵の具を筆で丹念に描いていきます。

「アベック」
 男こけしと女こけしがペアで1セットになっています。
 女こけしの着物の柄が細かく描かれていて、実に見事です。

石こけし(大)

石こけし(小)


「子守り」
 子をおぶったお母さんこけし。
 母と子の頭の石が絶妙なバランスでのっています。
子守り



※「石こけし小唄」もあります  → PDF(1035KB)
  

石こけしづくりの現場リポート

平成23年5月、日野町山村開発センターにて石こけしづくりの現場を取材させていただきました。



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現在、「石こけし保存会」で指導をされている小川美石(本名 宇佐美)さんにお話をうかがいました。

石こけしづくりを始められたきっかけは?
  圓石先生がご健在だった1962年(昭和37年頃)に石こけし作成講習会に参加し、石こけしづくりの楽しさに惹かれて圓石先生に師事するようになりました。


石こけしの魅力とは?
 素朴で、観ていると気持ちが和むところですね。「石こけし」はなんと言っても顔が命です。無表情の中にも素朴なかわいさがにじみ出るような表情に描くのが、一番大事であり難しい部分なんです。


石こけしづくりで大変だったことは?
 昔、石こけしづくりが最盛期で注文がたくさんあった頃、昼間は農作業や家事、子育てで忙しかったので、家族が寝てから深夜まで、ときには徹夜をして石こけしを作っていました。注文品は期限があったので、とても大変でした。でも、「やめたい」とは思いませんでした。やっぱり、石こけしを作るのが楽しくて好きだったからですね。今は、ゆっくりと楽しみながら、のびのびと描かせてもらっています。(笑)

 あと、意外と大変なのが、材料となる玉石の確保です。2つの石をのせられるような安定したまるい形で、頭と体のバランスがとれる大きさを兼ね備えた石をペアで用意しないといけないので、なかなか難しいんです。


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普段は柔和な口調でおだやかな印象の美石先生ですが、石こけし作成になると、「(着物の模様の)松葉はもっと細く、でも力強く描きましょう。やりなおしてください。」など、厳しい指導が飛びます。

「私は、10年くらい石こけしづくりをしていますがなかなか思うようなものは描けません。顔が上手く描けなくて何度も描き直しをしてしまいます。」と笑う会員さんたち。
ときにはお茶を飲んで談笑したり、楽しみながら石こけし作成に励み、技術の向上に努めておられます。

また、会員さんの中には、美石さんの娘さんもおられ、「子どもの頃は石こけしづくりに全く興味がなかったんですが、大人になって母の作品に触れ、優れた民芸品の伝統を後に伝えていく必要があると感じました。今では保存会会員として石こけしを作っています」とのこと。

このように、半世紀の石こけしの歴史の中で、一時期とぎれそうになった石こけし伝承の糸は、石こけしを愛する人たちの手によってしっかりと繋がれてきています。

  

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